選手にとって「良い指導者」とはどんな存在かを考える

サッカー日本代表は、今年8月31日に埼玉スタジアムにて行われたワールドカップアジア最終予選オーストラリア戦にて、勝利を納め、6大会連続の出場を決めた。

世界的に見れば、ヨーロッパや南米を始めとした諸外国のレベルにはまだまだ劣るが、アジアでは強豪国の一つであり、昨今では、多くの日本人選手が海外のトップリーグで活躍をし始めているのも事実である。

なぜ、日本サッカー界が今のレベルに達したのか。先人たちや、Jリーグや各年代のトップレベルから幼児、小学生年代のグラスルーツまで、たくさんのサッカー関係者の努力の賜物であることに違いはない。

サッカー選手達の競技力が向上する要因は大きく分けて、競技人口の拡大、環境の整備、指導者の質•数の向上、身体的サポート(フィジカル、メディカル)、心理的サポート(メンタル)の5つである。

今回は、指導者の質•数の向上の中の、“指導者の質”について、指導者は選手にとってどのような立場で、どのようなことを心掛けなければならないのか、理想のコーチングとは何なのかという観点から、“指導者がやるべきこと”について論じる。

コーチングの本質とは?

現在、「コーチング」という言葉はスポーツのみならず、子供の教育における育児や仕事の能力を引き出すビジネスなどの世界からも注目されている。

勝田(2002)は「コーチングの本質は個々人やチームの能力を引き出し、最大限に伸ばすためのあらゆる支援活動である」とし、「人を導き、人を育てる営みでもある」と述べていることから、指導者は、コーチングというツールを活用し、それぞれの可能性を最大限に伸ばすことで、選手を育てていくことが役割であると考えられる。

つまり、いかにして個々人のレベルやキャラクターに合った効果的な指導をするかが鍵となる。

サッカーにおけるコーチングの本質 = 選手の能力を最大限に引き出す
→ それぞれの選手に最適な方法で指導する

効果的な指導とは?

サッカー指導におけるコーチの発話と選手の心理分析に着目した後藤ら(2015)は、選手とコーチの関係性を調査する質問項目から、選手がコーチングの影響をどの程度受けていたかを調査した結果、3項目において競技能力の低い選手がよりコーチングの影響を受けていたことが示された。

この研究では仮説として効果的な指導とは「選手に上達したと実感させ、自分のプレーへの満足度を高めることができる指導」であるとした。

要するに、指導者が個々人を伸ばす効果的指導をすることは、選手が上手くなった、できないプレーができるようになったなど、選手自身が実感しなければならず、決して指導者の自己満足で終わる、一方通行の指導であってはならない。

教科書通りや指導者の思い描いた練習ができたことが良い指導とは言えないのではないだろうか。

指導者の一方通行の押し付けではなく、選手が上達したと思えることが大切である

非言語コミュニケーションを使う?

指導者は、常に向上心を持ち、時には自分の指導を見直したり、他の人からアドバイスをもらうことも重要である。

今村(2011)は、育成年代の指導者に対し、行動観察法を用い、どのようなコミュニケーションスキルが有効か調査した。

その結果、言語コミュニケーションだけより、非言語コミュニケーションを用いるコーチングをした時の方が、選手に意図が伝わりやすいことを示した。

つまり、口でだけ選手に伝えるよりも、ジェスチャーや身振り手振り、一緒にプレーをして見本を示すなど、わかりやすい動作を伴った方が選手に伝わるということである。

また、伝わるという点だけを考慮すれば、あえて何も言わないというスローコーチングは皆無であり、その後の対応次第では無責任なコーチングになり兼ねない。

選手への伝わりやすさ  言語コミュニケーション < 非言語コミュニケーション

指導者自身も成長を?

東海林・金子(2014)は、「迷いのコーチング①Ambivalence」から「自己改革期②Reformation of self」を通じて「蓄積期③Accumulation」、「熟達期④Pro ciency」へ進むことが望ましいコーチングプロセスのモデルであるとした。2今村 原稿.

