2017.01.18
少年スポーツ選手の鍵となるミネラル(鉄)前編
サッカーの試合中に肝心なところで息切れしてしまって折角のチャンスを逃してしまう、攻撃後すぐに全力で守備に戻れないといった経験のある人は多いのではないでしょうか。これは、スポーツ少年に多い鉄不足(鉄欠乏性貧血)のせいかもしれません。血液検査結果は正常でもフェリチン(貯蔵鉄)を調べると潜在性鉄欠乏性貧血であることが分かります。
ところで、何故スポーツ選手が貧血に陥りやすいかというと、サッカー、中長距離走、剣道などのように足裏に強い衝撃がかかるスポーツでは、その部分の血液中赤血球が破壊されることがあるからです(溶血性貧血という)。また少年期では急速な成長とともに鉄必要量も急増しますので貧血になりやすくなります。
ところが、貧血と診断され鉄製剤を服薬しても、便は真っ黒、胃腸を痛めてしまい吐き気はするし食欲もなくなるばかりで貧血は一向に改善されず、体力は落ちていく。
また、貧血には、“レバー”、“プルーン”、“ひじき”、・・・などと勧められ、これらをしっかり食べたが、いっこうに貧血はよくならない。こんな経験をお持ちの方は多いと思います。
何故?本来は簡単に予防し治せる鉄欠乏性貧血が、このように治りにくい病気になってしまったのか、どこに間違いがあるのか「これからの栄養学」について説明します。
1日当たりの鉄必要量は約1mg、成長期のスポーツ選手、妊娠中の成人女性であっても2mgあれば充分過ぎる量だ
まず第一の間違いは、「1日に補給すべき鉄の量は10~20mg」と信じ込まされていること。
鉄は、カルシウムやマグネシウムなどのミネラルと異なり尿から排出されることなく体内を循環しています(閉鎖系代謝という)。ただし、皮膚や消化管細胞などは毎日わずか脱落していますので、その中に含まれる鉄分の補充をしなくてはいけません。その量は体全体で毎日約1mgです。
多くの栄養士・医師の言う10~20mgというのは、厚生労働省が、約1mgの鉄を摂るために日本人の平均的な食事に含まれる食品の平均鉄吸収率を15%とした時に必要な鉄量で、すでに鉄吸収率が加味されている数値なのです。
何故、わざわざ鉄についてだけこのように吸収率を加味するのか定かではありませんが、鉄が酸素運搬という生命維持の重要な役割を担うミネラルであり、閉鎖系代謝であるからかも知れません。
したがって、個々の食品の鉄吸収率を調査する際はこの約1mgを基本にすべきなのです。
しかし、鉄吸収率をすでに織り込んでいる厚労省のこの鉄量を毎日摂るべき鉄量と勘違いし、根拠の曖昧な鉄吸収率(多くはヘム鉄は20~30%、非ヘム鉄は5~10%としている)を計算に加え、毎日必要な食品量は「葉物野菜ならバケツ一杯」や「レバーだと数百グラム」という全く意味の無い情報が広まってしまっているのです。
因みに鉄1mgというと香辛料のバジルでは0.8g、大根葉・つる菜・小松菜など葉物野菜では約30g、ほうれん草50g、天然アユやしじみ18g、いわし煮干7gに含まれている鉄量です。驚かされるのはプルーンに含まれる鉄量で、すいかや夏みかんより少なく、プルーン500gに含まれる鉄量が1mgなのです。大根葉のわずか20分の1の鉄量しか含まれていないのです。
鉄欠乏性貧血時には、“ヘム鉄”でなく“非ヘム鉄”
第二の間違いは、鉄欠乏時には植物性の非ヘム鉄は動物性のヘム鉄よりも吸収率が低いと信じられていることです。
厚労省が食品の鉄吸収率を15%と定めた理由の解説文とその根拠とする参考文献(英文)をよく読むと、鉄欠乏時には非ヘム鉄はヘム鉄より吸収率が高いとする根拠がよく分かります。
厚労省の解説文を要約しますと「日本には信頼するデータがないので、欧米の食事の鉄吸収率と同じく15%を用いる。日本の食事は欧米より鉄吸収率の良い非ヘム鉄の割合が多いため、実際は15%より大きくなるが貧血時なので問題は無いだろう」としています。
なお、牛乳、ヨーグルト、乳酸菌飲料には鉄はほとんど含まれず、鉄1mgの相当量はチーズでは300g、牛レバー25g、牛ヒレ肉90g、豚肉・ささみ170gです。また、黒砂糖21g(精白糖は鉄を含まず)、全粒小麦31g(小麦胚芽11g、精白小麦粉170g)のように精製・精白することにより鉄量は著しく減少します。
このように鉄吸収率が100%であっても、乳・乳製品や肉類、精白小麦、精白糖を中心とした食事では、わずか1mgを食事から取り込むだけでも容易でないことが分かります。このようなことから、鉄欠乏性貧血が起きやすい米国では小麦に無機鉄を加えた強化小麦が使用されています。
なお、鉄吸収率メカニズムについては次回号にて説明します。
※鉄含有量については「5訂増補 食品成分表」より引用
執筆者紹介
後藤 日出夫(ごとう ひでお)
1946年福岡県生まれ
工学博士 分子化学研究所(Advanced Prophylactic Support Lab)代表
米国ボルグワーナーケミカル社中央研究所、R.S.インガソール研究所。ゼネラルエレクトリック社中央研究所などにて、高分子ポリマーの合成やレオロジーの研究に従事。米国生活以降、多くの慢性的な疾患を発症するも治癒することなく、薬漬けの生活を長きに渡り過ごす。米国最新医療をもとに、各疾患の発症原因とメカニズム、治療方法を分子レベルの化学反応として捉える調査研究の結果、”食の恐ろしさと重要性”を痛感、試行錯誤の末、独自の疾病体質改善食事療法に辿り着き、数十年におよぶ疾患の全てを完治させた。
この自己体験に基づき、多くの人へ実践の輪を広げ、また指導できる仲間の育成を目的に「分子化学研究所(Advanced Prophylactic Support Lab)」を発足。多くの人が健康で楽しい人生を全うし、それを支える健全で安全な社会環境を築くべく日夜奮闘中。
著書「アレルギー・炎症誘発体質の真実」「片頭痛の治し方」「糖尿病がよくならない本当の理由」「女の子のクスリ」「脱認知症宣言」「鉄マグ欠乏症」などがある。