選手が語るスペインのサッカー 現場から知識を紡ぐことの重要性

スペインサッカーと聞くと、緻密な戦術、華麗なパス回しを基本とした超攻撃型サッカーを思 い浮かべることも多いのではないだろうか。

FCバルセロナ、レアルマドリード、アトレティコマ ドリードを筆頭に、強豪クラブ揃いで、毎試合どのチームが勝つか予想のしづらいゲーム展開を見 せるリーガエスパニョーラ。

日本代表乾選手や柴崎選手も所属するこの世界最高峰のリーグのレベルは計り知れない。

上のカテゴリーから下のカテゴリーまで、どの試合を見ても、スピード感があり、難易度の高い素晴らしいゴールが生まれるのは、スペインという国全体のサッカーレベルの高さを表している。

それゆえに、今まで多くの日本人選手がリーガのクラブに移籍し、スペ インリーグでの挑戦を試みたが、順応することが大変困難であった。

それは、サッカーのスタイルの問題か、戦術理解力の差か、言葉の壁か、文化の違いか、要因となるものは数え切れない。

 「ピッチに立つ22人が全員違う選手に見えるね。誰一人同じプレーをしていないよ。」 私が初めてFCバルセロナのホームスタジアム、カンプノウでクラシコ(FCバルセロナ対レアルマ ドリードの試合)を見た時に、一緒に試合を見たサッカー少年がそう言った。

私も全く同じ感想を持った。 

日本では、例えば、どのチームもトップ下に小柄でテクニックのある選手がいて、よく走るサイ ドバックがいて、といったようなことはよくあるが、クラシコに限らず、チームの色、個人の特徴 が日本よりも恐ろしいほど数多く存在するのがスペインである。

よく日本で、「あの選手、大したことないなあ.」なんて、外国人選手に対して口にする者もいるが、それはサッカーの本質を理解できておらず、身軽でフォームのスマートな選手を“上手い”と表現する典型的な悪い例である。

クラシコでは、交代して出場した選手も含め、全員が自分の長所を存分に発揮してプレーしていた。

それだけ自分の武器を研ぎ澄まさなければ、あのレベルでプレーすることは不可能なのだ。

ただし、彼らにも短所はある。

それをうまく隠す能力に長けているのである。

つまり、この超ハイレベルな国の中で、自分が生き残るためには、とことん得意なプレーの精度を上げ、そのプレーを試合の中で、チームの勝利のために如何にして活かすかを小さい頃から植え付けられているのだ。

苦手なことを克服して、なんでもできるようになるという考えは、“上手い”の定義の違う日本人の特徴であり、人目を気にして、人と同じように足並みを揃え、平均的な能力を持つ者を良しとす る日本の教育や文化に依存するのではないかとすら考てしまう。 (決して日本を否定しているわけではなく、この文章では、スペインと日本の特徴を比べている に過ぎず、良し悪しの話をしているわけでない。)

 「バルサのようなパスサッカーをやるぞ!サリーダデバロンだ!コンドゥクシオンだ!」 日本の指導現場でスペインのサッカー用語を聞くことが最近多い。

“サリーダデバロン”は、そのまま訳すと“ボールの出口”となり、サッカーにおいては、“ビルドアップ”のことである。

聞いたことのない言葉を使うと、子供たちは、興味が湧き、スペインサッカーの良いイメージを持って、ワクワクしたプレーができる点で良いと思う。

“ボールの出口”というと、後ろから築き上げる、組み立 てるという“ビルドアップ”よりも、相手の守備網をボールが抜けていくというような感覚が付加されるため、新しい刺激がある。 

しかし、そもそも日本語をペラペラと話すには10000語必要であるのに対し、スペイン語は最 低1500語必要と言われており、言葉の表現自体、日本のように細かなものがない。

“サリーダ デ~”という言葉にも使い方によってはいくつかの解釈があり、“サリーダ”の動詞である“Salir”に も数多くの意味と用途が存在する。

つまり、スペイン人の感覚では、その言葉が大切なのではなくて、 もっと奥の深い、サッカーの本質に迫る理解の部分を意識してプレーし、指導している。

   “コンドゥクシオン”は、サッカーにおいて、“運ぶドリブル”と訳すが、スペインにはドリブルという言葉が無く、“運転”という表現を使っているに過ぎない。

彼らにとって、それはただの日常に過ぎず、その言葉を使うことによって、サッカーの概念が覆ったかのような錯覚に陥る日本人 は、サッカー文化が高いとは言えず、まだまだ歴史が浅いのであろう。 

とある町クラブのジュニアユースU13の試合を観戦している時に、隣に座っていたおじいちゃん が、「あの選手、戦術的なミスが多いよ。チームの戦い方を理解できていない。」と声を荒げ、 その前に座る10代の女の子が、ボールを取られた後にすぐ取り返して、キーパーまでボールを下 げ、パスをしっかり繋いで、自チームのボールにしたプレーに立ち上がって拍手をするのを見ると、 スペインの戦術を小手先で真似すれば、日本でも上手くいくと考えることは、少しばかり危険で、 指導者のより深い考察が必要であると考えている。

 スペインサッカーに憧れ、スペインで1シーズンプレーしてみて、率直に思ったことである。

 

執筆者
今村匠実

慶應義塾大学政策・メディア研究科にて、スポーツ心理学、社会学を専攻し、修士号を取得。
柏レイソルユース・流経大柏、慶應大学など、名門チームでプレーし、全国優勝を経験。
文武両道をモットーに、スポーツのみらず、学校の勉強や課外活動にも力を注いできた。小学校二年生時に作文「オーイ、じいちゃん」で厚生大臣賞を受賞(日本一)したことをきっかけに毎年作文での全国区での受賞を続けた。

現在は、海外のプロリーグでプレーしながら、TERAKO屋学習教室(2011)、株式会社G.M.A(2015)、TWINKLES (2016)、TAKUMIアスリートアカデミー(2016)を設立し、多岐にわたる活動に勤しむ。

【職業】
スペインリーグでプレー
TWINKLES Director(CEO)
株式会社G.M.A 取締役
TERAKO屋学習教室 代表
TAKUMIアスリートアカデミー代表

【競技歴】
柏レイソルU12.U15
流通経済大学付属柏高等学校サッカー部
慶應義塾大学
Brisbane Force(オーストラリア2部)
Onehunga Sports(ニュージーランド1部)

 

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