スポーツにおいて「良い姿勢」という絶対解は存在するのか

昨今では、「姿勢が良い」事が競技力の向上や傷害予防に役立つとして、ストレッチングや呼吸やトレーニング等様々な方法論が主張されている。

一般的なトレーナーや競技指導者が用いている「姿勢が良い」という言葉は、静的立位における姿勢の事や競技における姿勢を指している場合が多いだろうが、この「姿勢が良い」という言葉には一考の余地があるだろう。

日本国内では、ウエイトトレーニングの一般化が進み多くの競技者が若年時代からトレーニングに取り組むようになったが、それと同時にトレーニング時の姿勢と競技時の姿勢を混同して理解している選手や指導者も多数見られるようになった。

例えばウエイトトレーニングにおけるスクワットの姿勢をそのまま競技における構えの姿勢として指導しているトレーナーはたくさんいるし、レスリングや柔道の組み手争いの時にも背中のトレーニングを行うような胸郭を拡張して股関節屈曲を強調した姿勢が「良い姿勢」だと指導している場面も目にする事がある。

また、競技中に発生する傷害を全て「姿勢が悪い」事に原因を求めて、傷害部位への治療やリハビリテーションよりも「良い姿勢」の獲得こそが根本的治療だと主張するトレーナーや治療家も多々存在する。

こうした主張が言わんとする事は感覚的には理解できるが、果たして「良い姿勢」という、「絶対解」は本当に存在しているのだろうか?

そもそも「良い姿勢」とは何なのか?「良い姿勢」であれば競技力が向上して、傷害を負う事もなくなるのだろうか?「良い姿勢」であれば相手よりもより速く、より強く、より正確にプレーできるのだろうか? 

様々な競技の様々なプレーを観察していると、姿勢は「良いor 悪い」で区別するようなものではなく、プレーにおけるその局面に「適切or 不適切」な姿勢であるかが重要である事が分かる。一見「姿勢が悪い」選手であっても、ある局面ではその身体重心位置や力の伝達が適切である場合があり、所謂「姿勢が良い」選手が「姿勢が悪い」選手に抜かれたり、押し負けてしまう事は当然のように頻発する。

「姿勢が良いからパフォーマンスが高い」のではなく、「ある動作に対して、選択された姿勢が適切だからパフォーマンスが高い」のだ。平常時から背筋が伸びて顎も引かれていて、トレーナーが喜んでしまいそうな姿勢の選手でも、身体を丸める事が不得意であったら、競技において発生する様々な局面において「適切な姿勢」を維持する事は困難だろう。常に背中が丸まっていて「姿勢が悪い」選手も同様で、上方向への力の伝達や軸圧に抵抗する場面では不利になりやすく、ランダムに発生する競技の状況下で常に「適切な姿勢」を維持する事は難しいだろう。

このようにして考えると、「良い姿勢or 悪い姿勢」という二分法的な考え方は、多様性のある人間運動について説明するにはあまりにも短絡的である事が分かる。同時にこうした短絡思考は多分にステレオタイプであり、ラベリングを誘発する端緒となる可能性も含んでいる。プレーを見る前に姿勢の良し悪しで選手を個性付けてしまったり、運動能力や傷害可能性を評価せずに選手の身体特性を判断してしまうような事も耳にする事がある。

人間運動のように多様性のあるものを前にすると、ありもしない絶対解や大雑把な分類法に頼りたくなってしまう。それは思考の停止である事に留まらず、目の前にいる人間の個性から目を背ける事にもなる。

人間運動は多様であり、一つとして同じものはない。また、何か一つ勉強したからそれで全て理解できる、といった簡単なものでもない。しかし、だからこそ指導という仕事の余地があるのではないだろうか。

 

※こちらも合わせて読んで頂けると「体」に関しての理解が深まります。

ファンクショナルトレーニングの本質
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ウェイトトレーニングとスポーツパフォーマンス
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執筆者紹介
山木伸允

Movefree代表 
Athla conditioning arts 代表 

□サポート経歴
慶應義塾大学体育会バスケットボール部
慶應義塾大学体育会剣道部
早稲田大学アルティメット部
明治大学体育会バスケットボール部
明治大学体育会バレーボール部
bjリーグ京都ハンナリーズ
bjリーグ東京サンレーヴス 他

□学歴
早稲田大学商学部卒業
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了
慶應義塾大学大学院後期博士課程健康マネジメント研究科スポーツマネジメント専修在籍
日本鍼灸理療専門学校卒業

保有資格
ナショナルストレンス&コンディショニング協会認定スペシャリスト
日本体育協会公認アスレティックトレーナー
鍼灸あん摩マッサージ指圧師
National Academy of Sports Medicine Performance Enhancement Specialist / Corrective Exercise Specialist
EXOS Performance Specialist
メンタルケア学術学会メンタルケア心理士

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