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2017.08.01

体に良い油と悪い油(精製・加工植物油)

世界の先進国の中でも植物油が健康に良いと信じられているのが「日本」だけというのには驚かされます。ほぼ、半世紀前に米国で動物性脂肪のとり過ぎが動脈硬化や心臓病を引き起こし、植物油がコレステロールを下げるといった未熟な動物実験結果が発表され、「植物油は健康に良い」という神話が米国を中心に先進国に広まりました。

しかし、約30年前に米国国立癌研究所が「植物油はコレステロール値や心臓病の発症率を下げる効果は無く、むしろ癌の発生率を高める」ということを公表。その後、米国食品医薬局(FDA)は「植物油を心臓病の予防や治療に効果があるということ(宣伝するなど)は違法とみなす」との警告を発するまでに至っています。

この植物油こそが、「体内で活性酸素を発生させ、炎症を起こさせ、免疫力を弱め、血管を収縮させ(高血圧の原因)、血栓をおこさせ(心筋梗塞・脳梗塞など)、アレルギー症状を起こさせる」張本人なのです。

ダイオキシン類にも劣らぬトランス脂肪酸の脅威

植物油といっても、問題となるのは欧米では「Industrially produced trans fatty acid」(直訳すると「工業製トランス脂肪酸」)という有害物質を含む、工場で大量生産される「精製・加工植物油」や「硬化油」といわれるものです(一般のサラダ油やマーガリン・ショートニングなど)。トランス脂肪酸の毒性については数多くの研究や論文があり、アメリカやカナダをはじめ欧州、中国、韓国などでも何らかの公的規制が設けられています。しかし、日本では公的規制は全くなく、関連企業やその業界団体の自主的判断に全てが委ねられているのが現状です。

元来、私たちが口にする天然の不飽和脂肪酸(油の成分)は、ほとんどがシス型であり、天然の植物油分や魚や家禽の油脂分にはトランス型脂肪酸は含まれていません。反芻動物(牛、羊など一度胃で消化したものを再び口に戻して咀嚼する動物)には、胃での消化過程で消化バクテリアによってトランス型の脂肪酸が生成されますが人体で問題なく代謝されるため、この有害な工業製トランス脂肪酸とは分けて対処するようになっています(日本を除く諸外国では)。

この有害なトランス脂肪酸は、天然の植物油(圧搾製法によるもの)には含まれていませんが、マーガリンやショートニングに加工するとき、持ちの良い揚げ油(硬化油)を製造するとき、溶剤で抽出した油(米油など)を精製・脱臭する製造工程で副生物として、自然界には存在しない有害なトランス脂肪酸が作られてしまいます。

なお、精製・加工油でもごま油はトランス脂肪酸の含有量が少なく、続いてコーン油、大豆油、ナタネ油、米油(正確には米ではなく糠が原料です)の順にトランス脂肪酸は多くなるといわれています。しかし、実際には精製・加工油の製造プロセスや製造条件によってもトランス脂肪酸の含有量は異なると思われますので、製造メーカー間による違いもあると思われます。

トランス脂肪酸の人体への影響

理論的なトランス脂肪酸の有害性に関してのメカニズムは省略しますが、結論的に、工業製トランス脂肪酸は、問題なく消化吸収されるが、吸収後に生理活性物質の原料となることや細胞膜の構成要素となることはなく、代謝速度は遅いものの一部はエネルギーに転換されうるということができます。

特に問題は無いように思われるかもしれませんが、大問題なのは、体の構成成分として利用されることもなく有毒な遊離脂肪酸として体内をめぐり、血管内皮や体細胞、特に膵臓などの細胞を傷つけることで、健康を乱す原因物質となり、さらに他の脂肪酸代謝に必要な酵素活性を低下させるなどが起きてしまうということなのです。

トランス脂肪酸は、一般的な急性毒性や亜急性毒性的なリスクはほとんどありませんが、糖尿病をはじめ、心疾患、脳疾患など生活習慣病の原因物質である事がすでに明らかにされています。

血液中の炎症因子であるCRP(体内で炎症反応や組織が破壊されているときに血中に現れるタンパク質)や、細胞間接着分子ICAM-1、VCAM-1(いずれも炎症時に発現が強く、増加するとよりの白血球が組織に移行し、炎症を悪化させる)が増加することなどによって、血管内皮の細胞膜に直接作用し、心疾患リスクを増大させるなど有害性に関する研究結果が古くより報告されています。

また、肥満や糖尿病などメタボリックシンドロームに関する最近の研究から、血中の遊離脂肪酸濃度が高まることにより、筋肉や肝臓でのインスリン抵抗性の発現、膵臓β細胞でのインスリン分泌異常、脂肪組織での機能異常、血管内皮機能異常や中枢神経異常(食欲抑制や肝糖産生抑制など)など、さまざまな増悪作用が明らかとなっています(脂質代謝異常、高血圧。糖尿病や肥満の危険因子)。さらに、アルツハイマー病、前立腺がん、不妊症、肝機能障害などへの悪影響も続々報告されているのが現状です。

このように、生態系で作られることのない新規合成化学物質は体内代謝の撹乱要因であると同時に、その代謝に必要な酵素、補酵素、ビタミン、ミネラルなどを無駄に消費し、健全な生体維持活動を乱す物質ということができます。

花粉症の方はこの有害なトランス脂肪酸の含まれた植物油の摂取を控えるだけで随分と改善されます。

良い油と悪い油の見分け方

良い油:オメガ3系脂肪酸(魚に含まれるEPA・DHA、シソ油・アマニ油など)

中立:オリーブオイル(高品質のものはやや良い)、圧搾製法植物油(ごま油,ナタネ油)、ラード・牛脂、ココナツオイル、バターなど。しかし、とり過ぎは要注意。

悪い油:精製加工植物油(一般の植物油、マーガリン&ショートニング及びそれらを使用した食品、硬化油など)

*一般のEPA・DHAサプリメントには非常に多種のトランス脂肪酸が含まれています(医療用としてEPA・DHAだけの抽出物もあります)。

執筆者紹介
後藤 日出夫(ごとう ひでお)
1946年福岡県生まれ

工学博士 分子化学研究所(Advanced Prophylactic Support Lab)代表
米国ボルグワーナーケミカル社中央研究所、R.S.インガソール研究所。ゼネラルエレクトリック社中央研究所などにて、高分子ポリマーの合成やレオロジーの研究に従事。米国生活以降、多くの慢性的な疾患を発症するも治癒することなく、薬漬けの生活を長きに渡り過ごす。米国最新医療をもとに、各疾患の発症原因とメカニズム、治療方法を分子レベルの化学反応として捉える調査研究の結果、”食の恐ろしさと重要性”を痛感、試行錯誤の末、独自の疾病体質改善食事療法に辿り着き、数十年におよぶ疾患の全てを完治させた。
この自己体験に基づき、多くの人へ実践の輪を広げ、また指導できる仲間の育成を目的に「分子化学研究所(Advanced Prophylactic Support Lab)」を発足。多くの人が健康で楽しい人生を全うし、それを支える健全で安全な社会環境を築くべく日夜奮闘中。
著書「アレルギー・炎症誘発体質の真実」「片頭痛の治し方」「糖尿病がよくならない本当の理由」「女の子のクスリ」「脱認知症宣言」「鉄マグ欠乏症」などがある。

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