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2017.12.20

栄養と感情 セロトニンという物質について

スポーツ少年には少ないのかもしれませんが、最近目立つようになったイライラや切れやすい原因には、「脳内セロトニンの不足」や「末梢セロトニンの過剰」が深く関わっているように思われます。

セロトニンは、血管の緊張(伸縮)を調整する物質として発見されたことから、serum(血清)とtone(トーン)に由来しています。

しかし、その後の多くの研究により、セロトニンには、同じ物質ではあるのですが作用の全く異なる、①脳内で合成され癒し系の神経伝達物質として働く「脳内セロトニン」②腸管で合成され腸管や全身の炎症性・刺激性ホルモンとしての働く「末梢セロトニン」ある事が分かっています。

また、体内には約10mgのセロトニンが存在し、末梢セロトニン(腸管に90%、血小板などに8%)、脳・神経系には僅か2%が存在しているといわれています。セロトニンは脳の形成にも重要な物質であり、妊娠時には胎盤でも合成されます。

脳内セロトニンの働き

脳内セロトニンは体内セロトニン総量の2%以下と量的には非常に少ないのですが、感情や神経活動を実質的に支配している非常に重要な癒やし系神経伝達物質です。

例えば、感情(喜怒哀楽)を支配するドーパミン(喜楽)やノルアドレナリン(怒哀)などの興奮系神経伝達物質に作用して、そのバランスを保つ働きがあります。

脳内セロトニンが少なくなると、片頭痛、うつ病、躁うつ病、パニック障害、認知症、自閉症などの神経障害の原因となり、低体温、無呼吸症候群、過食などの原因にもなることが知られています。

体内(腸管)で合成されるセロトニンは血液脳関門を通過できませんので脳内に入ることはできず、脳内セロトニンは脳内にてトリプトファン(アミノ酸の一種)から合成されます。

なお、脳内セロトニンは脳内トリプトファンの脳内とり込み量の不足や代謝酵素の不足によってセロトニンの合成不足は生じても、過剰に合成されることはありません。

女性の脳内セロトニン合成能力は男性の半分程度であり、トリプトファンが欠乏すると女性では脳内セロトニンの合成量が1/4にまで減少するという研究結果があります。

トリプトファンの脳内へのとり込みは、ドーパミンの原料であるフェニルアラニン(アミノ酸の一種)やロイシン(分岐鎖アミノ酸)など他の脳に必要なアミノ酸と共通の通路を使って脳内に取り込まれます。

そのため血中のトリプトファン量の多少よりも、トリプトファンと他のアミノ酸の比が重要となり、脳内セロトニン不足を解消するためにはトリプトファン比の高い食品の摂取が必要となります。

また、セロトニンの代謝にはビタミンB6、マグネシウム、亜鉛が必要不可欠であり、ビタミンB3(ナイアシン、ニコチン酸・ニコチン酸アミド)の合成経路(キヌレニン経路)とは拮抗関係にあるため、ビタミンB3を不足させないことが非常に重要となります。

脳内セロトニンを増やすには

・マグネシウムや亜鉛などのセロトニン代謝に必要なミネラルを不足させない。

・腸内環境を整える
ビタミンB3やB6をはじめビタミンB群は健全な腸内環境では腸内細菌によって合成され必要量は充足することができますので、腸内環境を整えることが重要です。玄米など玄穀穀類、芋類、豆類、果物、野菜類など食物繊維の多い食品を充分に摂り、乳・乳製品や動物性タンパク質のとり過ぎに気をつけましょう。

・トリプトファン比の高い食品をとる
トリプトファンは、肉類、魚介類、豆類、乳・乳製品などタンパク質を多く含む食品に含まれていますが、これらの食品はトリプトファン比が低くとり過ぎは脳内のトリプトファンのとり込み量を少なくし、脳内セロトニン合成量も減少させることになります。

パンやパスタ、うどんなど小麦食品を米や蕎麦などに変えることによってトリプトファン比は改善されます。また、肉類よりも魚介類、量的には少ないですが野菜類はトリプトファン比は高く、乳・乳製品、とうもろこしのトリプトファン比は低く、ゼラチンにはトリプトファンはほとんど含まれていません。

・筋肉を増やし、筋肉を落とさない(カロリー制限による減量はダメ)。
筋肉はトリプトファン以外のアミノ酸をより多く必要とすることから、筋肉量が増えると血液中のトリプトファン比が高くなり脳内へのトリプトファン通過量は増えます。
逆にカロリー制限などにより筋肉量を落としてしまうと、血液中のトリプトファン比は下がり、結果、脳内セロトニン量も減少することになります。
 
いずれにしても、肉類、乳・乳製品、小麦加工品などのトリプトファン比の低い食品のとり過ぎに運動不足が重なれば、脳内セロトニン不足に陥ることになる可能性が高くなります。逆に、動物性タンパク質を多く摂っても、充分な運動により筋肉を鍛えていれば脳内セロトニン不足は起きにくいということです。(11月度末梢セロトニンの働きにつづきます)

脳内セロトニンの増やし方については、拙著「女の子のクスリ」(健康ジャーナル社)を参照ください。

 

執筆者紹介
後藤 日出夫(ごとう ひでお)
1946年福岡県生まれ

工学博士 分子化学研究所(Advanced Prophylactic Support Lab)代表
米国ボルグワーナーケミカル社中央研究所、R.S.インガソール研究所。ゼネラルエレクトリック社中央研究所などにて、高分子ポリマーの合成やレオロジーの研究に従事。米国生活以降、多くの慢性的な疾患を発症するも治癒することなく、薬漬けの生活を長きに渡り過ごす。米国最新医療をもとに、各疾患の発症原因とメカニズム、治療方法を分子レベルの化学反応として捉える調査研究の結果、”食の恐ろしさと重要性”を痛感、試行錯誤の末、独自の疾病体質改善食事療法に辿り着き、数十年におよぶ疾患の全てを完治させた。
この自己体験に基づき、多くの人へ実践の輪を広げ、また指導できる仲間の育成を目的に「分子化学研究所(Advanced Prophylactic Support Lab)」を発足。多くの人が健康で楽しい人生を全うし、それを支える健全で安全な社会環境を築くべく日夜奮闘中。
著書「アレルギー・炎症誘発体質の真実」「片頭痛の治し方」「糖尿病がよくならない本当の理由」「女の子のクスリ」「脱認知症宣言」「鉄マグ欠乏症」などがある。

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