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2017.11.09

日本・ブラジル・アルゼンチンにおける「プレー観」の違い

“日中韓のサッカーは全部同じ”

“カタールもカンボジアも含めてアジアサッカーは全て同じ”

もし欧州や南米の人にそう言われると、少し違和感を覚えるのではないだろうか。私なら「全然アジアサッカーについて知らないんだな」と感じる。ただ私達日本人の大部分もまた、「南米サッカー」と大まかにしか捉えられていないのは、やはり私達もまた南米サッカーについて全然知らないからなのだ。

今回はそんな南米の中でも世界最高の2強とされる、ブラジルとアルゼンチン、そして日本を含めた3国のパスやトラップの違いについて比較し、探究していく。

ブラジル・アルゼンチン・日本のファーストタッチの違い

まずはトラップ、ファーストタッチの違い。勿論どの国であっても様々なプレースタイルの選手がいて、指導者がいる。状況によってもファーストタッチが変わるという前提はあった上で、あくまでもその中での各国に多い傾向、というのは頭に入れて話を聞いて欲しい。

【日本のファーストタッチ】

まずは日本のファーストタッチの考え方はどうだろうか。私の印象としては、なるべく1タッチや2タッチの少ないタッチ数でパスを繋ぎ、またボールを保持するために横パスやバックパスも多い。

細かいパスを繋ぐので、頭の回転を速くし、まるでジャズの様に瞬間瞬間の即興の連続。そのため、すぐにパスを出せる位置にトラップするか、1タッチ目でパスする事も多い。

そんな印象がある。

【アルゼンチンのファーストタッチ】

ではアルゼンチンはどうかと言うと、アルゼンチンの選手はまずボールを持ったら相手を抜きにかかろうとしてくる選手が日本と比較した場合に多い。

例えばボランチの選手がボールを受けても、まずはドリブルで抜けないか?抜き切らないまでも相手の体勢を崩してパスコースを作れないか?自分がボールキープする事でタメを作り、味方を走らせてスルーパスを通せないか?を考えている。

ボールを受ける前にも次のプレーを考えているが、ボールを受けた後も微妙に変わった状況に対応して考える。もっと言えば抜きにかかる事で自分で状況を変えてしまう。

抜きにかかるため、ファーストタッチはすぐにボールに触れる足元にボールを置き、体でブロックしながらキープする。

サッカーに答えはない。日本とアルゼンチン、どちらのトラップの仕方が正しいかは分からないし、正解はない。

ただし、日本人選手の中には「ボールを受ける前に素早く考える」はずが、「ボールが来た後は考えない」という思考放棄になってしまっていないか、自問自答すべきだ。

【ブラジルのファーストタッチ】

それではブラジルのファーストタッチはどうだろうか。ブラジル人選手は比較的にボールを受けたら自分の少し前、ロングボールやドリブルがし易い位置にボールを置く事が多い。

ボールを受けた時、日本と比較するとドリブルを狙ってくるし、アルゼンチン同様トラップした後もボールキープしながら次のプレー考えている。

しかしアルゼンチンよりはボールの置き所は少し前になる傾向がある。ロングパスを狙っているからだ。ドリブルで抜きにかかってくる割合は、筆者の感覚だと日本5、ブラジル8、アルゼンチン10といったところだろうか。

アルゼンチンと日本を比較した時と同様、ブラジルと日本の場合もまたどちらが正解とは言えない。

ただ一つの意見として参考にした時に、日本で高校生の時から10年ほどプレーしているブラジル人の友人には、「日本はもっとロングパスも狙うべきだが、ミスを恐れている印象がある」という話をされた。

コリンチャンスの選手として2000年に第一回クラブW杯を制し、世界一に輝いたDF、バタタ氏も、Itu cup2017で日本の高校生を指導した際にはSBから対角線のFWへのロングパスを指示していた。この時の通訳は筆者だったためによく覚えている。

トラップ時にロングパスも出せる所にボールを置くからこそ、相手はロングパスを警戒してディフェンスラインを下げ、結局はスペースを生み出しショートパスも繋ぎ易くなる。ショートパスしかないと分かれば相手はプレスに来る。

対角線へのロングパスは通れば大チャンスを生むが、通らなくても相手への牽制になるのだ。

または逆にショートパスしかないと思わせたところにいきなりのロングパスを入れると、一撃必殺の武器になるかも知れない。そういった使い分けをする事でまた一歩世界の頂点に近付く。

ブラジル・アルゼンチン・日本のパス感覚の違い

次はパス観について考察する。前章でも述べた様に、一つの国の中にも多様性があるという事はもう一度記述しておく。その中で日本・ブラジル・アルゼンチン各国の大まかな傾向には面白い特徴がある。

【日本のパス観】

日本のパスの感覚としては、パスの出し手はパスの受け手の足元に正確にボールを配給する事を大切にしている。

基本的にはグラウンダー、ゴロのパスを推奨している。何よりパスの出し手が正確なパスを出す事を求められ、パスの受け手がトラップし易い。パスの出し手の方が努力を要する印象がある。

【アルゼンチンのパス観】

次にアルゼンチンのパターンを見てみる。前章でも述べた通り、アルゼンチンではパスを受けたらまずは相手を抜こうとしてくる。

そのため、パスはドリブルが出来なかった時の次のオプションとなる。「ヤバい奪われそう」となった時に、奪われるよりはチームでボールを保持した方がマシなのでパスを出す。

そうすると実はパスの質は低い場合も多い。受け手の利き足まで考える余裕はなく、とりあえず「あの辺にいる味方にパス」という様な雑に見えるものもある。

ドリブルを重視した事によるメリットもあれば、こういったデメリットもある。しかしアルゼンチンでは多少のパスの質がどうであれ、受け手も上手く処理する技術が求められる。

