〈体幹神話〉の問い直し 体幹トレーニングは競技力向上に繋がるのか

 一昔前になるが、「体幹トレーニング」というトレーニングが某有名選手を通じ、メディアで取り上げられ話題になった。その効果もあってか、競技指導者の口から「体幹が弱い」、「体幹が安定していない」等の体幹批評が聞かれる事が多くなったように感じるし、選手からも「体幹を強くするにはどんな事をしたらいいか?」と問われる事が明らかに多くなった。

競技トレーニングの現場では、そうしたニーズに応えるため様々な体幹トレーニングが提案されている。そのほとんどが腹部筋の緊張にフォーカスしたものであり、下腹部を収縮させるドローインなどはもはやダイエットにまで効果があるとされ、一般化されている。

このように多様化した「体幹トレーニング」の中から、競技力の向上に結びつく可能性が高いものを選択していくには、それぞれが従事している競技における身体の使い方を考慮する必要があるだろう。

一般的にサッカーやバスケットボール等の対人競技で語られる「体幹の強さ」とは、相手とのコンタクト時やチェンジディレクション時の重心位置のコントロールに筋の緊張・弛緩のコントロール等が相まって発揮されているものと考えられ、それは常に速度を伴った身体の移動や、ボールコントロールスキルの発揮と同期する。

しかし、多くの体幹トレーニングは、競技に必要とされる体幹の使い方を考慮せずに行われている。

例えばプランクと呼ばれるような肘とつま先で身体を保持する種目では、全く重心の移動は発生しない。クランチと呼ばれる昔ながらの腹筋運動のような種目も同様で、筋の収縮は発生するが身体の位置が移動する程の重心の移動は発生しない。重心の移動に伴い発生する身体動揺性を安定させるために体幹の筋群が使われるのであれば、重心の移動を伴わない体幹トレーニングにどの程度の意味があるのか甚だ疑問だ。

さらに、多くの体幹トレーニングが「筋を収縮させる事」を注目しているが、実際の競技動作においては「筋が瞬間的に弛緩する事」も重要だ。相手の動きに反応する時や、フェイントを使って相手の姿勢を崩す時に、自らの腹部に過剰な緊張があるようでは身体を自由に扱う事が困難になるだろう。緊張と弛緩が連続的に発生するからこそ、動作の緩急がコントロールできる。

また、これは体幹に限った話ではないが、一般的に知られている体幹トレーニングの多くが単に「筋肉を収縮させ疲労させる」事を目的として考案されており、いかに効率を悪くして努力感を強く感じさせるかを追求しがちだ。ボディビルのようなトレーニングではそのような発想が必要だろうが、競技動作はいかに少ない力で多くの運動エネルギーを得られるか、つまり効率を追求する必要がある。また、その運動効率の追求はバーベルやダンベルに対し発揮されるのではなく、自らの身体や能動的に反応する相手に対して発揮され、かつ競技特有のスキルと同期させる必要がある。

このように考えると、競技における体幹の強さは、「筋トレ」と呼ばれるような枠内で収まるものではない事が分かる。筋の収縮だけを目的とした筋トレと、競技は全く別次元の世界に存在しているものだ。

競技におけるトレーニングの必要性が認識され、それ自体は一般的になりつつあるが、競技とトレーニングの間にある断絶についてはあまり認識されていない。この断絶を埋めるにはトレーニング指導者自体が筋肉と関節だけで人間について知ろうとするのを止める必要があるだろうし、「トレーニングを競技に近づける」のではなく、「競技をトレーニングに近づける」発想を持つ必要があるだろう。

 

※こちらも合わせて読んで頂けると理解が深まります。

スポーツにおいて「良い姿勢」という絶対解は存在するのか
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/sports-posture/

 

 

執筆者紹介
山木伸允

Movefree代表 
Athla conditioning arts 代表 

□サポート経歴
慶應義塾大学体育会バスケットボール部
慶應義塾大学体育会剣道部
早稲田大学アルティメット部
明治大学体育会バスケットボール部
明治大学体育会バレーボール部
bjリーグ京都ハンナリーズ
bjリーグ東京サンレーヴス 他

□学歴
早稲田大学商学部卒業
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了
慶應義塾大学大学院後期博士課程健康マネジメント研究科スポーツマネジメント専修在籍
日本鍼灸理療専門学校卒業

保有資格
ナショナルストレンス&コンディショニング協会認定スペシャリスト
日本体育協会公認アスレティックトレーナー
鍼灸あん摩マッサージ指圧師
National Academy of Sports Medicine Performance Enhancement Specialist / Corrective Exercise Specialist
EXOS Performance Specialist
メンタルケア学術学会メンタルケア心理士

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