マルチスポーツの問題点 トップアスリートの過去の真似は万人に有効な方法か

渋野日向子さんの活躍で「二刀流」が話題になり、マルチスポーツという考え方が広く周知されるようになりました。

しかし、このような話題がメディアで取り上げられることはジュニアスポーツ界に与える影響力は大きく、指導者が本質を理解していないと子ども達に悪影響を及ぼすのではないかと危惧しています。

トップアスリートの過去の真似は、万人に有効な方法か

私は、トップアスリートを目指す子どもの発達と一般的な子どもの成長発達の話を混同させない方がよいと思っています。

そもそもマルチスポーツの考え方はトップアスリートが子どもの頃、他のスポーツに取り組んでいた割合が高いというエビデンスから啓蒙されています。

しかし、トップアスリートになった人たちの過去を真似て、子どもの育成を考えることは万人に有効な方法とは思えません。

スポーツをすることの意味が「トップアスリートになること」という偏った思考になると、子ども達の目標が強豪校の「◯◯高校に合格する」「◯◯大学に進学する」そしてプロの「◯◯チームに入団する」などといった画一化した目標になってしまうという問題が起きます。

このような夢はどのような子どもにもあてはまるものではありませんし、スポーツの意味をもっと広い視野で考える環境を与えるべきだと思います。

このようなことを書いていると私がマルチスポーツを否定しているかのように思われるかもしれません。

しかし、そうではないということをこれから少しずつ説明していきたいと思います。

多様な運動と多様なスポーツの違い

昨今、子どもの運動不足からくる不器用さが目立つようになってきました。

この問題解決には子どもが運動する場所の確保とその活動内容が重要となります。

公園で自由に遊ぶことのできない現代社会では、運動する場所の確保としてスポーツ教室が注目されるようになりました。

その結果スポーツ活動が盛んになり、スポーツすることで子どもの運動不足が解消できるという風潮になってしまったのです。

しかし、そのことはスポーツの早期専門化を助長し、成長期におけるスポーツ障害という新たな問題を引き起こすことになりました。

幼少期に「多用な運動をすること」と「多様なスポーツをすること」は同じではありません。

幼少期には身体の基本動作を取得し、思いのままに身体を操作できる感覚を養うことが大切です。

まず基礎運動能力を向上させるためには足だけの運動、手だけの運動ではなく全身的な能力を高めなければなりません。

そのために「多用な運動をすること」が求められているのです。

身体の発達が未熟な子どもには、本格的なスポーツをするための準備が整っていません。

そのような子どもがスポーツの技術を習得するのはとても困難なことです。

越えられない技術の壁は、子ども達の自己肯定感を下げてしまい運動離れの原因にも繋がります。

スポーツ技術は、身体を動かす基礎原理と応用する力の上に成り立っているとイメージして下さい。

幼少期にはスポーツをはじめる前にスポーツを楽しむことができるよう、しっかりとした土台を作ってあげることが指導者の役目なのです。

また、スポーツをすることは定式化された型を求められているものなので、適応行動が外からの要求に縛られ自発的行動が低くなります。

これでは、言われたことはできるが自分で道を切り開くことの苦手な子、すなわち指示待ち人間になってしまう可能性があります。

そこで私は、スポーツをするなら大人が関わらない場所あるいはコーチが指導をしない環境で、スポーツごっこをすることをオススメしています。

これをスポーツごっこ遊び「なんちゃってスポーツ」と私はよんでいます。

遊びで行われる活動は、身体の機能以上に負荷がかかることが少なく、スポーツ障害の防止にもなります。

子どもは成長するにしたがって、自力でできることが増えていきます。

するとその新しい力を使うことや、その力でできたことに強い興味を示します。

例えば、幼児がボールを手でつかんで投げることができるようになると、何度も繰り返しボールを投げ続けます。

さらに自分の力加減で転がり方が変わったり、壁当てをした時の跳ね返り方の因果関係を発見したりします。

つまり人間には生れながら自ら育つ力が備わっているのです。

子どもには「観察学習」という優れた能力が備わっています。

ごっこ遊びは「遅延模倣」という観察学習の一つです。

「遅延模倣」とは観察した行動を時間が経過した後に再現する能力のことです。

私たちが子どもの頃にはごっこ遊びができる環境がたくさんあり、子ども同士で考え創造する場があったので人工的にその場を作る必要はありませんでした。

なんちゃってスポーツの重要性

昨今は大人の子どもへの関わりが過剰になりすぎて、どこへ行っても大人の監視下のもとで活動しています。

わかっちゃいるけど黙って見守ることができず、つい口を出してしまうという親も少なくありません。

また、スポーツが習い事化していることも悪い影響を与えています。

指導者は技術志向にはしり、いわゆる「先回り指導」が加速します。

このことは「教える」=「学ぶ」という早期専門化のモデルになってしまう可能性があります。

子どもには「快適」で「楽しい」という感情が沸き起こる遊びの中で「体験」=「学び」になってほしいと思います。

まずは身体を動かして自由に遊べる場所を増やし、子ども達だけで行うスポーツごっこ遊び「なんちゃってスポーツ」ができる環境があれば日本流のマルチスポーツが機能するかもしれません。

 

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【プロフィール】

福士唯男

一般社団法人日本スポーツマンシップ協会 理事
NPO法人バルシューレジャパン 理事

専門競技はハンドボール。東海大学卒業後、日本ハンドボールリーグで10年間プレー。引退後、ビーチハンドボール男子日本代表監督として世界選手権に出場した。その後、小学生スポーツに携わるようになりバルシューレの普及、指導者へのスポーツマンシップの啓蒙を行っている。

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