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2017.04.27

スポーツトレーニング理論 哲学的原理  社会速度

科学技術の絶え間ない発展によって人間の生活は日々簡便になっている.科学技術の発展は社会的生産力に支えられており,生産力の発展水準が社会発展の度合を規定していると言われている.社会発展のために労力や時間などを生産コスト化して,それらをいかに減じ短縮して生産効率を向上させるかが社会的課題となっている.

戦後の高度経済成長期においては大量生産大量消費の思想の下に労力や資源の,特にそれらの量的投下によって生産量を向上させた.このような社会思想は,当然ながら運動やスポーツなどの身体世界にも,その影響を与えた.競技スポーツにおいては女子バレーボール「東洋の魔女」に代表される長時間反復練習によって労働成果となるオリンピックでの勝利を得た.その後,オイルショック,経済成長の鈍化を経て重厚長大の産業構造は陳腐化し終焉を告げ,そのアンチテーゼとしての省エネ社会,労働の質的変化と変遷した.それまでの労働と時間の量的投下による生産思想から効率化へと思想転換する.それは原単位の低下による生産効率向上であった.求められるのは労働コストの削減による生産量の増加という矛盾した状態を生み出した.

近代産業構造が求めるものは時間当たりの生産性向上,言い換えると生産にかける時間を短縮すること,一言で表すと速度であった.産業革命以降,資本主義の労働生産構造が近代社会の社会発展に影響し現在の社会構造を生み出したと言っても問題ない.さらに現代社会は情報革命によってさらに社会生活,産業構造に大きな変革が起こり,新たな社会思想をもたらした.膨大な情報量が光速度で拡進する.情報伝達速度の超高速化は必然として社会速度を加速させた.

高度情報化通信ネットワーク社会においては,あらゆる分野,状況において求められるのはアクセスの速度,即応性や即効性である.今やパソコンなどの表示やその転移,情報へのアクセスに数秒要するだけで,その時間が数分にも数十分にも感じるほど,社会速度が現代人にもたらした時間の主観性の感覚変化は過大である.さらにIT革命による高度情報通信ネットワーク社会はICT,IoTへと進化している.

重厚長大,大量生産大量消費のエネルギー浪費時代が終焉を告げ,省エネルギー化社会を標榜し効率性や合理性が追及された.人間の生活も量から質への転換が先進的であると考えられるようになった.しかし質の時代と言われながら機械論的社会になりつつある.人は情報ネットワーク介して交流し,そしてモノをコントロールしようとしている.ワンクリックですべてがインスタントに完了できる.ありとあらゆるモノがネットワークを媒介にして接続することは,人間の間における社会性やコミュニケーションが非接触的,間接的になっていくことにつながる.

一層の高度情報通信ネットワーク社会は自己本位的,そして機械論思想に到達する.機械論的社会は,その構造,性質上,合理性,特に時間的合理性と生産効率の追求が顕著になる.時間コストが原理化することで即時性,即効性が求められる.運動やスポーツ活動において即効性を求める風潮は歴史的背景,社会構造,社会的思想によるものと考えられる.当然ながら運動は人間の身体活動で,その一辺がスポーツ活動であるわけだから,現代社会思想に囚われた者が関わる運動やスポーツにおいても即応性や即効性が求められる.

かつて武芸,技芸は長い年月の体験により修養するものであった.伝えられるところによると剣豪宮本武蔵は六十数年を要して剣の道を追求した.世阿弥は風姿花伝の年来稽古条々の中で五十年間にわたる稽古の過程を記している.修養の道程は暗中模索である.弓道を極め,禅との間に密接なつながりを探求したオイゲン・ヘリゲルが,その修養過程を記した著作において,求道の過酷さを語っている.

 

執筆者紹介
小俣よしのぶ

現職
一般社団法人Sports Business Academy /FMチーフコーディネーター
石原塾 /スクール技術部統括マネージャー
経歴
筑波大学大学院修了
筑波大学大学院非常勤研究員
筑波大学産学リエゾン共同センター客員研究員
競技スポーツのトレーニング指導,高等教育機関教員を歴任し,大学や専修学校におけるコーチ・トレーナー教育に長年携わる
研究テーマ
社会主義国のスポーツトレーニングシステム,特に東独,キューバなどのシステム
強化システム,ジュニアユースからトップ選手までの適性選抜システム

 

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