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2019.01.21

情報戦とも言われる現代サッカー アナリストという存在とゲーム分析そして情報過多による落とし穴

昨シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝ファーストレグ、バイエルン・ミュンヘンvs.レアル・マドリード。

ブンデスリーガの名門であるバイエルン・ミュンヘンはハメス・ロドリゲスのスルーパスを引き出して相手のDFラインの裏へ抜けたキミッヒがクロスボールを上げると見せかけてシュートを撃ち先制点を挙げている。

結果として2-1で敗れているが、試合後に次のようなコメントを残していた。

“ Ich wusste es im Vorfeld, dass er oftmals spekuliert“

『彼(ナバス)が度々勘でプレーをする事は事前にわかっていた。』

キミッヒがナバスのプレー情報についての入手方法については言及がされていないが、僅かなプレーの傾向も洗い出されて対策が練られてしまう情報時代の現代サッカーを表している一言だと個人的には思う。 

アナリストの存在

情報戦とも言われる現代サッカーにおいて、このような有益な情報を手に入れ、実際の試合に生かすためにアナリストの重要性が年々増している。

情報を基にして効果的な戦略や戦術を錬れる事が試合の結果を左右する事も少なくない。

アナリストの仕事は一般的に、莫大な情報の中から相手のプレーモデルや本人たちも気付かないようなクセを見つけ出し、その相手と対戦時のゲームプランを立てやすくする事である。

しかしながら、それに費やす時間は莫大である。

サッカーのチーム分析あれば、1試合90分の試合を数回見直すこともあり、そこで発見した傾向は他の試合でも見られるかどうかの保証はない。

そのため複数の試合をチェックして裏付けを行わなくてはいけのだ。

加えて個人分析も行うのであればコーチングスタッフで行うのは時間的に難しく、チェックしきれない情報を集めるために、専属のアナリストが必要とされている。

アナリストは監督のニーズに合わせた分析や新たな視点を与えるような分析を行う必要がある。

ゲーム分析の方法

分析を始めるにあたり、チェックしている試合のフォーメーションを抑えておく必要がある。

そして、刻々と変化する試合の状況下でのフォーメーションの変形をチェックする必要があるので、状況を正確にカテゴライズしておくことも重要だ。

サッカーは『攻撃』『守備』『攻撃から守備への切り替え』『守備から攻撃への切り替え』の4つの状況に分けられるが、実際にはその基本状況がさらに細分化されている。

例えば、攻撃であれば『ゲームの組み立て』『チャンスメイク』『シュートチャンス』という分け方が可能であり、『ゲームの組み立て』もハイプレッシャーの状況、相手がプレッシングゾーンを設けて待ち構えている状況でのゲームの組み立て方は変わってくる。

特定の状況での打開策が1試合を通して一貫して見られるのであれば、そのスイッチとなっているプレーがあるので、詳細に見ていく必要がある。

もちろん、その試合だけの特徴や、偶発的に起きたプレーもあるため、複数の試合をチェックしていく。

このようにして莫大な情報の中から裏付けされた有益な情報を見つけ出し、コーチングスタッフに提供をしていくのだ。

正確な情報伝達の重要性

有益な情報を集める事ができたとしても、それを正確に伝える事ができなければ、誤解を招いてしまう可能性がある。

時間はかかるが、動画編集ソフトウェアで、切り取った動画の中で注目してもらいたい選手やエリアに目印をつける事で受け手側の理解度が上がるだろう。

また、分析レポートを作成する場合に曖昧な言葉を使用してしまうと、アナリスト側と受け手側で認識にズレが生じてしまう危険性があるため、使用する言葉のチョイスには気をつけなくてはならない。

例えば、『多い』という表現は人によって受け取られ方に多少のズレがある。

10回中6回を『多い』として相手のプレー傾向と判断する人もいれば、最低7回でないと多いと感じない人もいるからだ。

実際のプレーを例に挙げるのであれば、ドリブルというプレーは先ほどの状況に加えて『スピードで相手を置き去りにするドリブル』『プレー陣地を奪うドリブル』『相手を引きつけるドリブル』『ボールキープをするドリブル』など、目的が様々であるため、『ドリブル』という言葉一言だと、受け手側に情報が伝わりにくく、誤認の原因にもなってしまうのだ。

伝達をする上で、言葉の曖昧さをなくすためにも、所属しているチームの中で使用している言葉の共通理解を持っておくことは重要であろう。

情報時代の落とし穴

しかし、手に入れた情報が全て有益なものだったとしても、それを全て選手に与えてしまうと情報過多になってしまう危険性もあるのだ。

たくさん有益な情報が手に入るのは良いことだが、その情報を基にして対策を練り過ぎた結果、グラウンドでプレーをする選手たちのキャパシティーを超えてしまい、頭の中が真っ白になってしまっては本末転倒。

対戦相手の過去の試合動画も簡単に手に入るため、多くの情報を得る事が可能ではありますが、その情報の扱い方というのは常に注意をしなくては、本来の力を発揮できずに試合に負けてしまうということもあるだろう。

情報は選手たちの判断を助けてくれるものでもあれば、逆に足を引っ張ってしまう物にもなり得る諸刃の剣であるということを、忘れてはならない。

参考文献

https://www.bundesliga.com/de/bundesliga/news/bayern-munchen-real-madrid-champions-league-kimmich-ronaldo-finale.jsp

 

執筆者
落合 貴嗣 / Takatsugu Ochiai
1989年生まれ 29歳

日本大学文理学部体育学科を卒業後、2012年に渡独。
ドイツ・ケルン体育大学にてスポーツ科学を学びながら、当時U-19ブンデスリーガ・ウェストに在籍していたSCフォルトゥナ・ケルンU19のGKコーチに2015年に就任。
現在は同クラブのGKコーディネーターを兼任してGK育成コンセプトを作成するなど、ドイツ協会公認の育成アカデミー、通称『NLZ』としての認可を受けるための活動をしている。
SNSで情報発信も行なっている。

Blog: https://ameblo.jp/takatsugu-0413/
Twitter: https://twitter.com/takatsuguFC

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