日本とブラジルのコーチングの違い 褒める指導と教えない指導を題材に考えてみる

ブラジルと日本の指導の違いについて考察していこう。

今回は日本でも増えている話題である「褒める」事や「教えない」事について深めていく。

勿論ブラジルだから正しくて日本だから間違っているわけではないし、そのまた逆もしかり。

そしてブラジルでも色々、日本でも色々というのも忘れてはならない。

しかし日本サッカーを強くする事を目標に据えた時に、海外サッカーから学べる事・参考に出来る事を探していく事もまた大事。

日本国内で活動する組は嫉妬心に打ち勝ち学び、海外で活動する組もまた日本サッカーにマウントしたいという弱い心に打ち勝つ事が大事だと思う。

フォーカスするのは、日本サッカーや子供の成長といったプラスの方向にすべきだ。

褒める指導と認める指導

日本でもよく「子供は褒めて伸ばす」と言う様になった。

実際モチベーションの向上には自信や楽しさは大切で、勿論やり方やタイミングを間違えれば別だが、褒めて伸ばす指導自体は間違っていないと思う。

何度も言う様に、決してブラジルだから正しいと考えるのもまた思考停止という意味で危険。

思考は深めていく必要はある。

その上でブラジルのやり方を取り入れて参考にして欲しい。

ブラジルでは、子供のモチベーションを上げるのに「褒める」とは似ているが違う手法をとる。

それには2つあって、「認める」と「実感」だ。

まずは「認める」について。

スクールやサッカー体験会なら、サッカーを始めたばかりの子や、サッカーを楽しんで貰う事が目的でもあるので、褒めるという手法も大切だと思う。

初期段階や幼少期では、多少の自信過剰や、自分をスーパーマンと思っている事も、結局それで好奇心や挑戦心を持てるなら良いのかも知れない。

ただ、ある程度の年齢になって、競技として・競争としてのサッカーになった時のブラジルでは、指導者の声かけは褒めるというよりも認めるにニュアンスが近い。

むやみやたらにベタ褒めもしない。

モチベーションなら違う部分で作り上げる割合が大きい。

例えば活躍すればステップアップの移籍が出来る制度などだ。

褒める時というのは、ポゼッションの練習中などにBGMというか、雰囲気を盛り上げるためにBoa(ナイス)と言っている事くらいだ。

もしくはチームが目標のために一生懸命取り組めた時などにも褒める。

ただ、勘違いしてはいけないのは、作り話の様に無理矢理生み出した褒める、ではなくて、本当に良かったから良かった事を認めるに近いと思う。

その方が嘘っぽさもなくて信頼もおける。

褒める事はやり過ぎるとやはりどこかで嘘っぽさが出る。

また、慢心してしまったり、勝利や上手くなるためでなく褒められるために行動したり、ナメてしまう事もある。

競争の世界では、楽しむ事でモチベーションが高い事も重要であるが、それは他者から褒められたかどうかとはまた違う部分に楽しみを感じられないと、それは自分の中に基準がない状態であるし、目標からブレる。

人は自分に都合の良い情報を信じたくなる。

勿論都合の良い情報が正しい事もあるが、恐らくそれは自然にたどり着く。

自分にとって都合の悪い目を背けたい情報にこそ成長の起爆剤が隠されている。

心は痛むが、時に都合の悪い情報を突きつけるのもまた指導者の役目。

良い事も認めるが、悪い事も認める。

とはいえ、決して褒めていけないとも言っていない。

褒める事にもモチベーションを上げる効果がある。

あくまで、褒める事は手段であって、目的化してはいけないという警笛だ。

それは叱る事にしてもそう。

褒めると叱るは手段。目標や目的は勝利や子供の成長などになる。

目標にフォーカスして、子供の様子を見ながら、褒めるだけ、叱るだけでなく、バランスを見るべきだと思う。

成長の実感

褒めるとはまた違うが、同じくモチベーションを上げるのに南米で行われているのは、「僕は成長出来るんだ」と実感させる事。

上辺だけ褒めるよりも、実感の方が、モチベーションを上げる効果は強くて永続的。

南米でも近年では監督や指導者だけが子供の心理を見るのでなく、心理学者を導入している。

ECバイーアなら臨床心理士、家庭心理士、社会心理士がいる。

その中で自信・成長の実感の部分では臨床心理士が活躍している。

褒めるという事もしなくはないが、それよりも例えばテレビゲームをして上手くなる、卓球をして上手くなる、という様な証拠を突き付ける事で自分はやれば成長するのだと実感させる。

サッカーでも良いし、その子が好きなもので成長を実感させる。

相手も影響する対戦系より、点数系の方が実感はし易い。

褒める事はやり方を間違えると嘘にも聞こえるし実際に大袈裟にしてしまう事もあるぎ、実感は証拠であり嘘がない。

その子の自信やモチベーションには大きく影響すると思う。

教えない指導

 日本でも教えない指導について議論されている。

教えない指導というとブラジルもそう思われているが、実はブラジルは決して教えない指導をしているのではない。

上手くなるという目標のためには今は何も言わない方が良いと思っているから言わないだけであって、別に教えない事が目的化はしていない。

日本でも様々ではあるが、日本ではサッカーの指導をしているのがサッカーの専門家とは限らないし、年齢による上下関係もあるので、教える指導がどうしても方向性を間違えてしまったり、過剰になりがちなのだとは思う。

