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2019.04.10

サッカーの不可視化要素 認知や心理、雰囲気などについて

「プレーモデルと戦術は違う。試合の戦術は、人間に服を着せるようなもので、サッカーの大部分となる根幹はもっと深く、長い年月の積み重ねであり、多くの要素が関係する。」

と述べるの は、スペインサッカー戦術を解説するWebサイト『Super Crack』の編集長で、スペインコーチ ングライセンス最上級を持つ栗本悠人氏。

サッカーを勉強するにあたり、システムや戦術のみならず、見落としてはいけない観点が他にも数 多く存在する。

現在の情報社会において、ヨーロッパの練習方法や戦術を容易に手に入れること ができるようになったからこそ、今回は、ただ見ただけではわからない、心や脳のような、目に見えない事項についての観点からサッカーの全体を考える。

事例1~選手の”認知力”

「選手はボールを受ける時にいつも認知、次に決断、最後に実行を行うが、この中でも認知が大 きな役割を担っている」

元アーセナル監督アーセン・ベンゲル氏は、プレー中の状況を認知する能力の重要性について、こう説いている。

「ボールを受ける前にできる限り多くの情報を集めることが重要で、私はそれを『スキャニング』 と呼んでいる。1秒あたりのスキャニング回数が多いほどパス成功率が高い。」

かつて、ジェラードやランパードといった名プレイヤー達のスキャニング回数がプレミアリーグで もトップの回数を誇ったことをデータと共に明らかにし、選手たちがプレー中にいかにピッチの 状況を把握するかについて語った。

・認知→決断→実行

・認知の重要性

事例2~指導者の”決断力”~

日本人初ヨーロッパプロリーグ監督としてSVホルンを率いたことのある濱吉正則氏は、「監督の 仕事は、”決断”することだ」と話す。

選手のみならず、監督の立場でも、状況認知し、決断、実行 といったプロセスが大事となることを示唆した。

同時に、即座に決断をするということは、より 多くの情報をスキャニングしなければならないと考える。

当たり前のようで、この作業がなかな か難しいことなのかもしれない。

本田圭佑がオーナーとなった同クラブでも国や文化、風習、民族の違いから、決して容易な環境や雰囲気ではなく、本場ヨーロッパでのサッカーへの価値観の違いは予想以上に大きい。

その中 で、試合の勝敗を左右する采配の決断をするというのは非常に難しいことであると伺える。

・決断の重要性

・クラブ毎のサッカーの価値観

事例3~外的環境からくる心理状態

 La Liga アラベス対アトレティコマドリードの試合で、ホームのアラベスが強敵アトレティコに0 4と大敗を喫したにも関わらず、アラベスサポーターが試合終了まで絶えず応援し、試合後には選 手たちに大きな拍手を送った。

さらに相手MFトーマスの見事なミドルシュートにも立ち上がって 拍手を送る姿勢がとても印象的であった。

これにはアラベス所属の乾貴士選手も感動したことを 取材陣に話している。「あの暖かく、熱い雰囲気をサポーターに作ってもらえると、物凄くプレーしやすい。モチベーションが上がる。」といったように、環境や雰囲気からくる心理面がプレー に影響を与えることを示唆した。

・雰囲気や環境が心理面に与える影響

・心理状態がプレーのバフォーマンスに繋がる

以上の3つの事例から言えることは、数字や結果、技術や戦術以外の可視化されにくい部分も、 サッカーを語る上で欠かせない要素であるということである。

近年、ビッグデータを取ることに より、選手の走行距離やチーム戦術の分析が一般的にされる中で、見落としてはならない視点、 意外と見落としやすい視点があると考えられる。

育成年代での理解

特殊な例もある。

内藤(2017)は、ネイマール選手と他のトップレベルのプロサッカー選手の運動中の脳活動を比べ たところ、「ネイマール選手の脳は,非常に多彩な足技のフェイントを保有しており,実際に身 体を動かさなくとも,これらのフェイントをつぎつぎにリアルにイメージすることができること, 効力の高いシナプス結合をもつ運動野足領域の少ない脳活動によって,足運動を効率的に制御し ている。」

と述べ、小さい頃からの動きの自動化の重要性を説いている。

これは、前述の3つの事例とは逆に、幼少期からの訓練の反復により、認知したり、考えたりしな くても、身体がイメージ通りに動くという超一流ならではの特殊な例である。

これらのことはトップレベルのカテゴリーのみに起こり得ることではなく、サッカーをする全ての選手、または指導者が理解するべき点である。

中村ら(2011)は、パス&ゴーの中でのコーチングの重要性を説いている。

フランスやスペインで は、パス&ゴーというシンプル且つ最も基礎的な練習の中に、技術、戦術、フィジカル、メンタ ルの要素を常に取り入れるように練習メニューを組む。

スペインは、特にデスマルケというマークを外す動きを強調する。

小学生年代から、一つの練習でさえ、このような複数の要素を意識させ ることで、本当の意味での”考える力”や”賢い選手”が育つのではないであろうか。

無数の要素

サッカーには、語りきれないほど無数の要素が存在し、日々進歩している戦術とは、この全ての要素をくまなく理解し、相関させ、理想のスタイルが生まれるものであると考える。

この無限の可能性こそが人々を虜にする所以ではないか。

 【参考文献】

 footballista (2019)「ベンゲルが説く『認知』の重要性 一流と二流を分ける『スキャニング』 とは?, < https://www.footballista.jp/column/62704 >

内藤栄一 (2017)「超一流サッカー選手の脳活動の特殊性」, 『計測制御』568p.588-594, 計測自動制御学会.

中村泰介, 河端隆志, 小田伸午 (2011)「サッカー育成年代における『流動性』を可能にするコ ー チング法の国際比較研究一フランス・スペインの現地調査をもとに一」, 『日本体育学会予稿集』 第62p.229, 日本体育学会.

 

※こちらも合わせてご覧ください

欧州サッカー文化の日常化 日本とスペインの大きな差とは
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/spain-japan-soccer/

スペインと日本の比較~プレーモデルと今後の可能性について~
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/japan-spain-soccer/

 

執筆者
今村匠実

慶應義塾大学政策・メディア研究科にて、スポーツ心理学、社会学を専攻し、修士号を取得。柏レイソルユース・流経大柏、慶應大学など、名門チームでプレーし、全国優勝を経験。文武両道をモットーに、スポーツのみらず、学校の勉強や課外活動にも力を注いできた。小学校二年生時に作文「オーイ、じいちゃん」で厚生大臣賞を受賞(日本一)したことをきっかけに毎年作文での全国区での受賞を続けた。現在は、海外のプロリーグでプレーしながら、TERAKO屋学習教室(2011)、株式会社G.M.A(2015)、TWINKLES (2016)、TAKUMIアスリートアカデミー(2016)を設立し、多岐にわたる活動に勤しむ。

【職業】
リーガエスパニョーラ Deportivo Alaves 経営スタッフ
Nanclares 選手(スペイン5部)
株式会社G.M.A 取締役
TERAKO屋学習教室 代表
TAKUMIアスリートアカデミー 代表

【競技歴】
柏レイソルU12.U15
流通経済大学付属柏高等学校サッカー部
慶應義塾大学
Brisbane Force(オーストラリア2部)
Onehunga Sports(ニュージーランド1部)
スペインリーグMasnou C.D
Nanclares 選手(スペイン5部)

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