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2018.04.04

少年サッカー怪我予防のために「姿勢」と「怪我」の関係について考える【後編】

後編では、前編で上げた良い姿勢の5つの視点、①力学的視点、②生理的視点、③心理学的視点、④作業能率的視点、⑤美学的視点についてそれぞれ具体的にみていきましょう。

ここで一つ注意すべき点があります。それは、5つの視点はそれぞれがお互いに影響しあう、もしくは重なる部分が多いということです。

あくまで、姿勢をみる時の視点であり、一部を切り取ったものだということを忘れないでください。

 姿勢の力学的視点

力学的視点とは、“安定しているかどうか”という視点です。

地球上のすべての物体には重力が働いていますから、人間の体は地球の中心に向かって真っすぐに引っ張られています。

そのまっすぐに引っ張られた線が、支持している面とどのような関係にあるかで姿勢の安定が決まります。

姿勢の安定の条件は

・重心位置が低い

・支持している面が広い

・重心が引っ張られる線が、支持している面の中心に近い

となります。

例えば、相撲をとっている場面を思い浮かべてみてください。

両脚をしっかり開き、腰を落として低く構え、重心を真ん中に置く。

ちょっとやそっとじゃ動きそうにありません。相手に押されないようにその場で耐える姿勢としては最適です。

しかし、これがサッカーなどの大きく動かなければいけない競技であれば、このような姿勢は相応しいとは言えません。

過度に安定した姿勢では、動き出しの時に大きなエネルギーを必要とします。

そのような動きを続けると、疲労を早めることにつながります。

疲労は、集中力の低下などにつながり、そのような状態でプレーすることで怪我の可能性が高まってしまうでしょう。

逆に、支持面が狭い不安定な姿勢では、大きく動くということに関しては有利ですが、競り合いなどで踏ん張ることが不利になり、かつ転倒の可能性も大きくなってしまいます。

行う動作、その目的に応じた安定性があり、それを場面に応じて使い分けることがパフォーマンスの向上と怪我の可能性を減らすことにつながると考えられます。 

生理的視点

生理的視点とは、疲れやすさの視点です。

言い換えると、どれだけ省エネで立っていられるか?という視点です。

人間が、静かに立っていると基本的には前方に倒れそうになる力が加わります。

それに抗して姿勢を保持しているわけですが、この静かに立っている時に必要な筋活動は、ふくらはぎにあるヒラメ筋が、最も力を発揮した時の5%程度、それ以外の筋は23%程度と言われています。

つまり、姿勢を保持するのにそれほど大きな力は必要ないということになります。

例えば、猫背が問題となるのは、背中が曲がって頭が胸より前に出てしまうことで、姿勢を保持するのにより大きな力が必要となるからです。

頭の重さは5kgほどありますから、それが胸より前に出てしまうと相当な力が必要になることが想像できます。

そのような、状態では通常の状態に比べ速く疲労してしまい、怪我が起こる可能性が高まってしまうと考えられます。

当然、身体がまっすぐに位置している方が、エネルギーの消費は少なくて済みます。

ただし、まっすぐに保持し続けるということではありません。

同じ姿勢で全く動かずにいるということは、常に同じ個所を使っているということになります。

そうすると、その部位が疲労してしまうことになり、次にその部位の活動が必要な姿勢になったとき、うまく姿勢がとれないことになってしまいます。プレーに必要な姿勢がとれないということは、パフォーマンスが高まらず、怪我の可能性が高まってしまいます。

姿勢はある程度のゆらぎをもちつつ、必要となる力がなるべく最少となるようにコントロールされることが大切です。

姿勢に労力を割かなくて済むということは、プレーに集中でき、怪我を起こすような不意な負荷に対処できる余裕を生むと考えられます。 

心理的視点

心理的視点とは、頭で思った通りに身体が動かせるか?という視点です。

心理的というとストレスなどのいわゆる“気持ち”の問題が真っ先に思い起こされますが、心理的負荷(何かに気を取られている状態)が環境に応じた姿勢の変換をじゃますると言われており、また、思い通りに身体を動かせないと心理的ストレスが溜まってしまいます。7

落ち込んでいるときには、丸まった落ち込んだことが一目見て分かる姿勢になるし、自信がある時には自然と胸を張った姿勢になります。

心理と姿勢は密接に関係しあっているといえます。

みなさん、自分の想像したプレーをやってみようと、日々取り組んでいることと思います。

しかし、そのプレーに応じた筋力や柔軟性などの運動能力がなければ、例えば一流選手と同じフォームでキックしたいと考えても、無理が生じてしまいます。

無理が生じるということは体の負荷につながり怪我や痛みが出現する可能性が高まってしまいます。

自分のイメージに身体能力を近づけることも大切ですが、自分自身の能力を正確に把握しそれに応じたプレーを選択するということも、怪我予防の観点からは大切なこととなります。

