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2018.04.19

ブラジルの育成年代の現場から 日本とブラジルにおける「ミス」に対する捉え方の違い

「ブラジルでは一度でもミスをするともうパスが回って来ない」

日本でブラジルを語る時によく言われる事だ。 

果たして本当のところはどうなのか? 

南米でサッカー指導者をしている筆者・平安山としては、半分はYES 

ではもう半分はNoなのかと言うと、それもまた違う気がする。

今回はもう少し深く詳細にブラジルのミスに対する考え方を探っていこう。

勝利へのフォーカス

まず、1度でもミスするともうパスが回って来ないか?について。

流石にブラジル人でも人間である以上、何試合もやれば1度はミスする事もあるので、この説は絶対とまでは言えない。 

しかし、例えばただでさえ、ブラジルよりサッカー後進国である日本人がブラジルに来て最初のプレーでミスをすると、やはり先入観もあって、「やはり日本人はサッカーそんなに上手くないな」と判断され易い。

そうすると勝利を大事にしているブラジル人としては、「あいつにパスする回数を減らした方が勝率は上がりそうだ」と判断されかねない。 

勿論、実際の試合ではフリーで良い位置にいればパスをする事もあるし、奪われそうになった時にちょうど目の前にいれば仕方なくパスをする事もある。

あくまで勝率の問題。

しかし第一印象が悪いとそこから信頼を取り戻すのにはある程度の時間としっかりとした実力が必要となる。

ただ、ブラジル人相手に圧倒的な実力を示すのがどれだけ大変か。 

逆にパスした方が勝率が上がると判断されるプレーを続ければ、国籍は関係なくパスされる回数は増えるのもブラジル。

そこは分かり易い。

「俺は勝利にどれだけ貢献出来るのか?」を示す事が大切なのだ。 

天国と地獄が隣り合わせ

ブラジルだろうと、世界の誰であろうと、ミスをする時はミスをする。

それは世界最高の選手だってそうだ。 

ただ、それでも日本よりもミスに対する危機感や意識の違いが存在するのは確かだ。

 ブラジルでは1大会、場合によっては1試合や1つの練習試合でも天国と地獄が分かれる事がある。

移籍が自由でチーム数も多く、沢山のスカウトや代理人が常に選手を探しているブラジルでは、活躍すれば育成年代であってもステップアップのオファーが来る。

また逆に言えばチームを去らなければならない場合もある。

スを恐れ過ぎて安パイなプレーだけではBIGクラブからオファーはなかなか来ないし、逆に変なミスを繰り返せば今の中堅クラブすら去らなければならなくなる。

ブラジルには沢山クラブがあるので、もしミスしてもまた他のクラブへのアプローチも出来るのでミスを恐れ過ぎずに挑戦出来るベースもあるが、かといってヘラヘラ笑ってミスしても良いというわけでもない。

そんな者に未来はやって来ない。

難しい表現になるが、ミスは恐れず、しかし危機感がある。

そんな雰囲気だ。

当然ながら、W杯出場回数・優勝回数共に世界一のサッカー大国のBIGクラブに在籍したいのなら、挑戦した上でミスが少ない選手しか入れない。

厳しい世界なのだ。

シビアなのは当然である。

当たり前の事を言っている様に聞こえるかも知れないが、日常から移籍によるステップアップとクビが隣り合わせなのだから、その当たり前のレベル、日々の意識度が日本より高くなるのは明白である。

