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2017.06.26

精神統一と心身統一 顎を引き、脇を閉め、腰を入れる

健康の為に呼吸を稽古する。これは東洋西洋問わず、呼吸法をもとにした健康法や養生法、そして単に健康法だけではなく、武術など生死を分けるような状況でこそ呼吸は重要視されるものといえます。 

気持ちを落ち着けるために深呼吸をすることは、学校などで習わなくても誰でも一度はしたことがある行為ではないでしょうか。しかし現代では、この呼吸法もどこか形骸化してしまい、下手をするとオカルトや神秘化させてしまいますが、スポーツでは単純に最大酸素摂取量の増加や持久力の向上、心肺機能の強化という質量のある物質という、呼吸の全体から見たらその半分にしかスポットライトが当たっていないと思われます。 

心、技、体を「心技体」にする。これこそ精神統一であり心身統一という自然体を取り戻すことす。そして、その為には正しい呼吸と姿勢を身に着ける事が必要となるのです。最終回となる今回は正しい呼吸、姿勢がなぜ簡単でないのか、自然体とはなにかついてお話ししたいと思います。 

顎を引く 脇を閉める 腰を入れる(立てる)という三種の神器。

「背筋をしゃんと伸ばしなさい」 背筋を伸ばす 何気なく使う言葉ですがこれを「せすじ」と読むのか「はいきん」と読むのかでその意味するところ、そしてやるべきことが違ってくるということにお気づきでしょうか?

筋を「きん」と読むか「すじ」と読むか もちろんそれはその状況で言い方を変えるものですが、スポーツやトレーニングの世界では身体言葉と言われる肉体を比喩的に使う言葉を用いて選手同士や監督コーチから指導や指示を受けることがあると思いますが、西洋式のコーチングといわれる共通の言語を用いて頭脳で理解することから肉体をどのようにコントロールするか?という手法や技法では主観的でかつ抽象的なものや擬態語などを用いた感覚重視の指導や指示は客観性がなく科学的ではないという理由から今の時代では受けいれ難くなっているように思われます。

つまりはアクティブな肉体というフィルターを通して得た情報と本や映像から受動的に得た視覚情報(視覚ももちろん肉体を通していますし筋肉を使って眼球運動していますがここでは眼球以外の身体を能動的に動かしながら情報を得ていないという条件とします)ではその内容が異なると言えるのです。

スポーツの基本は真似ることからといいますがこれは人間という動物の発達学上でも大事だと言えます。真似るとはその人と動きをシンクロさせることで自分の発想の中でしかできなかった未知なる動作を会得するには必要でありますし、実際にミラーニューロンといわれる脳神経細胞が人の発達成長には重要であることがわかってきています。

俗にいう運動神経がいいという人ほどやはり他人の物真似はうまいと言えます。それは学習能力の高さをも意味します 物真似が上手であるという事はその見たものの特徴を一瞬で見抜く脳力(分析能力)が高く、かつそれを肉体に命令をだして動かすという運動能力の高さをも意味するのです。

気の巡りがいい、つまりは息の巡りがいいという事、これは息苦しくないという事でもあります。所謂、猫背ではそれは物理的にも胸を圧迫することで呼吸が浅くなりがちとなるだけではなく、猫背とはその人の心の状態、精神状態の表れであるともいえるのです。

顎が上がる これは息が上がるときにみられる姿勢といえます。息苦しくなったときに顎上げるな、顎を引け、と言われて気合いだけで顎を引いても逆に息苦しくなってしまったという経験はありませんか。同じように「脇を締めろ」と支持をされて脇を締めたら窮屈になってしまいますます動作がぎくしゃくしてしまった。

「腰が引けてるぞ」腰を入れろ と言われ、腰を入れたつもりが 「腰を反るな」と逆に怒られたなど、頭でイメージしていることがそのまま肉体で表現することは至難の業といえます。顎を引く 脇を締める 腰を入れる これは3つが全てそろって初めてそれぞれの言葉の意味するところになるのです。

へっぴり腰で顎を引くと更に更に息苦しくなり姿勢はますます歪むことになります。顎が上がっているのに脇を閉まると更に腰は抜けることになります。猫背は良くないとわかってはいるが、しかし背筋を伸ばしたいい姿勢は辛い。それは頭の中でいい姿勢について知っているだけで実際に肉体を通していい姿勢を学んでいない為と言えるのです。

統一体、自然体 これは息をつめて筋肉を固めたものではなく、全身の筋(すじ)に気を通し爪の先までコントロールできる心身の状態を意味するものです。人間は場の空気を察する能力を他の動物同様に持っています。それは「場の空気を読む」という言葉にあるようにそこにいる人の呼吸、息遣いを無意識のうちに肌で感じていると言えます。

いいチームはチームの空気がいいといえます。それはそこにいる選手の息遣いが乱れていないともいえるのです。風通しがいい心身の状態を作ることが本来のトレーニングと言えるものです。息苦しいことにただ耐え忍ぶだけではいいチームワークは生まれません。チームが一つになるそのためにはまずは自分自身の心身を一つにすること。

次のシリーズではトレーニングの為のトレーニングにならない為にはどうしたらいいのか?について話を進めていきたいと思います。

※こちらも合わせて読んで下さると理解が深まります。

精神統一と心身統一シリーズ

第一回目 精神統一と心身統一 呼吸と姿勢の重要性 part1
https://fcl-education.com/training/performance/fcl-posture-breath-mind-body-unified/

第二回目 精神統一と心身統一 精神統一と心身統一 呼吸と息遣い part2
https://fcl-education.com/training/performance/fcl-posture-breath-football/

 

 

執筆者紹介
内田真弘 
1970年3月10日生まれ

神奈川衛生学園専門学校 東洋医療総合学科  教員
横浜国際プールはりきゅうマッサージ室    室長
筑波大学 理療科教員養成施設       非常勤講師
東京衛生学園専門学校 東洋医療総合学科    非常勤講師
東京衛生学園専門学校 臨床教育専攻科     非常勤講師
ヒューマンアカデミー横浜校 トレーナー科     非常勤講師

ドイツ VPTアカデミー 認定 スポーツフィジオセラピスト
ドイツ VPTアカデミー 認定 PNF 

神奈川衛生学園専門学校東洋医療総合学科卒業後、ドイツ、フェルバッハにあるVPTアカデミーフィジオクラスに招聘され、スポーツフィジオ、マニュアルセラピー、PNFなどのアシスタントを務め、帰国後は各種専門学校での講義、治療院での患者さん、アスリートの治療、指導にあたる。日本サッカー協会主催の第56回サッカードクターセミナーでは「スポーツ競技に対するゼロ式姿勢調律法の有効性」を講義。神奈川体育センター主催のアスリートサポート講座での姿勢と呼吸についてのセミナーや、神奈川県体育協会主催での「PNF]セミナーなど各地で講演なども行う。指導しているアスリートもプロ野球、スピードスケート(オリンピック日本代表選手)、フィンスイミング日本代表、プロボクサー、サッカー、レスリング、テニス、ダンスと幅広く行う。

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