姿勢が自分の脳内にあるイメージと一致している時は、ストレスなく余裕をもってプレーできます。

余裕が生まれることで、身体にとって有害な負荷を受け流せるようになり、冷静な判断により無理な動作を避けることができるようになります。 

作業能率的視点

この視点は、その作業にふさわしい姿勢がとれているかどうかという視点です。

10mと10km、それぞれできるだけ速く走る場合を考えてみましょう。

10mを全力で走るならば、前傾姿勢で足を強く地面に接地させ前方への推進力を得ようとするでしょう。10kmならば、いくら速くとはいえ、前傾姿勢になることはないはずです。

また同じ10mでも、サッカーでドリブルしながら全力で走る場合は、ボールを扱うことを意識するためそれほど前傾姿勢にはなれません。

このように、その作業にはその作業にふさわしい姿勢があります。

サッカーのキックにおいて遠くに蹴る場合、膝から下のスイングのみで蹴ることを続けたならば、そのキックの負荷は膝に溜まってしまいます。

遠くに蹴るということはそれだけ大きなエネルギーを必要としますから、より大きく足を振り上げた方が有利であり負荷も分散されます。

目指す距離によってキックのフォームは調整されなければならず、距離に応じたフォーム調整ができなければ怪我する可能性は高まってしまうといえます。

また、ほとんどのスポーツには相手があり、周囲の環境があるため、相手との駆け引きや天候などの要因によってふさわしい姿勢は変わってきます。

同じ状況ばかりで練習を積み重ねていると、実戦での多様性に姿勢の制御が追い付かないということが起きてしまい、余裕が失われ不慮の刺激に反応することが難しくなってしまいます。

余裕がない状態は怪我の可能性が高い状態と言えます。

より、実戦に近い姿勢コントロールの能力を得たいと考えるならば、常に同じ環境で練習をするのではなく、いろいろな刺激がある状態で練習すると良いでしょう。 

美学的視点

美学的視点とは、文字通り、姿勢の美しさという視点です。

プロスポーツ選手であれば、その成績が問われるのはもちろんですが、立ち居振る舞いの美しさも求められる部分があります。

やはり、所作や佇まいが美しい選手には注目が集まります。

美しさとは、その人が属する文化的背景の影響も受けます。和服を着ているときに洋服を着ているような姿勢をとったならば、違和感を覚える方は多いと思います。

堂々とふるまうことを求められる環境では、胸を張ったいかにも自信ありげな姿勢が美しさの基準となるでしょう。

また、サッカーにおけるキック動作や野球におけるピッチングフォームなどは、それらの動きが理にかなっているものであれば、個々人の好みによって決まってきます。

どのようなものに美しさを感じるかは人によって異なるのは言うまでもありません。

美しさを第一の基準に姿勢の良し悪しを決めるのは個人差が大きく非常に困難となります。

自分の好みを押し付けるのは、それが本人の特性に合ってなければ、無理をさせることにつながり怪我のしやすい状況を作ることになってしまいます。

姿勢と怪我の関係性について、5つの視点を元に解説してきました。

 本来、姿勢の保持というものはそのほとんどが無意識で行われるものです。

やりたいプレーを行うために姿勢に意識を向けることは、動きそのものはマネできても多くの外的要因が関係してくる実際のプレーに反映されず、上手くいかなくなってしまいます。

プレーをスムーズに行うためには、それに伴う姿勢のコントロールを意識せず自動的に行えるように練習していく必要があります。

自動的に姿勢をコントロールできるということは、その他のことに意識が向けられるということであり、怪我する要因への対処も行いやすくなるでしょう。

 姿勢の良し悪しを、外からみた姿だけで判断することは非常に難しいことです。そして、それがどのように怪我の可能性と結びつくかということも、正直、はっきりと示せるものではありません。

そこで、大切になるのは、姿勢の多様性です。

多様な姿勢を身につけていることが、スポーツの多様な刺激に対する姿勢コントロールを可能にし、怪我の予防につながると考えられます。

人には個性があり、動きには多様性があります。その個性を活かした多様な動きの体験が、姿勢コントロールの基礎となります。

その基礎は、子どものころに、自分の意思で思いっきり気が済むまで体を動かすこと、その中で培われるものであり、大人になってから身につけるのは困難と言われています。

自由に動きを体験できる、そんな空間を失わずにしていくことが、姿勢の多様性の獲得と怪我の予防につながるのかもしれません。

 

※こちらも合わせてご覧ください

少年サッカーの怪我予防のために「姿勢」と「怪我」の関係について考える【前編】
https://fcl-education.com/training/sports-injury/junior-soccer-posture/

なぜ怪我を繰り返してしまうのか 根本的な理解に向けて【前編】
https://fcl-education.com/training/sports-injury/injury-mentality-society/

なぜ怪我を繰り返してしまうのか 根本的な理解に向けて【後編】
https://fcl-education.com/training/sports-injury/soccer-junior-injury/

執筆者
永田将行

理学療法士
NPO法人ペインヘルスケアネットワーク プロボノ
東小金井さくらクリニック
慢性痛に対する運動療法を中心に、一般の方からスポーツ選手まで幅広い方々にリハビリテーションを提供しています。

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