ドイツの指導哲学 方法学的ゲーム系統について

私はケルン体育大学のサッカーコースで20人程の講義室で学生の発表を聞いていた。その中で、ドイツ人が他国へ出向き、育成システムを作り上げる事について触れられていた。

その中で、講師の方がこのような一言を述べた。

『システムはコピーできるが、我々の哲学を簡単に真似する事はできない』

システムとはその国の社会的、文化的背景の景況を強く受けて構築されていき、同じことを違う文化圏で行っても上手くいかない。

また、指導哲学が違うため同じメニューでもトレーニング効果が別物になってしまう可能性がある、という話だった。

このような話は、度々聞く話ではあるが、実際に何がドイツの指導哲学であるのかという話はなかなか聞かない。

強いていうのであれば

『ドイツはゲーム中心でトレーニングをしている』

という話はよく聞く。

しかし、どのような考え方があってのゲーム中心トレーニングなのか?

今回は私がドイツで見聞を広める中で見えてきた現地の指導哲学の一部についてお伝えしたい。

指導哲学: 方法学的ゲーム系統

以前よりドイツ語圏にはアメリカ英語圏の国々と比べて、独特な指導法が存在すると言われている。

中でも『方法学的ゲーム系統 / Methodische Spielreihe』と呼ばれるゲームベースの指導法は古くからドイツに存在しており、トレーニングを『簡単なものから難しいもの』『単純なものから複雑なもの』というように構築することで、徐々に複雑なゲームへと導いていくという考え方である。

ここでいう簡素化とは『パス練習』『シュート練習』のように、ゲームの中の1つの要素を切り取り、規則性がある単純な反復練習ではない。

サッカーの基本的な構造を変更せずにオーガナイズやルールを変更することでゲームの全体性を縮小させ、年齢やレベルに適したトレーニングを行う考え方である。

Knut Dietrichによるとサッカーは次の条件を満たしたゲームであるとされている。

『足で目標 (ゴール)に蹴られなければならない用具 (ボール) が存在し, そして蹴ることを阻止しようとし, しかも自分のゴールに得点しようとする誰か (相手) が存在する』

そしてサッカーの基本的なゲーム状況は次のように分類されている。

この条件をクリアしているものはサッカー系統に属するゲームであり、11vs11が最終形態となっている。

しかし、初めから11vs11のゲームを行うのは複雑性が高すぎるため、ここにたどり着くためには 3vs38vs8などのゲームを段階で追っていき、徐々にサッカー系統のゲームに慣れさせていく必要がある。

例えば、3vs3のゲームでボールを保持しているチームは、『ゲームを組み立てる』という状況がほぼ存在をしないため、いきなり『ゴールチャンスを作る』という状況からスタートされる。

コートサイズによってはいきなりシュートを打つ事ができる状況でゲームがスタートするかもしれない。

コートサイズを小さくして、人数も少なくすると、ボールタッチ数が増えて効果的な技術の習得にも繋がるが、11vs11のサッカーゲームの中で最も重要な状況が繰り返し起こるため、ゲーム理解の向上を促してくれるのではないだろうか?

このようにレベルと年齢に合わせて人数とコートを制限して行うことでインテリジェンスを伸ばしてくれるだけでなく、全員がシュートを決めやすい環境の中であるためゲームの中で『脇役』が存在しにくくなる。

そのため、近年ではFUNiño (ファニーニョ)と呼ばれる『3vs3 4ゴールゲーム』がドイツで広まりを見せており、ケルンがあるミッテルライン地域では、いくつかのクラブが合同となって協会主導のU-8練習試合リーグ戦とは別にFUNiñoリーグ戦を行なっている。

子どもたち(Niño)のサッカーへの欲求と能力にフォーカスをして、楽しくサッカーをする事(FUN)から名付けられたサッカーゲームであり、ホルスト・ウェイン氏によって2000年以前には既に考案されている。

少人数という特性上、出場選手全員がボールを中心として主役となり、全員が点を取って試合を終える事が可能である。

点差が3点差以上になった場合、負けている方のチームは2点差になるまで4人でプレー可能なルールがあるなど、サッカーがつまらなくて辞めてしまう子どもや早期選抜によるドロップアウトを防止する事ができるのではないかと言われている。

大人の介入を極力防ぐために、ゲームは審判なしで進行して行き、指導者もコーチングをほとんどしない。

いや、コーチングをしないというよりは、『子どもがそのゲームの攻略法を発見しやすいオーガナイズ』となっているため、そこまで必要としないと言う方が正しいだろうか。人の声がけは、子どもがミスしたのであれば鼓舞をして、良いプレーがあれば褒める程度である。大人の役割は子どもが気付かないように、そっと背中を押してあげる事なのだろう。

