日本とイングランド ピッチ外における「サッカー」の違い

国や地域の文化、歴史を映す鏡としてサッカーを考える。

イングランドをはじめ、サッカー先進国にはその強さの所以となる文化や歴史的な背景が必ずあり、我々のようなサッカー発展途上の国は、それらを一つの目標として捉える必要がある。

しかしその反面、必ずしもそれらサッカー先進国のすべてを模倣するべきではなく、先進国が過去に犯した失敗、悪い例を判別し、それと同時に、我々が世界に誇るストロングポイントを発見することが非常に重要なプロセスとなる。

今回は、そのような数多くある議題の中から「サポーター」と「スタジアム」を中心に海外との文化、歴史の違いを考えていく。 

イングランドサッカーが帯びる、飽くなき「情熱」 

サッカー人気において、プロリーグの観客動員数を見ればその差は歴然である。

かの有名なプレミアリーグはもちろん、その下部リーグに位置するチャンピオンシップ、フットボールリーグ1(それぞれイングランドサッカーリーグの2部、3部相当にあたる)についても現地サポーターからの人気は圧倒的だ。

たとえ小さな田舎町に位置するクラブであっても、ダービーマッチなどの伝統の一戦では約1万人収容のスタジアムもチケットは即日完売で満員になる。

しかし、サッカーのレベル、試合内容や選手の技術を見ればチャンピオンシップ、フットボールリーグ1Jの選手より上に位置しているとは思わない。

間違いなくそのサッカー人気の背景にあるのは、文化の違いである。 

一家代々、その地元クラブを応援する、生まれた瞬間からそのクラブのサポーターで、チームの実力や実績等は全く関係ない、競技性の観点など無視した文化としての根付きには眼を見張るものがある。

そしてその熱狂的なサッカーに対する情熱の起源は中世にまで遡る。

手を使わず足だけで行うスポーツの概念の誕生、ルールの策定に至るまで全ての要素はイングランドを軸に生まれてきたのだ。 

日本とイングランドを比較しても、プロリーグにあたるプレミアリーグとJリーグの発足は1992年と同年であるが、今に至る各リーグの市場規模、経済的な成長を見ればリーグ発足以前その背景にあったサッカーという競技に対する認知の差は歴然としている。

かの有名なFAカップに関しても、第1回大会は当時テレビ等のメディアのない1872年時で、約2000人の集客に成功した。それ程までに、イングランドの人々とサッカーは密接に関係しているのだ。 

付加価値を生み出す、ピッチ外の戦い

では、それ以外の観点について、付加価値的なサービス、スタジアム構造などを例に挙げて考えてみよう。

基本的に、Jクラブのスタジアム周りにある露店などのサービスは、品数も充実していて質も高い。

それぞれの地方スタジアムに行けば、その地の名産品を試合前に食べることもできる。

サッカーにあまり興味のない層、慣れないスポーツ観戦に壁を感じている層をいかにして取り組むかについて、各クラブ経営陣は工夫を凝らしている。 

このようなサッカー以外の部分において、付加価値を生み出すサービスの質は日本の場合極めて高いレベルにある。

地元の人間なら一度は行ってみたいそんな魅力的なサービスを提供するチームは近年増加の一途をたどっている。

対して、イングランドのクラブの多くはこのようなサッカー以外の部分におけるサービスについて、無頓着な場合が多い。

出店の数も、スタジアムの規模や観客動員と比較しても圧倒的に少なく、売っているものもどこでも食べられる様な、典型的なジャンクフードである。

ただしこれは言うまでもなく、サッカー先進国として、付加価値を生むサービスなど一切不要なほど、サッカー人気が根付いている、また、サポーターや観客がサッカーを競技性の観点で観戦しにきているという点の裏付けでもある。 