図1は、指導者が各ステージでそれぞれジレンマを抱えながら、成長していく過程を示している。

初期は「迷いのコーチング」の期間から始まり、コーチング経験が少ないと、放任してしまう「無責任なコーチング」と選手の考えを聞かずに独裁的にトレーニングを行うよう強制する「強制のコーチング」を行き来することが考えられる。

そこで、選手から反発を受ける、目標が達成できないなどの苦い経験をすることにより、このままではダメだという思いから、これまでの自分自身の選択や行動について振り返り、模索を始め、「自己改革期」へと突入する。

つまり、自分を客観的に分析し、把握することで、指導者自身が成長するように心掛けなければならないことがわかる。

紆余曲折を経て、指導者も向上心を持って成長すること

 

古い指導法とされるいわゆる一方的なスパルタ指導や海外の育成システムを真似したコーチング、サッカー協会が教本や講習会で示す指導など、現在も数多くの指導方法が存在する。どれも一長一短であり、正解はない。

しかし、指導の方法以前に指導者が選手にとって、どのような存在でなくてはならないのかもう一度考えさせられる。

選手の能力を最大限に引き出し、育てることがコーチングであり、指導者が一方的に上手くなったと思うのではなく、選手本人がこのコーチの元でプレーをしていて成長したと実感することが大切である。

そのためには、指導者は選手への伝え方を考え、工夫することを心掛けることに精を出して欲しい。

指導をしていると思い通りにいかないことは多く、いろんな場面でジレンマを抱えることがあるが、常に自分にベクトルを向け、指導をしている自分を振り返り、選手のみならず、指導者自身を成長させる向上心を持たなければならない。

指導者、選手共にレベルアップを実感できるような関係性が望ましい。


<参考文献>
勝田隆,『知的コーチングのすすめ 頂点をめざす競技者育成』、大修館書店、2002

後藤泰則,八坂剛史,『サッカー指導における「指導者-選手」の相互比較を伴った指導者の発話分析』,新潟県体育学研究 Vol.33 15-21,2015

和泉隼,森本吉謙,『大学サッカーにおけるトップレベル指導者のコーチング・メンタルモデル』,仙台大学大学院スポーツ科学研究科修士論文集 16,17-23,2015

後藤泰則,『サッカー指導における「指導者-選手」のコミュニケーションの相互比較-中学生サッカー選手を対象として-』,新潟大学大学院現代社会文化研究科前期博士課程現代文化専攻修士論文,新潟大学,2016

今村匠実,「選手育成を目指すサッカー指導者のコミュニケーション・スキル ー行動観察法による分析を中心としてー」,慶應義塾大学湘南藤沢学会第9回研究発表大会,2011

東海林祐子,金子郁容『コーチングのジレンマとその解決モデルの提案—高校運動部
の実践事例から導かれた仮説に基づく考察—』,「コーチング学研究」28(1),pp.15-28,2014

東海林祐子,金子 郁容,『コーチングのジレンマ : 勝利に向けたルールづくり』,慶應義塾大学湘南藤沢学会,Keio SFC journal Vol.14, No.2 ,p.58- 74,2014

 

※こちらも合わせてご覧ください。

指導者が自身を育成することが育成の始まり
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/sidousha-jishinwo-ikusei-ikuseinohajimari/

 

執筆者
今村匠実

慶應義塾大学政策・メディア研究科にて、スポーツ心理学、社会学を専攻し、修士号を取得。
柏レイソルユース・流経大柏、慶應大学など、名門チームでプレーし、全国優勝を経験。
文武両道をモットーに、スポーツのみらず、学校の勉強や課外活動にも力を注いできた。小学校二年生時に作文「オーイ、じいちゃん」で厚生大臣賞を受賞(日本一)したことをきっかけに毎年作文での全国区での受賞を続けた。

現在は、海外のプロリーグでプレーしながら、TERAKO屋学習教室(2011)、株式会社G.M.A(2015)、TWINKLES (2016)、TAKUMIアスリートアカデミー(2016)を設立し、多岐にわたる活動に勤しむ。

【職業】
スペイン3部リーグでプレー(現在練習生)
TWINKLES Director(CEO)
株式会社G.M.A 取締役
TERAKO屋学習教室 代表
TAKUMIアスリートアカデミー代表

【競技歴】
柏レイソルU12.U15
流通経済大学付属柏高等学校サッカー部
慶應義塾大学
Brisbane Force(オーストラリア2部)
Onehunga Sports(ニュージーランド1部)

 

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