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2017.09.28

栄養におけるカロリーという概念についての一考

「健康のためには、なるべくカロリーを控えた食事が好ましい」

この言葉、あなたも一度は聞いたことがあるでしょう。しかし、実際あなたの周りでカロリー計算している人はどのくらいいますか?健康的な人は、全員カロリー計算をしていますか?

では、カロリーのカラクリについて紐解いていきましょう。

カロリーは実験室内での基準にすぎない

いきなりですが、2つ質問します。

①カロリーとは何ですか?

②1カロリーはどのような定義ですか?

すぐに答えが浮かんだ方、素晴らしいです。「よく使うけど、深く考えたことないな…」と5秒以上考えても曖昧な答えしか出てこなかった方、ご心配なく。これまで500人以上の方に質問していますが、9割以上の方がすぐに答えられませんので。

では、「カロリーとは?」ということから解説していきましょう。

カロリーは、熱量です。

※熱量:2つの異なった物体の間を、熱として移動するエネルギー量。

続いて、「1カロリーの定義」について。よく言われるのは、「1mlの水の温度を1℃上昇させるのに必要な熱量」です。ご自身の健康だけでなくチームメイトの健康力を上げていくためには、そんなところに留まらず「標準カロリー」というものを把握しましょう。

標準カロリーとは、「14.5℃の純水1mlを、15.5℃に1℃上昇させるのに必要な熱量」です。また、その環境を1気圧とする、という条件付きです。

この定義はもう、クエスチョンマークの連続です。私たちの体液はそもそも純水ではありませんし(約0.9%の食塩水)、体温も14.5℃ではなく約36℃です。はたまた、暮らしている気圧条件も日々変わります。1気圧は1,013ヘクトパスカルですので、高気圧に覆われ晴れの時に近いです。天気は日々変わりますし実際は1気圧ではない時の方が多いのです。この標準カロリーの定義は、無機質な実験室の中でのものなのです。

カロリーは栄養価を評価する尺度ではありません

カロリーは、燃焼能力の尺度です。したがって、そもそも人間の食べ物の栄養価を評価する尺度ではありません。

しかし日本は、私たちの食べるご飯・パン・肉・油などを、なぜかこの燃焼能力の尺度「カロリー」で評価します。日本は「カロリー」というものを、私たちが栄養素として考えている糖質・タンパク質・脂質・ビタミンなどの栄養価を示しているかのような表記や扱いをしていますが、カロリーの数字は私たちのカラダの栄養価の評価になりません。あえて言うならば、「もしパンを燃やしたら、これくらいの燃焼能力があります」ということを示しているだけです。したがって、当たり前ですが、パンを食べてもその数値のカロリー分だけ、体内で体温を維持するためにパンが活躍してくれるわけではありません。カロリーの数値は、あくまでも実験室内で、パンにマッチで火をつけた場合の水の温度上昇の燃焼能力を推測したものにすぎません。

消費カロリーの3要素はどんぶり勘定

「太る・やせるは、摂取カロリーと消費カロリーのシーソーで決まる」と、よく言われますが、摂取カロリーは、先ほどお伝えしまたように実態のない尺度から算出した量です。本来は、この時点でシーソーが成り立ちません。一方、消費カロリーは以下3つに分類されます。

①基礎代謝:安静時のエネルギー代謝

②活動代謝:運動によるエネルギー代謝

③食事誘導性熱代謝(DIT):食事による代謝

では、順に見ていきましょう。

①基礎代謝について

まず、基礎代謝という定義を確認しましょう。基礎代謝とは、心身ともに安静な状態の時に、生命維持のために消費される必要最小限のエネルギー代謝量のことです。今や一般にも普及した体組成計で測定すると「1,500kcal」など、ポンと数字が出てきます。日々測定している方はお気づきかもしれませんが、毎日そんなに変化がないように思える基礎代謝は、1日の中で… そして毎日毎日… ダイナミックに変動しています!

あなたは、ほぼ同じような生活スタイルである2日の朝晩の体重増減を比べたことがありますか?

例えば…火曜と木曜、もしくは第1週目の水曜と第2週目の水曜etc.