日本とは逆で、パスの出し手よりも受け手が努力と技術を必要とされるのだ。多少のパスのズレは受け手がどうにかしてくれるからこそ、今ボールを持っている人が全力でドリブルに挑戦出来る。

正解というわけではないが、これも日本にはあまりな考え方の一つなのだ。頭の片隅に置いておくだけでもサッカーの価値観が広がる。

指導者目線の筆者だけでなく、雑草から日本代表に這い上がって話題になった加藤恒平氏も似た事をインタビューで語っていた。

筆者は以前、アルゼンチンのプロ選手がJリーグ挑戦したいという事でサポートをした事がある。

足元の技術に長け、ドリブルはJリーガー以上だった。しかし、アルゼンチン選手はまず抜きにかかるために、1タッチで繋ごうとする日本人選手とパスのタイミングが合わない。

日本人選手がサポートに入った段階ではまだアルゼンチン人選手は抜きにかかっていて、逆にアルゼンチン人選手がパスをしたいタイミングになると日本人選手は足が止まっている。

パスをしても日本人選手は受けられず、また逆に日本人選手からしてもパスミスに見えただろう。

アルゼンチン選手がタメを作ったつもりでも、反対に日本人選手は裏に走っていない。

選手レベルは同じでも、サッカー観が違い過ぎたのだ。逆に日本人である筆者もアルゼンチン人に混じってサッカーをすると、タイミングのズレを起こしてしまった事がある。

筆者には「パスが遅いアルゼンチン人のせいだ」と見えたが、もしかするとアルゼンチン人選手は「せっかくタメを作ったのにあの日本人が走っていない」「あのくらいのパスもトラップ出来ない」と思っていたのかも知れない。

悪い事ばかりではない。逆にこのタイミングの違いを知り、味方と適応させられれば、一つのアクセントとしてまた別世界のサッカーを見せられる可能性がある。

1タッチのパスに対応していたら急にドリブルで仕掛けてくる選手が混じっている。ドリブルを止めようと注目していたら、違う選手が裏に走っているのに気付かない。パス回しにも速いだけでなく緩急がつき、より疲れさせられ、対応の難しいポゼッションとなる。

筆者はそんな両国の特徴が上手く融合したサッカーを見てみたいと願っている。

ブラジルのパス観

ブラジルのパスも受け手にとって難しいものがある。基本的には受け手にもトラップし易いパスという共通概念はあるものの、日本に比べるともう少し自由だ。

ブラジル人は浮き玉やループパスもよく使う。アルゼンチン同様、パスの出し手だけでなく受け手にも技術が要求される。

余裕がある時には受け手にも優しいパスが推奨される一方、それに固執して創造性やイマジネーションを失う事を避ける。

ループ気味にした方がパスが通りそうなら、遠慮なくループパスを出す。戦術ボードの上ではサッカーは平面・2次元に見えるが、実際には立体・3次元なのだ。

どれほどジャンプ力のある選手であったとしても、高く跳べる範囲には限界がある。

また、サッカーが手を使えない事や、人体の特性上、腰や肩、頭の隣を通されるとDFはなかなか反応し難い。

味方に優しいゴロのパスは、インターセプトもし易い。

そのためにパスの受け手もまた浮き玉を上手く処理する能力が必要。受け手の努力があるからこそ、パスの出し手の選択肢を広げ、クリエイティブな能力を上げる。

ブラジルでも基本的には受け手にも優しいゴロのパスが推奨されているのは同じだ。だが我々日本人がその基本を真面目に守り過ぎ、イマジネーションを失っていないか、気を付けなければならない。

プレー観の枠組みを広げる

繰り返しになるが、ここで述べたパス観・トラップ観はあくまでも傾向の話である。選手のプレースタイルや、試合毎の状況によっても異なってくる。また、ブラジルやアルゼンチンが絶対の正解として提示しているものでもない。

結果を出し、世界の強豪とされる2か国なので無視は出来ないが、日本にも日本のやり方がある。

ただその中で、我々日本サッカーが更に強くなるために、異質な価値観を提供した。上手く取り入れながらより良いサッカー観を作り上げていきたい。

または自身が取り入れなくとも、世界と対戦する時にはその価値観を理解していると対応も考えられる。相手に勝つには相手を知る事も大切なのだ。

日本サッカーが世界の頂点に辿り着くために。

 

※こちらも合わせて読んで頂けると理解が深まります。

世界のサッカー強豪国に学ぶ アルゼンチンサッカーの根本
https://fcl-education.com/training/performance/world-junior-football-argentina-soccer/

ブラジルサッカーの育成から学ぶ
https://fcl-education.com/raising/independence-coaching/football-brazil-soccer/

 

執筆者
平安山良太

小学生よりサッカーを初めるが、ケガにより早期挫折。若くして指導者の道へ。日本で町クラブ、部活、Jクラブで幼稚園~大学生まで幅広く指導者として関わり学んだ後、海外へ。東南アジアのカンボジアンタイガーの全身クラブやラオス代表チームで研修の後、ブラジルへ渡り、ブラジル1部Atlético ParanaenseのU14でアシスタントコーチを務めた。2014年5月からはクラブワールドカップでも優勝したSC Corinthiansでアシスタントコーチを務めるかたわら、日本に向けて情報発信を始める。2015年10月からはAvai FC、2016年前半はJ3のFC琉球通訳、後半からはコリンチャンス育成部に復帰。2017年はブラジル1部のECバイーアで研修生指導者からプロ契約を目指している。ペルー1部のアリアンサ・リマや、メッシを育てたアルゼンチン1部のニューウェルスなどでの研修歴も。

twitter:http://@HenzanRyota
mail:ryota_henzan@yahoo.co.jp

 

 

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