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2017.10.26

ドイツにおけるサッカージュニア年代の位置づけと取組み

ドイツサッカーにおけるジュニア期とはU11までを指す。

青年期がU15(14-15歳)以降とされ、日本でいう小学校高学年から中学1年生に当たるU13世代(12-13歳)はその移行期と捉えられている。

ジュニアの位置づけはサッカーとの出会いの場だ。

生涯にわたってサッカーをやりたいと子供たちが思えるように、サッカーの魅力そのものと向き合える環境づくりが非常に重要になる。

そのためにはまず、それぞれの年代における身体的・精神的特徴と性質を知り、それぞれの年代でできること、できるようになること、時間をかけて取り組むべきことを把握することが大切だ。

それがわからないと、子どもたちの発達段階における最適なサポートを可能にすることはできない。

これらが整理されたうえで、将来的にどんな選手を育成するのかという逆算から、技術・戦術・認知・フィジカル・メンタルに取り組んでいくことが望ましい。

指導者は、成長過程の子どもたちが身体的にも精神的にも認知能力的にも許容量があることを常に頭に入れて向き合わなければならない。

小学生の間にできる限りのことを詰め込むことが目的であってはならないのだ。

適切な負荷でそれぞれの許容量を増やしながら、できることの質を高め、バリエーションを増やしていく。

子どもたちはそれぞれに成長スピードがある。年代別の取り組みは基準として大切だが、それにしばられるのもまたおかしい。

目の前の子どもと一緒に歩んでいく。その姿勢がなければならない。

さて、こうした定義が立てられれば、それぞれの年代に適切な人数とピッチサイズがおのずと見えてくるはずだ。

例えば、11-13歳ができることとはなんだろうか。

フィジカル的な面から見てもロングキックの距離は20-30mくらい。あるいはシュートを打つことができる、ゴールが決まる可能性が高まる距離は15mくらいではないだろうか。

そうなると、大人のピッチサイズはこの年代の子どもたちには大きすぎる。

ペナルティエリア付近までボールを運ぶのに走らなければならない距離は適切ではない。

だからといって、ハーフコートサイズのままではU15となって大人のピッチサイズ・ゴールサイズとの違いが大きすぎる。

そこでその中間として大人サイズのピッチのペナルティエリアからペナルティエリアまでのサイズで9人制を導入している。

そうすることで無理なくサッカーというゲームの中でいまやるべきことと向き合うことができる。

チームとして勝つために頑張るのはもちろんだが、それだけが目標になってはならない。

指導者として、子どもたちが怖がらずに勇敢に自分たちでボールをつなぎ、勝負できる局面では積極的に1対1に臨んでいくようにサポートしていくことが肝心だ。

そのためにはそれ以前のジュニア期で試合における状況判断の準備が整えられていることが必要となる。

ドイツをはじめ欧州では「サッカーはチームスポーツ」「パスサッカー」という考えが根底にある。

だからドイツにおいてまずサッカーの構造を知ることがジュニア期におけるファーストステップになる。

技術を身に着けてからではなく、まず「サッカーのあり方を知る」というわけだ。

「真ん中を守る相手に対して外に起点を作る」「そこでパスを回して攻撃しやすい状況を作る」「攻撃しやすい状況を作るまではボールを持ちすぎずにプレーする」「相手がずれたら真ん中を使う」「自陣ではドリブルしない」「意図のないプレーはしない」

こうしたことをU8-9から少しずつ練習で取り組んでいく。

もちろん最初は試合でできないことも多々ある。

でもそこで指導者が怒鳴ったりはしない。できないことが当たり前だからだ。

開いてボールをもらおうとすればそれだけで素晴らしい一歩だ。

今すぐできるようにならなくてもいい。少しずつメカニズムを覚えて、少しずつ形にしていこう。

半年もすれば、ボールを奪うと自然と広がり、失ったと同時に狭まって守備に走る姿が見られるようになり、同時にどこでドリブルをすべきか、どのようにドリブルをすべきかも整理されてくる。

そうしたサッカー構造を学びながら、練習や試合を通して技術と個人戦術を身につけていくことが大事だ。

U11までがジュニア期間だからといってU11で一つの集大成があるわけでもない。

それはU13でもU15でもU17でもそうだ。途上、だからだ。

ドイツにおいて、育成とは区切られて語られるものではない。青年期を終え、成年期を迎えるその時に、選手としても、人間としても自分の足で歩き、自分の頭で考え、自分の心で感じることができるようになるように、選手を導いていくことが大切だからだ。

育成期の終わりが引退のタイミングではない。そこからがスタートなのだ。

 

執筆者

中野吉之伴

地域の中でサッカーを通じて人が育まれる環境に感銘を受けて渡独。様々なアマチュアチームでU-12からU-19チームで監督を歴任。097月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-154部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。オフシーズンには「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に日本各地に足を運んで活動をしている。17年10月からはWEBマガジン「子供と育つ」(http://www.targma.jp/kichi-maga/)をスタート。

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