2018.02.14
指導者にとっての「知」とは何か 問いを持ち続けることの重要性
指導者は学び続けなければならない。
この言葉は真実であろう。世界サッカーのあり方はスピードを落とすことなく変わり続けている。
10年単位の話ではない。
ほんの1-2年前まで当たり前だと思われたことが覆されたり、別のやり方が大きく取り上げられることは普通にある。
2014年ワールドカップで優勝したドイツもさらなる成長を求めて、タレント育成プロジェクトのバージョンアップを行なっている。
立ち止まることは許されない。
情報の先鋭化。
かつての常識がこれからも普遍的なわけではない。
これまでの成功がこれからの保証になるわけではない。だから常にアンテナを張り、世界の動向に目を配ることが必要不可欠だ。
とても大切なことだと思う。
ただ、気をつけなければならないのは情報そのものだけを追いかけてしまっている時だ。
最新の情報、真新しい理論、聞いたこともないセオリー。
さもそれこそが真実だという勢いで飛び込んでくる。
新時代への扉のそばにいると思えばワクワクもするだろう。
それこそが答えだとも思ってしまうだろう。その全てを試したくなる気持ちもわかる。
だが、あなたのその探究心は情報の使い方・生かし方にも向けられているだろうか。
世の中には、本当に無数の情報で溢れている。どれが正しいのか、どれが必要なのか。
どれが有益なのか、どれが本質なのか。あなたはどのようにそこへの線引きを行なえているだろうか?
目を凝らしても、耳をそばだててもわからないこともたくさんある。
考えようにも考えきれないことだってたくさんある。
答えとはなんだ?
時折僕の元へ若い指導者が相談に来る。
カフェでコーヒーを飲みながら、飲み屋でビールを飲みながら僕は隠すことなく全てを伝えていく。
自分の経験談を語り、現場で身に着けたものについて語る。帰り際に決まってこういうことを言われる。
「あとで自分でしっかりと考えてみて、大事だと思うものだけを生かそうと思います」
自分で考えることはもちろん大切なプロセスだ。
言われた通りにやるようでは独り立ちすることはできないし、そのためには何が大事かを自分で取捨選択できるようにならなければならない。
ただ僕にはいつも違和感が残る。
なぜ、「どうやって何が大事かを判断すればいいのか」ということを聞いてこないのか。
情報の前に必要なのは考え方についてではないだろうか。
どの立ち位置からどういった視点でどのような観点で考えるのかという哲学の持ち方についてではないだろうか。
僕が敬愛する指導者の池上正さんと先日お会いした時にもそうした話になった。
勉強熱心な指導者の方は多い。様々な情報を持っている指導者の方も多い。
でもそれらの使い方をわかっている人はそんなにいない、と。
求めるべきは答えではなく、問だ。
サッカーとは?トレーニングとは?成長とは?成功とは?子供と向き合うとは?
言葉を覚えることが、トレーニングメニューをコピーすることが学ぶことではない。
それぞれの概念に解釈を見出すこと。そのアプローチが大切ではないかと思うのだ。そうすることで自分の中に確かな芯を作り上げることができる。
情報ばかりを追うのではなく、考え方を考えてほしい。
なぜそういう考えが出てきたのか、なぜこれまでのやり方ではだめだといわれているのか。
そのセオリーはどれだけのプラスを生み出すのか。
えてして人は知識を得るとその通りにやりたがる。
そしてその通りに練習が進まないと、イライラしてしまう。
でも知識通りにやればうまくいくわけではない。
技術面、戦術面にアプローチをすればそれだけでサッカーがうまくなるわけではない。
子供でも大人でも、それぞれに人となりがある。それぞれに適したバランスと取り組み方がある。
そこへ目を向けていけなければ、せっかくの知識も宝の持ち腐れになってしまう。
その時には出ていないと思われていた成果が、5年後10年後に生まれることもあるのだから。
※こちらも合わせてご覧ください
目の前の試合に勝利することだけ「勝つ」ことなのか 育成における「勝ち」について今一度考える
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サッカー漬けの選手達 関わる大人が考えるべきこと
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執筆者
中野吉之伴
地域の中でサッカーを通じて人が育まれる環境に感銘を受けて渡独。様々なアマチュアチームでU-12からU-19チームで監督を歴任。09年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。オフシーズンには「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に日本各地に足を運んで活動をしている。17年10月からはWEBマガジン「子供と育つ」(http://www.targma.jp/kichi-maga/)をスタート。