記事

2018.01.11

サッカー漬けの選手達 関わる大人が考えるべきこと

「練習量はうちの方が絶対に上なんだ。なのになんで勝てない!」

そんな指導者の声を何度も聞いたことがある。頑張っている→うまくいかない→もっと頑張らなければならない。

そんなサイクルに陥ったことはないだろうか。だがその取り組みは本当に正しいものなのか。一度立ち止まってよく考えてほしい。

子どもの成長には適切な休みを取ることが欠かせない。

「休みを取った方がいい」のではない。休みは取らなければならないのだ。

そしてその理由は「1.フィジカル的」「2.メンタル的」「3.思考的」「4.人間関係的」な見地から証明できる。

フィジカル的な見地

人間の体に負荷がかかると筋肉は消耗していき、そうなるとそれぞれの筋肉が備えている本来の力は発揮されない。

そこで体内メカニズムは修復プログラムを始動させる。

傷ついた筋肉組織を回復させ、次に同負荷がかかったときに対応できるように以前より強い状態へと強化されるのだ。

このプロセスは「超回復現象」と呼ばれ、トレーニング理論における最初歩の考えだ。

特に激しいダッシュの連続といった高負荷をかけたトレーニングの場合、回復状態に戻るまでに72時間もの時間を要する。

回復されていない状態でトレーニングを行うということは、マイナスの状態の体をさらに弱らせるということになってしまう。

フィジカルコンディションが60-70%の状態でトレーニングしているとそれがマックスになってしまう。

蚤の話をご存知だろうか。

蚤は自身の体長の何十倍も飛ぶことができる。

だがそんな蚤を小さな箱に入れると、頭をぶつけないようにと力をセーブするようになってしまう。

その後、箱からだされた蚤は以前のように飛ぶことはできない。

セーブされた力以上の力を出せなくなってしまうのだ。

メンタル的な見地

子供たちは遊びでそのスポーツと向き合っているときは、いくらやっていても疲れを感じない。

それはストレスが少ないからだ。

誰しも子供のころ日が暮れるまで外で遊んだ経験はあるのではないだろうか。

鬼ごっこでもサッカーでも野球でも、夢中でやっているときは自然と走り出す。

もちろんトレーニングは必要だし、大切だ。そこへ取り組む姿勢を植えつけるのは大事なことなのは間違いない。

だがトレーニング過多になってしまうと、マイナスに働いてしまう。

実はその兆候も子どもたちの様子を見ていたらわかることがある。

練習前に子どもたちは一様に楽しそうにボールを蹴っている。

友達とシュート合戦をしたり、リフティングの技を見せ合ったり。

でもそこに監督の声がかかるとどうだろう?

「よし!じゃあトレーニングを開始するぞ!」

するとさっきまであれだけ楽しそうだった子どもたちの表情が、死んでしまう。言葉には出さない。でも心の中ではこう思っている。

「ああ、またトレーニングだ・・・」

我先にとワクワク感を持って駆けつけてきてくれていたら最高だ。でももしそうではなかったら?

思考的な見地

とりわけ戦術トレーニングを行う際に最適な状態とはなんだろうか。

A.心身ともにフレッシュな状態である。

B.そのためアップ後に取り組むのが望ましい。

C.頭が疲れていては、やるべきプレーの意味と意図を理解することが困難になる。

やるべきことが整理され、どこに注意すべきの判断ができるからこそ人は集中して取り組むことができる。

人間関係的な見地

休みがすくなければそれだけサッカー以外の時間が少なくなるというのは自明のこと。

サッカーを通じてさまざまな友達ができるのは素敵なことだ。だけど僕らはその世界でだけ生きているわけではない。

人生には大切なものがたくさんある。家族、友達、学校、仕事。

ときに練習を完全オフにしてリフレッシュする時間をもつことで、さまざまな関係を見つめ直すことができる。

家族のありがたさ、友達と遊ぶことのかけがえのなさ。

サッカーに打ち込むことで、人生における大事な芯の部分をおざなりにしてはならない。

休みを取ることの大切さを理解しなければならないのは指導者だけではない。親も、いや親こそが気を配らなければならないことだろう。

指導者がいくら「うちは練習のやりすぎだから、週4回の練習を週3回に減らしてみよう」という英断をすることがあっても、親が「時間ができたからそれならスクールで特訓だ」とスケジュールを埋めてしまったら何の意味もない。むしろ負担は増すばかりだ。

今頑張らないと先には進めない。

そういう危機感に駆られる気持ちもわからなくはない。

だが、無理をしてやればやるほど、その先で生まれてくるのはそのスポーツへの嫌悪感だけだ。

サッカーは通うわなければならないものではない。

自然と足を向けたくなる魅力あふれるスポーツだ。

その本質から遠ざかるようなアプローチになっていないだろうか。

 

※こちらの記事も合わせてご覧ください

ドイツにおけるサッカージュニア年代の位置づけと取組み
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/junior-germany-football/


執筆者
中野吉之伴

地域の中でサッカーを通じて人が育まれる環境に感銘を受けて渡独。様々なアマチュアチームでU-12からU-19チームで監督を歴任。09年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。オフシーズンには「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に日本各地に足を運んで活動をしている。17年10月からはWEBマガジン「子供と育つ」(http://www.targma.jp/kichi-maga/)をスタート。

 

RELATED関連する他の記事
PAGE TOP