記事

2018.07.18

ゴールという目的地に辿り着くために 攻撃プランの構築に向けて 後編

攻撃の構築をプランしよう。

そう言われたらどのようなプランを思い浮かべるだろうか。

「ドリブルメインの個人技で切り崩す」
「とにかくパスの連続でコンビネーションアタック」
「最後は力だ。縦一本パワーサッカー」

そんな答えが挙がってくるかもしれない。

だがこれはサッカーの試合で求められるプランではない。

どれも手段に特化したもの。

それぞれが大事だが、どれかだけを前面に押し出すことはプレーを窮屈にする。

今回のロシアW杯を見てもわかるように、サッカーとは何か一つの特徴やトレンドだけでどうにかなるものではない。

サッカーにおけるメカニズムを知り、必要とされる要素を認識し、将来的に大人になった時に身につくように、育成年代で取り組んでいく。

「ドリブル対パス」「カウンター対ポゼッション」などではなく、それぞれの要素を「いつ、どこで、どのように」使うのかこそが大事なのだ。

サッカーの試合では「自分たちがボールをコントロールしている状態」「ボールが自分たちのコントロールから離れた状態」「相手がボールをコントロールしている状態」「ボールが相手のコントロールから離れた状態」の4つに分けられる。

それぞれを「攻撃」「攻撃から守備への切り替え」「守備」「守備から攻撃への切り替え」という言葉で置き換えることもできるだろう。

「攻撃」と一口に言っても、いきなりどこからでもシュートを打つことはないし、どんな状況でもドリブルやパスを始められるわけではない。

ビルドアップ-ゲームメイク-チャンスメイク-ゴールメイク

この4段階に分けて考えられるべきだろう。

さて、それぞれの言葉からどのようなプレーがイメージできるだろうか?

例えば、ビルドアップとは「自分たちでボールを回して攻撃にもっていく段階」というニュアンスで語られていることが多いと思われる。

でも具体的にどんな状況を意図して使っているだろうか。

僕は「ボールを回しながら味方が最適なポジショニングを取り、狙い通りの攻撃を仕掛けるための時間と準備をする」と定義しているが、このように解釈を持つことが大切だ。

それがあるからこそ、「ではどのような状態をつくることでより良いビルドアップが可能になるか」という考察につながっていく。

1.DFがオープンな体勢、つまり前方向に体を向けた状態でボールをもらう
2.ワンタッチ目でボールを足下ではなく、前方向のスペースにコントロールorパス
3.パスを受ける前に味方の位置と状況を確認しておく
4.味方がパスを出せるタイミングで、受け手がパスを要求する

あとの3段階についても同じようなアプローチが必要だ。

ゲームメイクでは「相手をどのように動かし、どこから自分たちが狙いを持って攻めようとするのか」、チャンスメイクは「どのように相手守備を攻略し、ゴールの可能性が高くなるエリアに意図的にボールを運ぶのか」、そしてゴールメイクは「シュートをゴールに決めるために、事前にどのような準備が必要で、シュートの際にはどこに気をつけるべきか」という点について整理をしていく。

攻撃は常に自分たちがコントロールしきったところから発動するものではない。

自分たちの守備で相手のコントロールがボールから離れたところを狙って、すぐにカウンターに持ち込む。

いつの時代でも非常に有効な手段だ。だがいつでもやみくもに仕掛けてうまくいくわけではない。カウンターに持ち込むにはいくつかの条件がある。

1.ボールを奪った選手、あるいはすぐ近くの選手がそのまま前へとボールを運べる。
2.前線にパスを引き出せる選手がいる。
3.加勢してパスコースを増やせる選手がいる。
4.相手が守備組織を整えるまで時間がかかる。

こうして条件を整理することで、判断の基準を設けられる。

うまくいけばそのときの状況を成功体験としてインプットすることができるし、うまくいかなくても、あとでフィードバックするときに何ができて、何が足らなかったのかを整理しやすい。

どれだけ条件を満たしていても、技術的なミスでチャンスを逃すこともある。

それはカウンターからの攻撃でも、ビルドアップからの攻撃でもどこでも起きる。大事なところでミスをしてはどれだけ入念に準備をしても、チャンスを生み出せないのは確かだ。

だからと「できない選手が悪い」という見方をしてはならない。

イメージ通りのプレーをするのは簡単なことではないし、ましてそれを様々なプレッシャーがかかる試合で完ぺきにプレーするのは至難の業だ。

プレーに対するイメージを明確に持てるようになり、それを自然と実際のプレーに還元できるようになるには時間が必要だ。

1-2年で身につくと思ってはいけない。育成年代全ての時間をかけて、じっくりと取り組んでいくものだ。

慌ててはいけないのだ。

もちろんできないプレーを悔しがり、嘆き、憤る気持ちは大切だ。

でもそれを強制してはならないし、その気持ちが強すぎてプレーそのものと向き合えないようだともったいないではないか。

「選手に熱い気持ちがあるかないか」ではなく、それが適温になるように温めたり、冷ましたりする。

それが指導者の存在意義だと思う。

 

※こちらも合わせてご覧ください

ゴールという目的地に辿り着くために 攻撃プランの構築に向けて 前編
https://fcl-education.com/raising/independence-coaching/game-plan-construction/

目の前の試合に勝利することだけ「勝つ」ことなのか 育成における「勝ち」について今一度考える
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/win-losing-raise/

執筆者

中野吉之伴

地域の中でサッカーを通じて人が育まれる環境に感銘を受けて渡独。様々なアマチュアチームでU-12からU-19チームで監督を歴任。097月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-154部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。オフシーズンには「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に日本各地に足を運んで活動をしている。17年10月からはWEBマガジン「子供と育つ」(http://www.targma.jp/kichi-maga/)をスタート。

RELATED関連する他の記事
PAGE TOP