生活スタイル(仕事・食事・運動etc.)が変わらないのなら、朝晩の体重増減も変わらないのでしょうか…もし比較したことがない方がいらっしゃいましたら、ぜひ以下6項目を一度試してみてください。

1.同じ時間に起きる

2.同じものを同量食べる

3.排便回数を合わせる

4.仕事時間をほぼ同じにする

5.運動量を同じにする

6.入浴時間を合わせる

私の実績からも、朝晩でピタリと一致する確率は低いと言えます。

ということは、日々変動しているということになります。基礎代謝が変動する要因としては、ストレス・睡眠不足(質)・食べ過ぎ・栄養不足・過度な運動・運動不足・疲労の蓄積度などが考えられます。体組成計は、統計的分布に基づいて体重における水分量から推測しているにすぎませんので、この項目においてもシーソーが成り立ちません。

基礎代謝をアップさせる方法については、様々な本やサイトで見ることができます。しかし、そのほとんどのものが構成比率で38%を占め、トップである「筋肉」にアプローチして基礎代謝を上げよう、と謳っています。筋肉以外(肝臓・胃腸・脳・心臓他)62%へのアプローチの方が重要なのは数字上からも明らかです。

②活動代謝について

これはもう身近ですよね。ウォーキング20分間で約●●kcal、サイクリング30分間で約●●kcalというように表されます。

ここでも活動代謝の定義から確認していきましょう。活動代謝とは、お仕事や運動において消費されるエネルギーです。活動代謝量は、カラダを活発に動かすほどその量が増加するとされています。

「脂肪を燃やすには、活動代謝を上げよう」と、よく耳にしますが…

あなたなりには頑張ったつもりでも、もしかしたら消費量自体は上がっていないかもしれませんし、逆に頑張っていないつもりでも、上がっているかもしれません。正確には、誰もわかりません。「えぇ?!ジムのエアロバイクに消費量が出ますけど」って…

エアロバイクも、呼吸・座席の高さ・こぐ姿勢・ペダルへの足の置き方などで大きく変わってきます。また運動に臨む筋肉状態にも左右されます(凝り固まっているのか、しなやかで柔らかいのか)。数値はあくまでも目安です。この項目においても、シーソーが成り立たないのは明らかです。

③食事誘導性熱代謝について

あまり聞き慣れない単語ですね。定義を見てみましょう。食事誘導性熱代謝とは、食事をした後、安静にしていても代謝量が活発になることです。食事をすると、食べ物を噛み砕いて飲み込み、消化・吸収するといった活動が活発になることで、体熱が産み出されエネルギー消費量が増えます。この現象は、食後まもなくから起こり、1時間後に最高となった後、徐々に減ります(3~10時間ほど続くと言われています)。消費されるエネルギーは、栄養素によって違い、

・たんぱく質:約30%

・炭水化物:約6%

・脂質:約4%

・総合的:摂取カロリーの約10% とされています。

全てに「約」が付いています。この項目においてもシーソーが成り立ちませんね。

 

カロリーの定義、基礎代謝量、活動代謝量、食事誘導性熱代謝の全て、実体のない尺度から算出し、更にアバウトなどんぶり勘定によるものです。以上のことから、上記のシーソーは…結果論です。

もし、あなたがある一定期間でやせたとしたら、その期間中「摂取カロリーよりも消費カロリーの方が多かった」ということです。また、ある一定期間で太ったとしたら、その期間中「摂取カロリーよりも消費カロリーの方が少なかった」というだけのことで、結果論でしかありません。カロリーは、ダイエットなどボディメイクをしている最中に、日々追っていくものではないのです(というか、正確に追えるはずもありません)。ゆえに、栄養を考えていくにあたりカロリーに目を向ける必要は全くなく、「自然」「環境」「命」に目を向けていくことこそが、あなたの健康力を向上させていくために必要な要素なのです。

 

※こちらも合わせて読んで頂けると「栄養」に関する理解が深まります。

食べ物が喉を通っただけでは栄養摂取とは言えない
https://fcl-education.com/nutrition/nutrition-body/food-fcl-nutrition/

栄養バランスを考える必要があるのか
https://fcl-education.com/nutrition/nutrition-body/nutrition-balance-think/

 

執筆者紹介
久保山誉 

□保有資格
NESTA(National Exercise & Sports Trainers Association)認定
ニュートリション(栄養学)スペシャリスト
ダイエット&ビューティースペシャリスト
シニアフィットネストレーナー
ファイトライフトレーナー協会認定 ファイトライフトレーナー

静岡県生まれ(1976年)。高校時代よりレスリングを始め、大学時代に総合格闘技に転向。総合格闘技「修斗」にて、世界バンタム級4位まで登りつめる。基本的性分として「めんどくさがり屋」であるため、格闘技時代の減量においても「いかに楽にできないか」「心と身体にストレスがかかりにくい減量法はないか」と常に模索を続ける。その傍らフィットネスクラブで働き続け、個別運動指導6,000回以上、個別栄養指導600人以上を実施。60回以上に亘る自らの減量体験と、クライアントの減量体験を体系化し、「いかに楽にストレスをかけずにボディメイクをするか」ということを、書籍「たった10個のルールで疲れ知らずの極上の健康を手に入れる食事術」にまとめる

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