ゲームvs練習

ゲームに基づいた指導が行われている以前には、パス、シュート、ドリブルと言った要素を切り取った練習を多く行なっていた時代もあったようだ。

しかし、その練習内で技術が上達しても、ゲームの中で全く活かされない問題が度々あったようである。

ゲームの全体性を縮小したものを教材としてトレーニングを進行していくことのメリットとしては、簡素化したゲームで少しずつそのゲーム系統の攻略法に慣れさせる事で最終的に行いたいゲームに近づける事ができ、初心者も直ぐにゲームを始める事ができる点だろう。

もちろん、ゲームだけでサッカーが上達をする訳ではない。時にはドリルなどの動きが規則的になるような練習形式のトレーニングも必要となるはずである。

そのため、『トレーニングは状況に特化して行われるべきか?それとも動作改善に特化して行われるべきか?』という議論が度々行われているが、まずは年齢やレベルに適したゲームでサッカーを好きになってもらう。ゴールをたくさん決める事が出来ればその可能性は上がるかもしれない。

加えて、その中である程度のパスやシュート、ドリブルなどのサッカーの専門テクニック感覚を養った後にドリルトレーニングで磨きをかけて、再びゲームに戻る。このサイクルを繰り返すことで、少しずつ上図の輪郭を大きくしてゲームの複雑性を広げていく事が大事であると私は思う。

ゲームを中心として練習で足りない部分を補えるような相互関係を組み立てていく事が大事である。

例えばだが、テレビゲームでも初めて格闘ゲームで遊ぶときも、練習モードから始める人は少数派だと思う。

レベルが低くとも対戦モードから初め、ゲームを進めていく中で何かをキッカケとして初めて練習モードという選択肢があるのではないだろうか。

サッカーというゲームでも同様に、パス&コントロールやリフティングの練習をしたいからサッカーを始める人は少数派だと思う。

GKコーチとして

最後に少しだけGKの話をさせて頂きたい。

先日、あるサッカーチームに臨時のGKコーチとして向かった。

GK人気がないとは言われているが、『GKをやりたい人??』と聞くと20人弱のチームで10人もの子どもたちが手を挙げてくれて、一緒にGKトレーニングを行なった。

技術練習のような規則性のあるオーガナイズではなく、GKバトルで『ゴールを奪う』と『ゴールを守る』の両方が含まれたオーガナイズで20分程、みんなでGKを体験することができた。

僕の役割は、GKをうまくさせる事よりも、GKを初めて体験する子どもたちにこのポジションを好きになってもらう、GKが好きな子どもたちにもっと好きになってもらう事だと思う。低学年のチームであれば、それはとても顕著になるはずだ。

『ボールに触ってゴールを守る』

フィールドプレーヤーがゴールをたくさん決める事で、喜びや楽しさを感じてサッカーをどんどん好きになってくれるのと同様のやり方で、GKを好きになってくれる子どもも増えてくると思う。

そして、我々はそのようなオーガナイズを考えていく必要があるのではないだろうか。

引き続き、ドイツの指導哲学を学び続けていきたいと思う。

 

参考文献

Dietrich, Dürrwächter und Schaller (2012): Die Großen Spiele

佐藤 (1994): 球技の教材の系統性に関する研究 - ドイツ語圏の方法学的ゲーム系統の概念の分析を中心に

 Wein (2016): Spielintelligenz im Fußball kindergemäß trainieren – Übersetzung des offiziellen Textes des Spanischen Fußballverbandes

 http://www.funino-berlin-brandenburg.de/

 https://www.dfb.de/trainer/f-juniorin/artikel/spielintelligenz-durch-funino-entwickeln-132/

 

※こちらも合わせてご覧ください

GKのフレームワークと各状況における原則~GK練習のための状況整理~
https://fcl-education.com/training/gk-framework/

GK練習の構築とジュニア年代におけるGK育成について
https://fcl-education.com/training/gk-goal-keaper-2/

情報戦とも言われる現代サッカー アナリストという存在とゲーム分析そして情報過多による落とし穴
https://fcl-education.com/training/information-football/

 

執筆者
落合 貴嗣 / Takatsugu Ochiai
1989年生まれ 29歳

日本大学文理学部体育学科を卒業後、2012年に渡独。
ドイツ・ケルン体育大学にてスポーツ科学を学びながら、当時U-19ブンデスリーガ・ウェストに在籍していたSCフォルトゥナ・ケルンU19のGKコーチに2015年に就任。
現在は同クラブのGKコーディネーターを兼任してGK育成コンセプトを作成するなど、ドイツ協会公認の育成アカデミー、通称『NLZ』としての認可を受けるための活動をしている。
SNSで情報発信も行なっている。

Blog: https://ameblo.jp/takatsugu-0413/
Twitter: https://twitter.com/takatsuguFC

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