2019.08.23
基礎技術向上のための反復練習の弊害 スポーツ技術とボール感覚という考え方について
足が速いだけの選手が、体格が良いだけの選手が、ガッツだけある選手が、競技選手として不十分なことは、多くの指導者が知っている。
競技スポーツにおいてはスポーツ技術が重要で、スポーツ技術とは、スポーツという情況で運動課題を解決する一連の運動を意味するが、サッカーの攻撃行為では、足でボールをコントロールしなければならないため、その前提の中核には間違いなくボール感覚が挙げられる。
これまで何度も述べていることだが、ボール感覚とは攻撃行為(パス・トラップ・ドリブル・シュート等)の調整力を指し、調整力とは、時間・空間の面でどのように力を加えるか、という能力だ。
運動学習的視点としての転移
基礎に終わりはないとして、リフティングやコーンドリブル、足技のトレーニングなど、特定のスキルの反復によってボール感覚を高めようとする取り組みはいまだに根強い。
ただ、シュミットの運動学習の理論によれば、運動の習熟は特殊化を意味するため、習熟に連れて転移は起こらなくなると考えられている。
仮に、リフティングを通じてボール感覚が向上するにせよ、ある程度できればなんの問題もないということであり、トレーニングにおいては「ひとつのことをコツコツ」よりも「多様性」が求められるということだ。
また、スキルの転移には「類似性」が非常に重要で、微妙な違いでさえも転移は生じなくなると考えられているため、プログラムを作成する際には、サッカーにおけるスキル特性をしっかりと考えなければならない。
つまり、ドリブルの感覚はドリブルをすることで、パスの感覚はパスをすることで、トラップの感覚はトラップをすることでしか生じず、その行為を通じた様々な感覚の感じ取りとその調整により能力は形成されるため、サッカーのスキル特性からかけ離れた行為が、ボール感覚の向上に繋がるとは言い難い。
一つのまとまりとして
なので、ドリブルのトレーニング、パスのトレーニング、トラップのトレーニングは存在するのか、ということも考える必要がある。
走る動作は、着地期、立脚期・遊脚期に分類はされるが、そこから一つを取り出してトレーニングをすることができないように、スキルを「連続する一つのまとまり」として捉えることが重要だ。
ポジショニングを起点とし
→パス
→シュート
→トラップ→パス
→トラップ→ドリブル→パス
→トラップ→ドリブル→シュート
というように。
例えば、定番とも言える一対一の「相手に当てて戻してスタートし抜いたら終わり」というようなプログラムはスキル要素間の接続という意味では不十分だし、ボールを上に挙げてトラップなどのトレーニングは、細分化しすぎていると言える。
また、
突破なのか、運ぶのか、逃げるのか。
センタリングなのか、ロングパスなのか、ショートパスなのか、スルーパスなのか。
ミドルシュートなのか、コントロールシュートなのか。
そして、トラップやポジショニングも後続するこれらに準じて調整する必要がある。
つまり、その「質」と対人関係の中での情況の意味や価値を感じ取り、「こうなったからこうなるだろう」という予測の基に発揮されねばならない、ということを考えると、ボール感覚と言えど、さらに深堀をしなければならなくなる。
特に、どうすれば予測が働くようになるか、情況の意味や価値を感じ取れるようになるか、は非常に難問で避けては通れないが、いずれにせよ、ボール感覚は対人関係の中でしか形成されず、対人関係を抜きにした「上手さ」はあり得ないのだ。
行為は行為を通じて形成される。
ボール感覚向上に関して、練習のための練習、練習では上手いけど試合では...で終わらないためには、スキルを一つのまとまりとして捉え、「なんのため」のポジショニングか、トラップか、ドリブルか、パスか、シュートか、というスキル要素間の相互作用とその質、予測や情況の意味・価値の感じ取りまで、視野を広げ考える必要がある。
ボール感覚という前提
冒頭でも述べたように、スポーツ技術とは、スポーツという情況で運動課題を解決する一連の運動、とされる。
サッカーの攻撃行為におけるスポーツ技術の前提は、気温やピッチコンディションなどにも影響を受けながら、エネルギー系体力的因子、運動能力的因子、体格的因子、心理・精神的因子、など多数あるが、やはりサッカーという競技の特性上、ボール感覚はその中核にあると考えられる。
何より、サッカーの一番の楽しみは、ボールを足で扱う中での、通る通らない、抜く抜けない、入る入らない、などの遊動の中ににある。
選手としての成長のみならず、サッカーを楽しむ、という観点からしても、ボール感覚を抜きにしては語れないのだ。
ただ、その取り組みに関して、木を見て森を見ずの状態にならないようにする必要がある。
※こちらも合わせてご覧ください。
少年サッカーにおけるリフティング神話 ボールに慣れること自信をつけること
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ジュニア年代における「ボールを持てる選手」や「個の強さ」に対する憧れについて
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技術と戦術またはボール操作と認知のどちらが大事であるか、という二項図式の落とし穴
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執筆者
Football Coaching Laboratory代表 髙田有人
選手時代にはブラジルでの国際大会や、数多くの全国大会を経験。高校卒業と同時に指導者活動をスタートし、地域のジュニア年代で約10年の指導経験がある。指導者としてドイツへの短期留学やサッカーの枠を超えて、教育学、スポーツ思想・哲学、身体論など様々な分野に精通しており、全人格的な育成の可能性と実践、そのための指導者の養成と、好きなスポーツを見つける、多様なスポーツを体験できる場の創出をテーマとし、情報サイトFootball Coaching Laboratoryの運営、勉強会、トークショーの開催、総合スポーツスクールの企画・運営をしている。