ただし、イングランドにおいても時折サッカー以外のサービスについて問題視されることもある。

中でも渋滞や試合後の混雑など交通機関の問題はよく取り上げられている。

プレミアリーグにおける問題点を例に挙げると、トッテナム・ホットスパーのホームスタジアムとして使用されている、聖地「ウェンブリースタジアム」もその一つだ。

基本的に、ウェンブリースタジアムへ観戦に行く際には最寄り駅のウェンブリーパークを使用する必要がある。

この駅からウェンブリースタジアムへと続く一本道、通称「ウェンブリーウェイ」は試合終了後大変な混雑状態に陥り、全長約1.1kmにも及ぶ一本道は試合観戦後のサポーターで一面覆われてしまう。

このように、混雑解消の工夫が凝らされているスタジアムはイングランドには非常に少ない。

交通機関の問題については、多くのJクラブも同様に頭を悩ませているが、中にはスタジアムに隣接した駐車場の空き情報をチェックするアプリケーションの導入など、テクノロジーを活用した課題解決策も用いられている。

こういった顧客のニーズを読み取って行われるサービスの徹底は多くの日本人経営者の得意とする手法でもあり、ある種サポーターの事を第一に考えたクラブの在り方としてのロールモデルとも言えるだろう。 

スタジアムが作り出す独特の空気感 

一方で、日本が後れを取る部分、スタジアムの構造に目を向けると、Jクラブにおける大きな問題点も浮かび上がってくる。

まず一つは、サッカー専用スタジアムの数である。

多くのJクラブが他競技との併用を考慮された陸上トラック付きのスタジアムをホームに構えている。

「迫力」という点において、選手と客席の距離は非常に重要である。選手の息遣いや、会話、監督の指示や、ボールを蹴る音、地面をけり上げる音、体のぶつかり合う音、そのすべてが観客に対してサッカー観戦における競技性リアリティを感じさせる。

イングランドを例に挙げれば、まさにその差は歴然である。

地方の弱小クラブですらサッカー専用のスタジアムを構え、ピッチと客席最前列との距離は短いところで、2~3メートル。

イングランドサッカーの醍醐味とも言える激しいボディコンタクト、アグレッシブルなチャレンジ、プレーを肌で感じることができる。

このような選手や監督の熱量が、ピッチ上から客席へと伝染していくのだ。 

客席のいかにも目が肥えていそうなサッカーファンのみならず、10歳にも満たない子供たちが選手に向かって放送禁止用語を叫び続ける、そのような空気感、圧倒的なサッカーに対しての情熱がスタジアム内に蔓延しているのだ。

そしてこの独特な雰囲気が試合を観に来たサポーターに対して「非現実」を提供し、そのクラブの規模、スタジアムの価値を高めていく。 

上記した様に第1FAカップの例を挙げれば、競技レベルに関係なくこのサッカーに対する情熱、独特の雰囲気がサポーターや観客を魅了していたのは言うまでも無い。

この様に、当時からサッカーが生み出す価値の肝となる部分は不変であり、観客が求めるものもそれに一致しているのだ。 

Jリーグの国際的な位置づけ 

ただし、歴史的な背景や文化によって生まれる差はあるものの、各分野で有効なアプローチをしているJリーグの取り組みには目を見張るものがある。

1992年に発足し、競技面においてここまで目まぐるしい成長を遂げ、CWC等では遥かにJより歴史の長いリーグのチームにさえも勝ち星を挙げるほど競技面でのレベルも格段に上昇。

それに加え、ストロングポイントとも言える付加価値をつける質の高いサービスの提供も推し進められて来た。

これらの実績や活動を通じて、国際的に見ても注目を集めるリーグになりつつあるJリーグだが、今後、リーグ全体の更なる発展を目指す上で、上記したようなピッチ外の課題克服がマストとなる。

なにも戦うのはピッチの上だけではないのだ。

また、これらを踏まえて、実際にスタジアムへ足を運んでみて、各地方クラブの良さ、試合だけでなくピッチ外の戦いに目を向けてみるのも、Jリーグの楽しみ方の一つでもある。

国際的に見た今後のJリーグの位置付けにも注目する必要がある。

 

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執筆者
JEC

中高大のサッカー競技経験や高校サッカー指導経験を経て、SNS上での戦術分析、ブログ「フィジカル的観点で考える個人戦術」において、部活動や育成年代のサッカーに関しての情報発信を行う。

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