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2019.04.02

選手の成長は指導者次第なのか 何をどのように学ぶか、そして変わるか

いつ、どこで、何を、どのように、という戦術の言語化が大事だと言われる。

選手目線になり接することが大事だと言われる。

しかし、なぜ大事なのであろうか。

おそらく「なんとなくよいことだろう」「周りがそう言っているから」という程度の理由でしかないだろう。

今だに多くの指導に関する話題も、教える-教えない、褒める-褒めないなどの方論的なものでしかなく、その時点で選手を操作対象としていることに無自覚であるし、「子どもはすごい、だから主体性を大事に」という言葉も不遜の裏返しで逆に上から目線でしかないような気がする。

教えられる前の「観察」「模倣(感染)」

ボードとマグネットを使って戦術を教えること、ゲームをストップさせてコーチングをすること等の前提としての「教える-教えられる」というような教授的指導関係は、ただの「制度」でしかない。

「ヒト」という生物としての学びの根源は「観察-模倣(感染)」である。

古来から日本には「見て盗む」という格言や「真似ぶ」という言葉があるが、観察-模倣的な学びの潜在的な学習プロセスを直感的に感じ取っていたのだろう。

観察が内部観察を促し、模倣によるシュミレーションがイメージの生成に繋がる。

学習や行為の次元においては、このプロセスが非常に重要なのだ。

逆に、指導者が「教え込む」ことが良くないのは学習プロセスを活性化させないからだ。

また、戦術理解と判断力の獲得や技術の自動化、身体操作性の獲得を声高に主題にすることが的外れなのも同様である。

枝葉の話しかしていないのであり、要は浅薄なのだ。

そして、観察や模倣が生じるのは「驚き」や「憧れ」という感情経験からであり、非主体的な営みであることも忘れてはならず、さらに言えば個人の頭の中や身体でだけ行われるものでもなく、より関係的全体的な営みであることも忘れてはならない。

加えて、イメージは身体感覚に基づくわけだが、それは「多様な運動」をしていればいい訳ではない。

体操のようなことばかりしているのは見ないふりをして、もし、多様な運動をしているだけでいいなら、とっくに皆が名プレイヤーだろう。

身体感覚の向上とは、身体と世界のかかわりの多様化を指し、外形的なことを指す訳ではない。

指導者と選手の関係性そして主体性

指導を通じて大人が子供から学ぶことがある、と言われることがある。

なぜだろうか。

それは、子どもが大人にとって全く異質な存在だからだ。

逆に、子どもが大人から学ぶのは、大人が子どもにとって全く異質な存在であるからだ。

このような「異質」な存在が「他者」であり、他者との出会いこそが、自分を変容する。

何かを伝えたい、理解してあげたい、関係を結びたい、変えてあげたい、というような願望や期待は素晴らしい態度のように見えて、自分にしか関心がない自己中心的な発想だ。

なぜなら、そこに子どもは不在で、見たいようにしか見ておらず、聴きたいようにしか聴いておらず、伝えたいようにしか伝えておらず、というように自分の枠組みでの構えでしかなく、指導関係においては「脱自」をキーワードにしなければならない。

主体性という言葉が、強制の対義語としての意味であるならば、極が移動しただけで本質的な変わりはない。

そもそもを問い直す

教えることイコール知識を言葉で伝えること。

学ぶことイコール知識を自分の中に取り入れること。

など、多くの自明視されている前提に立つ限り、スポーツ界で話題になる「スポーツ指導の問題」は、堂々巡りのような気がする。

新しいことを学ぶのではなく、自明と化したものへの問い直しこそが重要なのだ。

指導者が重要、学びが大事、といわれるが、どのような指導者、学びが必要なのかを明確にすることの方が重要ではないだろうか。

 

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執筆者

Football Coaching Laboratory代表 髙田有人

選手時代にはブラジルでの国際大会や、数多くの全国大会を経験。高校卒業と同時に指導者活動をスタートし、地域のジュニア年代で約10年の指導経験がある。ドイツへの短期留学やサッカーの枠を超えて、教育学、スポーツ思想・哲学、身体論など様々な分野も学び、全人格的な育成の可能性と実践、そのための指導者の養成をテーマとし活動している。

 

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