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2018.03.19

防ぐ守備より奪う守備 日本とブラジルの守備観の違い 

ペレ、ロナウジーニョ、ネイマール、ロナウド・・・etc

数多くのクラッキ(スター)を生み出したブラジルにおいて、攻撃的なサッカーのイメージを持つ方は多い。

事実、W杯での歴代得失点差数は+119点。これは世界一の数字だ。

しかし得失点差という数字は得点数と失点数の差で表す。

攻撃だけでなく、守備の良さも影響するのだ。

攻撃のファンタジスタを生み出すサイクルには、良い守備との対戦がある。

簡単に得点出来てしまう相手とばかり試合していれば、いざ守備の堅い相手との対戦で打開策を見つけられない。

世界のサッカーが進化していく中で、これまでも個人の守備能力なら世界TOPだったセレソン(ブラジル代表)が、組織力も世界TOPに君臨しようとしている。

まさかまだ昔のイメージのままではあるまい。

今回は南米でサッカー指導者を務める筆者からブラジルの指導現場で起きている事をお伝えしたい。

防ぐ守備より奪う守備

ブラジルサッカーと一口に言っても、広大なブラジルには沢山の人間がいて文化がある。

勿論サッカーはいつも同じ状況でもない。

その前置きはあった上で、日本ではゴールを守る守備、ブラジルでは日本よりも”奪いに行く守備”を重視している。

日本の守備が足を出さずに攻撃方向を制限しながら追い込んでいくのに対し、ブラジルはもう少し奪えそうなら独力でも足を出してボール奪取にトライする。

それしかないのではなくて、あくまで日本と比べた時の傾向だ。

日本では幼少期に「ボールに足を出さない・飛び込まない・突っ込まない」と教えられる。

それは基本として正しいのではあるが、ただ育成的な観点から見た時には子供達の経験や成長機会を奪ってしまっている瞬間も散見する。

足を出して奪える場面も本当は時折あるし、足の出し方も色々な工夫があるのに、最初から「足を出さない」と教え込まれてしまって、足を出さない守備しか出来なくなってしまっているのではないか?

そんな疑問がある。

こう言うとまた極端に「何でも足を出していると1発で抜かれて危険だ」という反論があるが、何もいつでも足を出せと言っているのではない。

ブラジルであっても基本的には足を出さない。

何も考えずに突っ込めばそれはやられるが、何も考えずに足を出さない事も同じく思考停止、研鑽の浅さでいえば等しいのだ。

筆者としては足を出せと言うより、経験値を奪わないと言いたいのだ。

ブラジルの子供達も小学生の頃だと足を出して一発で抜かれてピンチを招く事も多い。

もしかするとその年代では日本の方が失点は少ないかも知れない。

しかし経験を積み、次第に足を出すと抜かれる場面、奪える場面、そして足の出し方の工夫を積み上げたブラジル人の方が守備力が逆転する。

日本の子供達に今足を出させれば間違いなくミスをするだろう。

しかしそのミスを経験させる事もまた育成。

育成年代の目標は勝利も勿論だが、子供の成長も非常に大切だ。

子供のミスを見守る事が出来るか?

そこに指導者の器があらわれる。

ブラジルの育成年代での組織的守備

ブラジルのプロクラブでは組織的守備にも取り組んでいる。

ブラジルというとストリートサッカーを連想されるので意外なイメージかも知れないが、当然ながら同じブラジルでもクラブによって状況は異なるし、サッカー好きは多いので人気クラブならJクラブより資金力はあるのだ。

絶対ではないが、ブラジルだと幼少期にストリートサッカーやフットサルをして、中学生年代あたりからサッカークラブに入るという子も多い。

小学生まではストリートサッカーで指導者の制限もないので足を出す守備を経験する土壌がある反面、組織的守備はそこまで学んでいない事もある。

ストリートサッカーでもブラジルはサッカー文化が根付いているので感覚的にカバーリングやポジショニングは身に付けていくが、とはいえ監督がガッチリとボールの奪いどころや追い込み方を指揮するわけではないし、守備戦術を落とし込むミーティングや練習も基本的にはない。

だからこそか、私のお世話になっているECバイーアではU14から下部組織を持っているのだが、そこからは分析スタッフを置いたりテクノロジーを用いて非常に近代的な育成手法をとる。

育成年代でも分析スタッフを2人雇い、試合の時のポジショニングなどについてもビデオを使って指導していく。

ただECバイーアは1部所属のプロクラブなので、街クラブだと出来る事は制限されるがYouTubeを使うなどまたクラブ毎の工夫は面白い。

ここでも注意を喚起しておくが、ブラジルもプロクラブは約800あるので考え方や価値観はそれぞれであるし、ストリートサッカーも数えられないほどあるので例外もあるだろうという事だ。

もしかするとストリートサッカーでも近所のお兄さんが指揮を執ってかなり組織的にプレーしているケースもあるかも知れない。

個人と組織の融合

大まかに言えば、ブラジルの守備は攻撃的である。

矛盾するような言葉だが、ゴールを守るためより、ボールを得て攻撃するために奪う守備という意味だ。

勿論これも場面によるし、ゴール前で失点リスクの高い時は逃げるための守備に切り替わる事もある。

現在のブラジルサッカー界が取り組んでいるのは、南米的な個人能力と欧州的な組織能力の融合。

セレソンを見れば育成年代からのその取り組みが表れているのは分かる。

足を出して個人でも奪える守備の経験値と、連動して組織として動ける勤勉さ。

現在のブラジルはそのハイブリッド化を目指している。

※こちらも合わせてご覧ください
ブラジルサッカーの育成から学ぶ
https://fcl-education.com/raising/independence-coaching/football-brazil-soccer/

ブラジルサッカーとの環境の違いから育成を考える
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/brazil-football-soccer-world-japan/

執筆者
平安山良太

小学生よりサッカーを初めるが、ケガにより早期挫折。若くして指導者の道へ。日本で町クラブ、部活、Jクラブで幼稚園~大学生まで幅広く指導者として関わり学んだ後、海外へ。東南アジアのカンボジアンタイガーの全身クラブやラオス代表チームで研修の後、ブラジルへ渡り、ブラジル1部Atlético ParanaenseのU14でアシスタントコーチを務めた。2014年5月からはクラブワールドカップでも優勝したSC Corinthiansでアシスタントコーチを務めるかたわら、日本に向けて情報発信を始める。2015年10月からはAvai FC、2016年前半はJ3のFC琉球通訳、後半からはコリンチャンス育成部に復帰。2017年はブラジル1部のECバイーアで研修生指導者からプロ契約を目指している。ペルー1部のアリアンサ・リマや、メッシを育てたアルゼンチン1部のニューウェルスなどでの研修歴も。

twitter: http://@HenzanRyota
mail: ryota_henzan@yahoo.co.jp

 

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