2017.03.10
少年スポーツ選手の鍵となるミネラル(マグネシウム) 科学が導く、これからの栄養学vol3
少年スポーツ選手で、疲れやすい、勉強に熱が入らない、夜中に足がつる、運動すると頭が痛くなる、胸が苦しくなるなどの人がいればその原因はマグネシウム不足かもしれません。
鉄が生きていくために必須な酸素を運ぶ役割なら、マグネシウムは感情や体調,思考を整えるために必須のミネラルで、不足すると疲労はしやすく、疲労の回復も遅れ、脳の働きは悪く、骨折もしやすく、イライラまでも生じるようになります。マグネシウムは、生体の根幹をなす300種にも及ぶ代謝を実質的に支配しているミネラルだからです。
疲れ”とはどういう状態なのか?
“疲れ”とは「脳・神経細胞での起電力が落ちてしまい、神経伝達物質がきっちり伝わらなくなった状態」で、さらに進むと体も動けなくなり、死に至ります。人も電気仕掛けで生きているということなのです。
この電気は、脳・神経細胞外側にある多くのナトリウムイオンが細胞内に瞬時に入ることによって起きる放電により生じます(パルス波といいます)。そして、その放電後に脳・神経細胞内の高濃度のナトリウムイオンを直ぐにもとの状態に戻すことによって次の放電が適正に起き、正常なパルス電流(脳の電気の流れ)を生じます。
そのために、脳・神経細胞膜にはナトリウムポンプといってナトリウムを放電後瞬時に排出する仕組みが備わっています。
しかし、強い精神的ストレスや激しい運動などによって脳中枢からの指示が過剰に繰り返されると、ナトリウムイオンの排出が追いつかなくなり細胞内のナトリウム濃度が高まっていきます。その結果、弱い放電しか起きなくなり弱いパルス電流となってしまいます。このパルス電流が弱く適正に伝達されなくなった状態を「神経疲労」と呼び、これがいわゆる「疲れ」の正体です。このナトリウムポンプを動かすエネルギーを実質支配しているのがマグネシウムなのです。
細胞内のナトリウム濃度が高まり続けると死に至るため、その前に体液中の水分が細胞内に移動する。この余分な水分が細胞内に入り込んだ状態を「細胞浮腫」といい、体がだるくなったり体調不良を起こす原因となります。朝目覚めてむくんでいたり腫れた感じがあればそれがマグネシウム不足の注意信号といえます。
マグネシウムが不足してくると骨からマグネシウムを取り出すようにもなる。骨のカルシウムとマグネシウム構成比は10~100対1なので、骨からマグネシウムを使うとその10倍~100倍量のカルシウムが溶け出し骨はもろくなる(疲労骨折や骨粗鬆症の主な原因)。
ここで、いくらカルシウムやビタミンDを摂ったからといって骨が丈夫になることはなく、むしろさらに脆さが増すことになります。カルシウムのとり過ぎはマグネシウムも同時に排泄させてしまうからです。疲労骨折を避けるために今日の食生活でまず必要なのはカルシウムではなくマグネシウムなのです。
走ったり蹴ったり飛び上がったり、筋肉はどのようにして力をだすのか?
筋肉は筋肉細胞の収縮(緊張)と弛緩(緩み)により力を出すことができます。細胞内にカルシウムが入ると細胞は緊張し、カルシウムが排出されると細胞はその緊張から解かれます。心臓のドク!ドク!という拍動は心臓細胞にカルシウムが入ったり、出たりすることることによって生じます。
ナトリウムの場合と同じようにカルシウムポンプからのカルシウムの排出が追いつかず細胞内のカルシウム濃度が高くなると細胞は緊張状態が続くようになる。これが心臓でおきれば不整脈を生じ、さらに進むと突然死の原因となります。
上まぶたが無意識にピクピク動くことや、こむら返りなどの筋肉の痙攣(睡眠中、運動中の指がつっぱったりなど)はその付近の筋肉細胞の緊張が原因であり、血管でおきれば高血圧に、脳細胞でおきれば脳過敏の状態となるのです。このカルシウムポンプについても必要なエネルギーを実質支配しているのがマグネシウムなのです。
マグネシウム不足の原因とマグネシウムの上手なとり方
強い精神的ストレスや激しい運動が主な要因ですが、日本の水の多くは軟水であり水にマグネシウムが少ないことや食塩にマグネシウムが含まれなくなったことなども要因といえます。精製塩が一般化する前のニガリを含む食塩を用いた料理、漬け物、味噌、塩漬け食品を通してもマグネシウムは摂取されていました。
また、マグネシウムは穀類では糠の部分に多く含まれますが精製穀類や精製食品の消費量が増えたことや乳・乳製品をはじめとして、過剰にカルシウムを摂取するようになったこともその要因と考えられます。
マグネシウムも食品から摂るのがベストで、海藻類、なまこ、大豆加工品、しらす干し、干しえびなどに多く含まれますが、一日に必要なマグネシウム量はかなり多いため塩化マグネシウム水溶液やにがりからとるのが便利です。
マグネシウムの摂取で大切なことは腸管内の浸透圧を高めないこと。下剤に使用される酸化マグネシウム(通称、カマ)やマグネシウムサプリメントでは、全く効果はありません。マグネシウムは非常に濃度の低い状態で摂取することが大切です。
マグネシウムの効率的なとり方や注意事項については、拙著「鉄マグ欠乏症」(健康ジャーナル社)93ページなどを参照ください。
執筆者紹介
後藤 日出夫(ごとう ひでお)
1946年福岡県生まれ
工学博士 分子化学研究所(Advanced Prophylactic Support Lab)代表
米国ボルグワーナーケミカル社中央研究所、R.S.インガソール研究所。ゼネラルエレクトリック社中央研究所などにて、高分子ポリマーの合成やレオロジーの研究に従事。米国生活以降、多くの慢性的な疾患を発症するも治癒することなく、薬漬けの生活を長きに渡り過ごす。米国最新医療をもとに、各疾患の発症原因とメカニズム、治療方法を分子レベルの化学反応として捉える調査研究の結果、”食の恐ろしさと重要性”を痛感、試行錯誤の末、独自の疾病体質改善食事療法に辿り着き、数十年におよぶ疾患の全てを完治させた。
この自己体験に基づき、多くの人へ実践の輪を広げ、また指導できる仲間の育成を目的に「分子化学研究所(Advanced Prophylactic Support Lab)」を発足。多くの人が健康で楽しい人生を全うし、それを支える健全で安全な社会環境を築くべく日夜奮闘中。
著書「アレルギー・炎症誘発体質の真実」「片頭痛の治し方」「糖尿病がよくならない本当の理由」「女の子のクスリ」「脱認知症宣言」「鉄マグ欠乏症」などがある。