ブラジルでは年齢による上下関係はないし、基本的にサッカーの指導はサッカーの専門家が行う。

稀にサッカーの専門家ではなく、統計学の専門家を分析スタッフに加える事もあるが、それはその統計学の能力が必要だからという積極的理由であり、学校の部活指導でありがちな誰も指導者がいないから押し付け気味に引け受けた様な消極的理由ではない。

自主性を伸ばす上では、ただ命令を押し付けるだけの指導では確かに子供たちは命令待ちになってしまう。

そういう意味で日本は命令を押し付けがちな文化背景もあるので、教えない指導の概念がある程度広まる事もアリなのではないかと思う。

ただ、ここでも間違えていけないのは、教えない指導も手段であるという事だ。

タイミングを見て何も言わない時もあって良いし、答えは教えないけど考えさせる時間を作るのも良い。

ただ難しい時にはある程度考えるための材料としての知識も必要だ。

流石に足し算も出来ない子からヒントも無しで特殊相対性理論は出てこない。

例えば試合前に走り回って遊んでる子がいた時に、わざと注意しないで試合中に疲れて動けなかったとする。

確かにその一試合にはマイナスではあるが、その失敗を実感するので言葉だけで注意するより重く教訓になる。

そういう意味でわざと何も言わない時間を作るのも指導。

例えば試合中に監督の指示だけでなく自分達で相手の攻撃や守備の特徴を見抜き、修正させる。

ただそのために答えは出さないにしても今どうしたら良いか?と発問はしておく。

答えは出さないけど考えさせる時間。

その時に1番良い手段を出すのが指導の奥深さであり、教える事も教えない事も目的にフォーカスして使い分けが必要だと思う。

ブラジルでも教えない時間を作るのは子供の意見を尊重しているからである。

ブラジルではサッカー好きな人が多いので、テレビを付ければほぼ24時間サッカーの試合や番組がやっている。

友達との会話の中でサッカーの話題になる事も日常。

ネイマールやペレなどお手本となるスタープレイヤーにも事欠かないのだから、実は子供でもある程度参考知識があるわけで、指導者が知識を後から詰め込み過ぎなくても自主性を尊重して挑戦させる事で育成していく。

ブラジルで教える時には選手を固定するというより、足していく指導をする指導者が多い。

ただし日本の場合にはバックグラウンドが違うので、そのままブラジルと同じ指導を採用してもブラジル同じく選手が育つかというとちょっと工夫を入れるべきだと思う。

教えない指導も正しいとは思うが、それは勝利や育成にフォーカスした上で使い分ける手段というのは決して忘れてはいけない。

正直なところ、こんな話をしておきながらではあるが、19歳の時の僕も教えない指導を目的化してしまっていた。

ただその時の失敗は、教えない指導をしたからではなく、自分に教えられるだけの知識のない事の後ろめたさに、教えない指導という都合の良く言い訳に使える理論があったので、後付けの理由で教えない指導をしたからだ。

自分が考えられない無能さを、子供に考えさせる事で押し付けていた。

教えない指導はタイミングや使い方を間違えなければ正しい。

しかしある程度理論的に正しい部分があるからこそ、自分の心の弱さの逃げ道になってしまっていた。

本当に正しく教えない指導が出来ている人とは深みが違ったのだ。

指導者に心は大事。

今の私はどうだろうか。

※こちらも合わせてご覧ください

ブラジルサッカーとの環境の違いから育成を考える
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/brazil-football-soccer-world-japan/

日本・ブラジル・アルゼンチンにおける「プレー観」の違い
https://fcl-education.com/training/performance/japan-brazil-argentina-different/

 

執筆者
平安山良太

小学生よりサッカーを初めるが、ケガにより早期挫折。若くして指導者の道へ。日本で町クラブ、部活、Jクラブで幼稚園~大学生まで幅広く指導者として関わり学んだ後、海外へ。東南アジアのカンボジアンタイガーの全身クラブやラオス代表チームで研修の後、ブラジルへ渡り、ブラジル1部Atlético ParanaenseのU14でアシスタントコーチを務めた。2014年5月からはクラブワールドカップでも優勝したSC Corinthiansでアシスタントコーチを務めるかたわら、日本に向けて情報発信を始める。2015年10月からはAvai FC、2016年前半はJ3のFC琉球通訳、後半からはコリンチャンス育成部に復帰。2017年はブラジル1部のECバイーアで研修生指導者からプロ契約を目指している。ペルー1部のアリアンサ・リマや、メッシを育てたアルゼンチン1部のニューウェルスなどでの研修歴も。

twitter:http://@HenzanRyota
mail:ryota_henzan@yahoo.co.jp

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