2018.09.26
GKのフレームワークと各状況における原則~GK練習のための状況整理~
GKに求められるプレーは敵味方を含めた戦術や試合のスコア、ボールやピッチの状態などの影響を受ける。
そのため状況に適したプレーの選択をするためには各状況で求められる項目を整理する必要した上で練習に落とし込んでいく必要がある。
今回はGKのフレームワークを基に、いくつかの状況について触れていく。
GKのプレーは上記の図のようにまとめる事ができ、プレー分析の際には最も基本的な枠組みともなる。
ゴールを守るプレー
「GKはコンマ何秒を争う世界」と言われるが、それは無い事実である。
シュートマシーンによる計測では11mから時速100kmでシュートを撃った場合、僅か0.4秒でゴールに到達する。
与えられた時間内でゴールを守る際は「仮ゴールを小さくする」もしくは「反応時間を稼ぐ」というプレー原則を使い分ける必要があり、適用すべき原則は状況によって変わる。
大まかには至近距離と遠距離で使い分ける事ができ、ドイツではゴールの中央を中心に半径16,5m以内を至近距離、それ以上を遠距離と一般的に表現される。
(仮ゴールとは自分とボールの位置関係から作り出され、統計上ではボールとの距離が近ければ近いほど小さくなる。)
近距離からのシュートでは、元々の反応時間が少なく効果的に守るためにはプレーエリアを限定する必要があるからであるため、基本的に「仮ゴールを小さくする」を選択すべきである。
これは1対1の状況でも有効であり、「ボールと自分の位置関係」「相手とボールの状況」に応じて「反応」「ブロック」「突撃」を使い分けなくてはならないのだが、ゴールを離れるタイミングが早すぎるとニアサイドや頭上にシュートスペースを与えてしまうことや最善な距離になる前にシュートを撃たれることで仮ゴールが小さくならないだけでなく、反応時間を失う事にも繋がる。
「反応時間を稼ぐ」とは「相手との距離を保つ、遠くする」とも言い換える事ができ、ヘディングや遠距離からのシュートに対して有効である。
近距離に比べて仮ゴールが広いため、GKアクションに入る前に横へ移動が必要となる場面が多い。
特にカーブの掛かった軌道の際にはGKアクションに入る前に1〜2歩の移動を必要とする可能性が高い。
また、ボールまでの距離が遠いため、ボールの軌道やスピードの認知や他選手でボールが隠れる事で動き出しが遅れる可能性もある。
ドイツサッカー協会がベースのGK育成に推奨している「ゾーンモデル」というペナルティエリアを3つに分けたモデルでは、「仮ゴールに応じてどの技術が有効であるのか?」「どのタイミングで前に出るべきなのか?」の基準を示しているが、ペナルティエリア内に敵味方が複数人いる場合などの複雑な状況ではボール保持者に対するプレッシャーの掛かり方次第で「時間を稼ぐこと」も必要になる場面も存在する為、判断を手助けする最も基本的なモデルとして扱われている。
空間を守るプレー
空間を守るプレーとはクロスボールとスルーパスへの対応である。
「直ぐにゴールを守る準備ができる」という前提で「できる限り広いスペース」を守らなくてはならない。
つまり、クロスボールに出ないと判断した時には、直ぐにゴールを守るために最善なポジショニングや体の向きになれるような状態でなければならないという事だ。
クロスボールに対しては、斜め45°より更にオープンで立つことを状況に応じて私は推奨している。
これによりファーサイドへのクロスボールに対してもタイムロスがなく動き出しが可能になる。
また、ゴールを守るプレーへの準備やアクションがスムーズになる。
特にGKとDFラインの間にグラウンダーのクロスボールが蹴られた場合には「相手との距離を詰めながらブロック」ができる状況へスムーズに持ち込む事ができる。
また、近年ではドリブルによるサイドからエリア内侵入やグラウンダーのマイナスクロスが多く見られ、その状況ではニアポストの前にクローズドスタンスで立つGKが増えた。
どのスタンスにおいても重要な事は「そのポジショニングと身体の向き」から自分のプレー可能エリアを常に把握しておくことである。もちろん、スルーパスの対応に関しても同じ事が言える。
オフェンス
オフェンスではゲームスピードを調整することが求められる。
例えば、ボールキャッチ後では、ゲームコンセプトを基に「カウンター」か「後方から組み立てる」の判断が問われる。
その際に第一の判断基準になるのが「相手の状況」である。
相手の背後やライン間にスペースを見つけた際には、そのスペースが中央であれば原則として足元、サイドであれば受け手のプレー方向に配給をする事でゲームスピードを上げ、カウンターを仕掛ける事ができる。
しかし、その際の技術選択だが、GKのオフェンス原則は他選手と同じであるが、「確実性」という意味合いが含んでいる事は念頭におくべきであろう。
低い弾道のパントキックは飛距離も伸び、最も早く前線にボールを送る事ができる手段ではが、キック、味方のコントロール精度共に確実性がなければボールを失ってしまう。
一方でスローでもスピードアップをする事が可能であれば、確実性が高いこちらの方が一般的に優先順位は高い。
逆にセットプレーの直後であればコンタクトや空中戦に強い相手がDFにいない可能性もあるので、精度が伴えばパントキックでカウンターを狙うチャンスは多いであろう。
また、相手の陣形が整っているのであれば、近くの味方に繋ぐことや、高めの弾道でロングボールを蹴ることでセカンドボールを狙う事が無難であろう。
柔軟なプレー選択こそが重要
簡単ではあるが、以上がGKプレーの一部である。
冒頭にも述べた通り、求められるプレーは戦術や状況によって変化していくためも柔軟なプレー選択はGKにも必須である。
また、整理すべき基本的な状況は他にも多数存在するため、それらを含めて各状況で求められている原則や判断基準を示す事はGK育成に非常に重要視されている。
参考文献
Schnelle Spielfortsetzung durch den Torwart nach Ballgewinn (Knoop & Greiber, 2011)
Entwicklung einer Testbatterie für den Fußball-Torhüter (Ferrauti, Knoop, Pischetsrieder & Lange, 2009)
ドイツサッカー協会GKコーチ養成講習会内容
グラフィック作成;ドイツサッカー協会ホームページ
執筆者
落合 貴嗣 / Takatsugu Ochiai
1989年生まれ 29歳
日本大学文理学部体育学科を卒業後、2012年に渡独。ドイツ・ケルン体育大学にてスポーツ科学を学びながら、当時U-19ブンデスリーガ・ウェストに在籍していたSCフォルトゥナ・ケルンU19にてGKコーチとして活動。現在は同クラブのGKコーディネーターを兼任してGK育成コンセプトを作成するなど、ドイツ協会公認の育成アカデミー、通称『NLZ』の認可を受けるための活動をしている。SNSで情報発信も行なっている。
Blog: https://ameblo.jp/takatsugu-0413/
Twitter: https://twitter.com/takatsuguFC