2017.06.05
栄養バランスを考える必要があるのか
「バランスのいい食事をしよう!」
あなたも一度は聞いたことがある事でしょう。日本が掲げている健康食の指標です。バランスのいい食事とは、一体どのような食事のことを言うのでしょうか? そもそも栄養バランスは考える必要があるのでしょうか? 一緒に考えていきましょう。
栄養におけるバランスは認識しづらい
まず、あなたが思う「バランスのいい食事」を、頭の中で描いてください(または紙に書き出してみてください)。
ではまず、私の栄養講座にご参加してくださった方の回答をご紹介します。
・色々な種類が食卓に並んでいること。
・必要な栄養素を必要な量・必要なタイミングで摂取すること。
・一汁三菜。汁もの一点・野菜類・主菜・穀類
・ご飯、味噌汁、おかず(魚類、肉類)、副菜の献立。
・主食、副菜、ビタミン類、ミネラル類を適量に取れた食事 etc.
さて、あなたの回答はどれに近かったでしょうか?
多くの方が思っている「バランスのいい食事」の定義、それぞれ表現は近いのですが全く同じものはありません。
食事における「バランス」は、よくよく考えてみると難しいのです。
ここで、幼稚園年中あたりから小学校低学年時代に、あなたも経験したことがある「自転車に乗る練習」を思い出してみましょう。
補助輪を外し、お父さんかお母さんに後ろを支えてもらい、いざスタート。しかし、初めは誰もが転びますよね。
なぜなら「バランス」がうまく取れないからです。
自転車は「バランスが取れている・崩れている」の判断が、容易につきます。
転びそうな状態になることが、「バランスが取れていない」ということで、体重移動やハンドル操作で転ばないように自らで微調整ができます。それは、「バランスが崩れている」ということを認識できているからこそ。
一方、転ばずに真っ直ぐ進んでいける状態が、「バランスが取れている」という状態です。
では、これを食事に置き換えると、どうでしょう?
もしバランスが崩れていたとしても、自転車のようにすぐに危険が及ぶわけではないので(「痛い」といった感覚や「傷害」を負ってしまうことがないので)、そのまま食べ進めます。
ということは、「バランスのいい食事をしよう」という投げかけ自体が、いかに無力であるかがわかります。なぜなら食事のバランスが崩れていても、短期的には痛くもかゆくもないのですから。
栄養におけるバランスは誤解も生みやすい
「バランスのいい食事をしよう」という言葉は、「バランス」なるものをしっかり理解している人にのみ効くフレーズであって、理解していない大多数には、全く適さない言葉であることがわかります。
ここで、厚生労働省が掲げる「バランスの取れた食事」の定義を明記します。
『主食・主菜・副菜・乳製品・汁物・果物の6項目をしっかりと摂れる食事』とあります。
・主食=ご飯、パン、麺類
・主菜=肉、魚、卵、大豆料理
・副菜=野菜、きのこ、芋、海草料理
・乳製品=牛乳、ヨーグルト、チーズ
・汁物=みそ汁、お吸い物、各種スープ
・果物
上記に沿って2パターンの食事例を挙げてみます。
~A~
・主食:麦ごはん
・主菜:さんまの塩焼き
・副菜:海藻サラダ
・乳製品:チーズ
・汁物:味噌汁
・果物:みかん
~B~
・主食:食パン
・主菜:ビーフステーキ
・副菜:シーザーサラダ
・乳製品:牛乳
・汁物:コンソメスープ
・果物:オレンジ
Aは和食、Bは洋食です。
共にバランスの取れた食事の定義に沿ってはいますが、全く異なるエネルギーであることはおわかりでしょう。
「食の欧米化が生活習慣病の要因である」と言われている中、Bはまさしく生活習慣病の要因になるであろう食品が並んでいます。
栄養におけるバランスは認識しづらいだけでなく、誤解も生みやすい表現なのです。
栄養においては「バランス」という言葉を使わない方が、食選択が明確になり健康増進に繋がっていくのです。
理解するのに根気を必要とする食事バランスガイド
ここで改めてアイキャッチの図をご覧ください(厚生労働省が掲げる「食事バランスガイド」)。
その上で下記の厚生労働省の説明をご覧ください。
「一日に“何を”“どれだけ”食べたら良いかを考える際の参考にしていただけるよう、食事の望ましい組み合わせとおおよその量を、イラストでわかりやすく示したものです」となっています。
図と説明文で、理解できましたか?私は未だに理解できておりません。
運動によって、コマが倒れないようにしている、というのは何となく伝わるのですが、そもそも「食事バランスガイド」であって運動を含めた「健康バランスガイド」ではありません。
「食事バランスガイド」ならば、運動は一端横に置いて考えるべきです。
また、「SVとはサービング(食事の提供量の単位)の略」など、日常で全く使わない単位を当て込んでいることもわかりにくさを増幅させています。
“おおよそ”という単語が入っているように全体的にアバウトであり、幅を持たせているのに、唯一「牛乳」という固有名詞が入っていることにも不自然さを感じずにはいられないのです。
我が国が掲げる「栄養バランス」が何ともわかりにくいことが、国民の健康力がイマイチ上がらない(逆に下がってしまっている)大きな要因の1つではないでしょうか。
基本的に現代栄養学は、人間が頭で分析し組み上げた学問であり、机上で考えられたものでしかありません。
栄養に関しては「バランス」という都合のよい言葉を使うのではなく、「自然に近い食品を感謝の気持ちを持って頂く」ということを指標の中に組み込むべきなのです。
執筆者紹介
久保山誉
□保有資格
NESTA(National Exercise & Sports Trainers Association)認定
ニュートリション(栄養学)スペシャリスト
ダイエット&ビューティースペシャリスト
シニアフィットネストレーナー
ファイトライフトレーナー協会認定 ファイトライフトレーナー
静岡県生まれ(1976年)。高校時代よりレスリングを始め、大学時代に総合格闘技に転向。総合格闘技「修斗」にて、世界バンタム級4位まで登りつめる。基本的性分として「めんどくさがり屋」であるため、格闘技時代の減量においても「いかに楽にできないか」「心と身体にストレスがかかりにくい減量法はないか」と常に模索を続ける。その傍らフィットネスクラブで働き続け、個別運動指導6,000回以上、個別栄養指導600人以上を実施。60回以上に亘る自らの減量体験と、クライアントの減量体験を体系化し、「いかに楽にストレスをかけずにボディメイクをするか」ということを、書籍「たった10個のルールで疲れ知らずの極上の健康を手に入れる食事術」にまとめる