2017.07.20
世界のサッカー強豪国に学ぶ アルゼンチンサッカーの根本
現在のサッカー界で、ブラジルに続き世界で2番目に多くのプロサッカー選手を輩出している国、アルゼンチンとはどのような育成を行なっているのか、今回は南米をテーマに「個」の育成について述べていきます。
アルゼンチンは人口約4300万と日本の約3分の1で南米圏内でも最もサッカーに情熱を注いでいると言われるほどサッカーが文化として成立する国で、アルゼンチンリーグは1部リーグから地域リーグまで全てがピラミッド型となっており育成年代からトップチームまで、日々常に競争が行われています。
アルゼンチンではメッシ、テベス、アグエロを始め多くのトップレベルの選手を輩出しているが、どのような育成を各年代で行なっているのでしょうか。
勝者のメンタリティ「南米の勝負強さ」
今年2017年GWで開催された東京国際ユースで来日したアルゼンチンの名門ボカ・ジュニアーズの14歳カテゴリがFC東京ジュニユースをPK戦のうえ破り優勝し、勝利の喜びを日本で爆発させ会場を盛り上げたのも記憶に新しいですが、南米アルゼンチンの「強さ」とは何なのでしょうか。育成年代では内容にこだわることも必要ですが、とにかくアルゼンチンはどんな試合でも勝ちにこだわり、勝負をしています。
Mentalidad de ganador=「勝者のメンタリティ」
この部分に育成のヒントがあります。アルゼンチンでは勝負に日頃からこだわるとにかく負けず嫌いな国民性と言われ、公園で行うミニゲームも遊びのフットサルでも、6歳の子供から50歳の大人まで誰もが本気でプレーします。日本でいう「空気を読む」とか「本気でプレーする恥ずかしさ」みたいなものはありません。
常に「本気」vs「本気」。
この環境が日頃の遊びから生まれ、自然にどのように自分たちが優位に試合を運べるか、勝つことができるかと考えることができます。
この状況でボールの取られ方が悪くなれば決められる、ここで決めなければ負ける、といった環境が常に日頃から行われているため「勝負強さ」が生まれるのです。
日本では普段のトレーニングからどこまでハングリーに勝利のためにこだわっているのでしょうか。技術的・戦術的項目の質の向上などは絶対ですが、全ては試合のため。メンタル的な育成=「試合でこの選手がいればチームは楽になる」という育て方は少ないでしょう。「サッカーを知っている」選手を育てるためにはゲームの流れを常に読め、チームを優位に運ばせるための意識づけやノルマをいれたトレーニングも日本人には必要かもしれません。
アルゼンチンにはVIVO(ビーボ)という言葉があります。ずる賢さという意味で生きるための力を持っている人間のことを示します。アルゼンチンサッカーではVIVOであり勝利を貪欲に求められる選手が要求されます。
いくら相手にボールを支配され、回されても、攻められても一本を沈ませ「勝てる」チームは沢山あります。本気vs本気の中で常に日頃から勝つ事を考え、プロになり家族を幸せにさせるために「南米の勝負強さ」は生まれているのです。
育成年代から相手を本気で倒す、本気で闘う、その気持ちが無い選手はいくら技術があっても高い戦術理解度があっても成長することはないとアルゼンチンでは言われます。相手も仲間もサポーターもその「本気」を持って闘う環境の中でのプレーはシビアで非常にプレッシャーがありますが、その中でもトップレベルの選手は負けないメンタルとそれを優越するプレーを持っています。日本の育成年代で一つのボールに対して毎日「思い」と「執念」を持ち、尚且つ専門的な項目を学ぶことが出来ればまた新しい選手が生まれてくるかもしれません。
育成年代の指導について
アルゼンチンでは各年代どのチームも基本的なポジションは4-4-2の以下のダイヤモンドのシステムを起用しています。
各ポジションの役割が育成年代から明確になっていることから、どのポジションも上記の番号で呼ばれています。チームではもちろん、選手個人がどのようなプレーを要求されているか把握できるので何のプレーが良くて、何が悪いかも分かりやすい。例えば5番(例:マスチェラーノ,シメオネ)はボールをとにかく奪う、ボール保持時には展開を要求され、ゴール前での攻撃参加は要求されません。10番(例:リケルメ,アイマール)は閃いたプレーと、一瞬でゲームを決める選手、9番(例:バティストゥータ,イグアイン)はゴール前で仕事をする典型的なストライカー、7番(例:アグエロ,サビオラ)は9番の周りのエリアでプレーできるスピードある選手、11番(例:ディ・マリア,クラウディオロペス)は左サイドのドリブラーなど役割が明確になっていることからポジションのスペシャリストが育ちやすいと世界では言われています。
日本ではポジションの役割もチーム・指導者によって変わります。高校生年代になってポジションが固定されていないクラブもあれば、ポジションの役割が明確担っていないことも珍しくはありません。アルゼンチンではサッカーは文化として根付いていることから各ポジション・役割は公園でサッカーをしている少年、キオスコで働くおじさんまで理解しています。
現代サッカーでは柔軟な適応能力とクオリティが要求されますが、日本では各ポジションでのスペシャリストが少ないと感じます。
育成年代からアルゼンチンのポジション役割等のノウハウ、文化はヒントがあるかもしれません。
フィジカルコーチの重要性
アルゼンチンでは各年代(6歳~21歳※ユーズカテゴリ)基本テクニカルコーチとフィジカルコーチの2名がセットでトレーニングを行います。技術・戦術に特化したテクニカルコーチ(※アルゼンチンではテクニコと呼びます)とコンディション・筋力トレーニングに特化したフィジカルコーチ(※フィジコ)は専門的な勉強・資格を保有した指導者で各年代論理的な知識に基づきトレーニングを構成します。
日本ではテクニカルコーチ1名でフィジカル的項目のトレーニングからテクニカルな指導を全て行うケースが多く見受けられます。何が言いたいかというと、アルゼンチンでは育成年代から土曜日のリーグ公式戦に向け全てのコンディション、筋力トレーニングがプロフェッショナルに行われています。
瞬発系のトレーニングから持久系のトレーニングまで選手の成長過程に合ったトレーニングの構成、アルゼンチンの球際へのアグレッシブさ、勝者のメンタリティはフィジカルトレーニングによる「強さ」からの信頼も、少なからず関係性があると言えるでしょう。
日本人の技術的ポイントは世界でも非常に高いレベルがあるとされますが、フィジカル的ポイントは何か育成年代の南米にヒントがあると思われます。
育成年代からプロフェッショナルにフィジカルトレーニングも行うことで体に身体的アドバンテージを持てると同時に技術のポテンシャルアップに繋がると南米・アルゼンチンでは考えています。
※こちらの記事も合わせてご覧ください。
日本とスペインの育成の違い
https://fcl-education.com/raising/independence-coaching/fcl-spain-football-world/
ブラジルサッカーを取り巻く環境の違いから育成を考える
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/brazil-football-soccer-world-japan/
執筆者
Football Coaching Laboratory編集部