2018.02.22
少年サッカーにおけるリフティング神話 ボールに慣れること自信をつけること
リフティングが出来ない選手を見かけると「リフティング「も」できないのか、大丈夫かよ。」と感じてしまう指導者は多いだろう。
我々の頭の片隅には「リフティング=サッカーの基礎」の図式が染み付いているし、ボールに慣れる、リフティングを継続することで達成感が得られ自信に繋がる、など、リフティングに価値や意義を見出したい指導者の様々な言説も一般的な理解として広く受け入れられている。
中には、リフティングが出来なければ試合に出さない、などというお門違いなルールを付けているチームもあるそうで、自主練習の課題として与えられることもあるそうだ。
前提として・・・
なぜここまでリフティングに関して言及するかというと
「ボールに慣れるとは一体何を意味しているのか」「なぜリフティングはサッカーにおいて重要なのか」「なぜリフティングを継続することによって自信が付くのか」「ボール感覚(ボールフィーリング)とはどのような概念なのか」
というような問いを、自身に投げかけたことがないであろう指導者が多くいると感じるからだ。
つまり、言葉は綺麗に並べていても「なんとなく」「とりあえず」「周りもやっているから」「自分も選手の時やってきたから」程度の理由でやらせている指導者が多く、自身の指導に無自覚無批判である態度に対して問題を提起したい訳だ。
ボールフィーリングと競技力
まず、これまで何度も言及していることではあるが、サッカーが上手い選手がリフティングが上手いことはあり得るが、その逆はあり得ない。
サッカーの競技力は多面的かつ統合的な現象なので、ボール感覚なるものだけで成り立っている訳ではなく、そもそもボール感覚とは、ボールを使った「攻撃行為(パス・トラップ・ドリブル・シュート等)の「調整力」を指す。
つまり、サッカーで重要なのは○○だ!という風に語ることはできず、リフティングで身に付くボール感覚はリフティングのためのボール感覚で、そのボール感覚がパスやトラップ、ドリブルのためのボール感覚になることはなく、パスの感覚はパスをすることで、トラップの感覚はトラップをすることでしか養われない。
そして、サッカーは情況系スポーツなので、必要なのは「閉鎖スキル」ではなく「開放スキル」だ。
端的に言ってしまえば、対人関係を通じて獲得していないボール扱いやボール感覚は役に立たないということで、そういう意味においては、幾らボールに慣れても・・・なのである。
リフティングと自主練
だから、リフティングを自主練習の課題として出す必要もない。
たたでさえ偏った運動ばかりすることの弊害が謳われているのだから、サッカーが休みなのであればサッカーを休むことが練習であり、家族や友達との時間を過ごすべきだ。
そして、そもそも「自主練習」なのだから、指導者が課題を与えるのであればそれは「強制練」で、自主性を重んじるのであれば、するかしないかも、何をするのかも、選手が決めれば良い話だろう。
リフティングをすることで達成感を得られることで自信に繋がる、などというと聞こえは良いが、それらを得られるための取り組みがリフティングでなければならない理由はなく、後付けの論理でしかないことは明白だ。
むしろ、何かに向けて「動機付けられる」ことや「自信」というのは、「達成」や「継続」などの「何をしたか、してきたか」という行為のレベルで得られるものではなく、そのような前提は見直されてきている。
このように考えてみると、リフティングが出来なければ試合に出さない、という思考はどのように導き出されたのか甚だ疑問である。
指導には正解はない
指導に正解はない、という言葉がある。
確かにそうだろう。
極論「リフティングがパフォーマンス向上に云々」という話はどうでもいいのだ。
ただ、自身の指導が「なんとなく」「周りもやっているから」「自分もやってきたから」「とりあえず」「オレ流」であってはならない。
指導者は常に悩んでいる必要があるし、なぜそのトレーニングを行うか、コーチングをするのか、ということにもっと慎重で、もっと批判的である必要があるのだ。
なぜなら、指導には正解がないからである。
指導者は学ぶ前にやることがあり、それは「自身を見直すこと」だ。
常に自身を見直す習慣から、気付き、学びは始まる。
※こちらも合わせてご覧ください。
指導者が自身を育成することが育成の始まり
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/sidousha-jishinwo-ikusei-ikuseinohajimari/
サッカーの楽しさとは何か 勝つこと上手くなることを超えて
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「育成と勝敗のどちらが大事であるか」という二項対立の図式から考える
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執筆者
Football Coaching Laboratory代表 髙田有人
選手時代にはブラジルでの国際大会や、数多くの全国大会を経験。高校卒業と同時に指導者活動をスタートし、地域のジュニア年代で約10年の指導経験がある。ドイツへの短期留学やサッカーの枠を超えて、教育学、スポーツ思想・哲学、身体論など様々な分野も学び、全人格的な育成の可能性と実践、そのための指導者の養成をテーマとし活動している。