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2017.06.08

スポーツとは何か?本能的な欲求 運動 遊びから考える

ほとんどのスポーツは、先史時代からその原型が存在していると言われている(機械と動物を使用するものは除外)。古代エジプトや古代ギリシャでも、レスリング、重量挙げ、円盤投げ等様々なスポーツ活動の描写記録が残っている。 

元来優れた戦士になるための鍛錬法としてスポーツが存在したと言われているが、本来的には他者との優劣を競う中で身体運動自体を楽しむという「遊び」の要素が存在した事は間違いない。様々な変遷を経て現代にまで継承されているオリンピックに代表される祭典競技は、戦士になるための鍛錬や争いのための技法を「競う遊び」へと転化させたものだろう。 

古代ローマでは文化の成熟に伴い、鍛錬としてのスポーツではなく娯楽としてのスポーツ活動が盛んになり、一般市民が様々なスポーツに参加する風土が芽生えたと言われている。

歴史を振り返ると、スポーツは鍛錬方法や競争、娯楽等といった目的のための手段的活動として存在しているように思えてくるが、その根底には「身体遊び」自体を楽しみたいという人間の本能的な欲求が存在する事を忘れてはいけない。 

子供は生後すぐに遊びを始める。生後間もない頃は五感を中心とした「感じる遊び」が中心となる。例えばおしゃぶりをなめる、つかむ事で触覚や固有覚(筋活動)を楽しみ、寝返りをうつ事や大人に抱かれる事で平衡感覚への入力を楽しむ。オルゴール等のおもちゃを飽きずにみつめ視覚や聴覚への入力を楽しむ姿もしばしば見る事ができる。例えば子供が様々なものに触りたがり、口に入れたりする行動や、「高い高い」を繰り返し楽しむのは、この「感じる遊び」の代表例であろう。 

「感じる」機能の向上に伴い平衡感覚、固有覚も発達し、子供が能動的に移動可能な範囲が拡大する。すると、休む事なく這い回る、歩き回る、走り回る様になるが、これは「移動」という行為から生まれる五感・平衡感覚・固有覚自体を楽しみたいという本能的な欲求により発生するものだと考えられる。

この「移動を楽しむ」という行動は移動能力自体がある程度完成を迎えると、次にその能力を競い合うようになり、かけっこや押し合い、等、様々な身体活動を「競う遊び」の基礎を形成していく。

競う遊びはスポーツ活動の原型であるが、そこには「感じる遊び」には無かった対外的な世界が存在する。競う遊びのためには相手が必要になり、自己の内的感覚だけでは遊びが成立しなくなる。そのため、自分のやりたい遊びと相手の主張を一致させ、相手のやる気を喚起するなど、対外的コミュニケーションの技術が少なからず求められようになる。また、競う遊びにおいては「何を競うか」というルールの概念や、年齢の高い子供が小さな子供に対し不利な条件で遊ぶなどの公平性の概念などが発生し、より文化的・社会的な活動の意味合いが強くなっていく。

当然、競い合う遊びには勝敗という結果が生じる訳だが、あまりに力の差がある競い合いでは勝者敗者双方にとって楽しさを感じる事は難しいだろう。ルールの存在はより公平な条件で勝敗を競い合う事を目的とするものだが、そもそも公平性を期する目的は、双方がより競い合う事を楽しめるようにするものである事が分かる。

子供達が独自のルールを決めて遊ぶ姿はよく目にする事がある。これは先述したように、体格や年齢の差を超えて遊びを楽しむ目的で行われていると考えられる。もし子供が単に「勝敗」を決する事を楽しんでいるのであれば、こうした行動を取る事はない。勝敗を決する事ではなく、「競い合う」事自体を楽しみたいからこそ、自発的にルールを決めて遊んでいるのだろう。

競い合いを楽しむためにはルールの存在が不可欠であり、ルールを無視した競い合いは単なる力の誇示や暴力に成り兼ねない。子供が遊びに向かい合う姿には、大人が学ぶべきルールの本質が存在している事はとても興味深い。

子供の遊びは生後すぐに始まり、身体遊びからスポーツ、より文化的な活動等様々に姿を変えて一生涯継続する。遊びの本質は「楽しさ」であり、どんな行為であれ楽しさがあれば遊びとなり得るものだ。また、ルールの下であれば社会的責任や他者の価値観を押し付けられるものではなく、それ自体を楽しむための極めて目的的な活動であると言える。

スポーツ指導においては、「結果が全て」と言われる場合もあれば「プロセスが大切」と言われる場合もある。しかし、子供達が行う遊びがスポーツの原型に存在すると考えた時、「競い合う事を楽しむ」事をスポーツの目標にするという考え方が存在する事に気が付く。

プロセスや結果は他者と比較した相対的なものである事が多いが、「楽しむ」事は自己の絶対的なものだ。技術や戦術、練習法を選手に伝える力は指導者には不可欠だが、楽しみながら何かに没頭する時の快感や自己効力感を選手に伝えられる事こそがスポーツ指導の真髄なのかも知れない。

 

執筆者紹介
山木伸允

Movefree代表 
Athla conditioning arts 代表 

□サポート経歴
桐光学園高校バスケットボール部
慶應義塾大学体育会バスケットボール部
慶應義塾大学体育会剣道部
早稲田大学アルティメット部
明治大学体育会バスケットボール部
明治大学体育会バレーボール部
bjリーグ京都ハンナリーズ
bjリーグ東京サンレーヴス 他

□学歴
早稲田大学商学部卒業
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了
慶應義塾大学大学院後期博士課程健康マネジメント研究科スポーツマネジメント専修単位取得満期退学
日本鍼灸理療専門学校卒業

□保有資格
ナショナルストレンス&コンディショニング協会認定スペシャリスト
日本体育協会公認アスレティックトレーナー
鍼灸あん摩マッサージ指圧師
National Academy of Sports Medicine Performance Enhancement Specialist / Corrective Exercise Specialist
EXOS Performance Specialist
メンタルケア学術学会メンタルケア心理士

 

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