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2018.03.02

ドイツの現場を参考に「生きた技術」について考える 日本的課題の解決のために

ジュニア期で技術的に求められる能力とはなんだろうか。

拙著「世界王者ドイツの育成メソッドに学ぶ サッカー年代別トレーニングの教科書」で僕は次の要素をあげている。

シュート、ボールコントロール、ボールを止めて運ぶ、パス、ドリブル、クリア

おそらくどの国のどの指導者に聞いても答えはそうは変わらないのではないかと思われる。

そしてどこでもジュニア期に技術を身に着けることの大切さを口にする。

なるほど、やっぱり技術は大事なのか。こういう話を聞くと、「じゃあ、技術を極めないと」と考える方が増えてくる。ではどのような取り組みが望ましいのか?

ドリブル塾?ボールコントロールスクール?毎日欠かさない自主練?

それぞれの要素に特化したトレーニングでそれぞれの技術要素のレベルアップをもくろむ。

やればその効果は出てくるだろう。意味がないもの、だとは言わない。だが、果たしてそれがもたらすものは何だろうか?
 
それに対するとても大切なヒントについて、ホッフェンハイムU13監督でU9-U13の統括部長を務めているパウル・トラスさんが話していた。

「私たちのところでは週に1回、チーム練習と別に個別トレーニングの時間を取っています。U15以上はポジションやそれぞれに特化したトレーニングメニューを作りますが、U14までは総合的な技術、プレーインテリジェンスに関するトレーニングを小グループで集中的に行います」

「忘れてはいけないのはサッカーはチームスポーツだということです。個別化したトレーニングをやるだけではプレーに生きないからです。ドリブル、パス、フェイント。それだけをやっていてはうまくなれるはずがありません。ピッチ上にいる選手がみんな自分のプレーだけを考えていてはゲームにならない。だからこそプレーインテリジェンスを身に着ける環境が必要になります。グループでの3-3や4-4といったミニゲームを多く行うことで正しい決断ができるように導きます」

エリアや状況に応じたプレーというものがある。

ノープレッシャーで相手GKと1対1の場面からのシュートと、相手DFが多くいるペナルティーエリア内でボールを呼び込んでのシュートでは求められるものも違ってくる。

自陣でボールを奪った後のドリブルと相手陣内で1対1になった時のドリブルとではアプローチも変わってくる。

あるいはパススピードは速ければ速いほうがいいのだろうか?仕掛けるタイミングは早ければ早いほうがいいのだろうか。

サッカーというスポーツがどのようなメカニズムで回っているか。

そこへの理解がなければならないのだ。 

では理解を深めていくのに大切なものは何だろうか。

フライブルクのユースダイレクター、アンドレアス・シュタイエルトはこんなことを語っていた。

「大事なのは選手の成長具合だ。私たちは一回の練習でその選手を判断したりはしない。初めての環境で最初の練習からうまくいかないのは普通だ。2週間、3週間と練習に参加してもらい、その中で1回目の練習から2回目に向けてどんな成長を見せてくれたか?2回目から3回目に向けては?というところをうちでは非常に大事にみている」

なぜ人は成長するのか。

成長するための要素とは何だろうか?環境が変わり、新しい情報を得て伸びる選手は何を持っているのだろうか。

それは自分から取り組もうとする意欲だ。

何が自分には足りなくて、何をやらなければならなくて、その中でどうやって自分のプレーを作り出していくのか。

それがなければ技術を使いこなすことはできない。

そしてそこと向き合うことができる選手は間違いなく成長していく。

いま、海外で活躍している日本人選手はみんなそうではないだろうか。

苦しい時期を何度も乗り越えることができているのは、自分のこれまでに言い訳を探すのではなく、今の自分を分析し、自分で何をすべきかを見つけ、それと向き合っているからだ。

育成期の目的とは「選手としても、人としても、将来自立した生活ができるようになるための基盤づくり」だ。

技術の使い方を学ばなければ、自立したプレーをすることはできない。

技術論は技術論のまま終わってはならない。

そしてそこで終わらせないために指導者は導ける存在でなければならない。

技術がなければ試合に出れないわけでも、技術があれば試合がうまくいくわけでもない。

やらなければならないと外部からの強制や圧力で追い詰めたら、自分から取り組もうとする意欲もなくなってしまう。

十分な休息をとることも極めて重要だ。

「生きた技術」を習得できるための環境つくり。特に日本のジュニアでは、ここの整理が今後に向けて大きなポイントとなるのではないだろうか。

※こちらも合わせてご覧ください
指導者にとっての「知」とは何か 問いを持ち続けることの重要性
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/coach-question/

ドイツにおけるサッカージュニア年代の位置づけと取組み
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/junior-germany-football/

執筆者
中野吉之伴

地域の中でサッカーを通じて人が育まれる環境に感銘を受けて渡独。様々なアマチュアチームでU-12からU-19チームで監督を歴任。09年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。オフシーズンには「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に日本各地に足を運んで活動をしている。17年10月からはWEBマガジン「子供と育つ」(http://www.targma.jp/kichi-maga/)をスタート。

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