広い視点のサッカー指導者

移籍システムによってミスに対する意識が高くなるのは前項で述べた通りだ。

しかしある程度は年代によってそのニュアンスというか、微妙な調整もある。

サッカー指導者はもう少し広い視点で見ている。

例えばブラジルでも10歳程度ならクビになる事は少なめになる。

そのくらいの年代だとある程度のミスには目を瞑るし、成長を見守る。

多少のミスや多少の実力不足があっても、そこは指導者が根気よく指導していく段階だからだ。

これから上手くなっていけば良い。

とは言え、勿論だがここでもミスしてヘラヘラしていて本当に未来があるわけはないので、当然注意やアプローチはする。

上手くなるための成長過程としてのミスは許すが、成長しないミスはそう何度も許してもらえはしない。

チームや監督次第でも多少変わるが、ブラジルだと14歳あたりから上になると移籍やクビは活発になる。

ブラジルのルールとして、親元を離れて遠くのクラブに行けるのは14歳から。

クラブに寮があってもそうだ。

なので14歳を過ぎるとより競争相手が増える。

また、15歳を過ぎるとBIGクラブの子はプロ契約を結ぶ。

15歳以上では勝利に向けてかなりプロに近い弱肉強食の世界の色が濃くなっていく。

子供の成長に合わせて段階的になっている。

ミスを恐れ過ぎてる子は中堅クラブ以下で埋もれるし、試合でミス連発してヘラヘラしてて生き残れる世界でもない。

そもそもサッカーを楽しむブラジル人でミスを恐れ過ぎるというのも日本に比べれば少ないが。

 日本人だって真面目なのだから、ミスして良いとは思ってない子も多いだろうし、ある程度は挑戦するだろう。

しかし選手としての生死、修羅場を潜る数は、どうしてもブラジルには及んでいないのも事実ではある。

普段の授業だって真面目にもやるかも知らないが、それでも戦場にいる時の本気度とどちらが高いだろうか。

ブラジルの小学生年代もある程度ミスを許して貰えているとは言っても、段階的にそうではなくなっていくと子供ながら何となく分かっている。

日本の子供だって少年法や選挙権、義務教育などの年齢による段階があるのは知っているのと同じだ。

だからブラジルの子は成長のためのミスや、仕方のないミスはしても、気の緩んだミスをしている場合ではないという意識は高くなり易い。

夢のサッカーのためなら尚更だ。

日本の子供も適当に軽い気持ちでミスをしていてプロになれる可能性が下がる事くらいは何となく分かってはいるのだろうが、ただ小学生にとってプロの世界は遠くて自覚し難い。

その前に中間的な目標、もう少し目の前・身近に感じる段階が必要かも知れない。

日本はブラジルと制度が違うし、勿論ブラジルだけが正解でもない。

同じ制度にするとしてもある程度時間がかかる。

しかし危機感も期待度も現状ブラジルの方が高いのは確実。

それを経験していない日本の子供達に肌感覚で同じ危機感や本気度を持って貰うのは少し難しい部分もある。

しかし何も出来ないわけでもない。

我々大人や指導者に足掻ける部分はある。

ブラジル流に制度を変えようと思うと日本サッカー協会も動く必要があるし、クラブチームも増える必要がある。

実際クラブチームも少しずつ増えているので効果は出てきているが、まだ時間をかけるしかない。

ただ制度レベルで大きくは変えられなくとも、各チームや個人でやれる事もある。

その子供やチーム状況に合わせてやり方は考えなければならないが、そこでアイデアを出せるかは指導者冥利でもある。

まずは口でブラジルとの違いを説明するだけでも意識が変わる子も出てくる。

定期的にJクラブのセレクションに参加してみる事も中間目標になるし、落ちても次の目標や危機感が持てる。

まずはやれる事をやっていきたい。

子供達のために。

 

※こちらも合わせてご覧ください

ブラジルサッカーとの環境の違いから育成を考える
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/brazil-football-soccer-world-japan/

ブラジルサッカーの育成から学ぶ
https://fcl-education.com/raising/independence-coaching/football-brazil-soccer/

 

執筆者
平安山良太

小学生よりサッカーを初めるが、ケガにより早期挫折。若くして指導者の道へ。日本で町クラブ、部活、Jクラブで幼稚園~大学生まで幅広く指導者として関わり学んだ後、海外へ。東南アジアのカンボジアンタイガーの全身クラブやラオス代表チームで研修の後、ブラジルへ渡り、ブラジル1部Atlético ParanaenseのU14でアシスタントコーチを務めた。2014年5月からはクラブワールドカップでも優勝したSC Corinthiansでアシスタントコーチを務めるかたわら、日本に向けて情報発信を始める。2015年10月からはAvai FC、2016年前半はJ3のFC琉球通訳、後半からはコリンチャンス育成部に復帰。2017年はブラジル1部のECバイーアで研修生指導者からプロ契約を目指している。ペルー1部のアリアンサ・リマや、メッシを育てたアルゼンチン1部のニューウェルスなどでの研修歴も。

twitter:http://@HenzanRyota
mail:ryota_henzan@yahoo.co.jp

 

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