2019.01.15
運動指導者が栄養学を学んでいるだけではダメな理由 ② ~水と人とスポーツと~
現代の栄養学は、栄養の本質からは大きく外れているということを前回お伝えした。
栄養の本質とは、動物と植物が持つ「生命力」について考えることであり、その生命力と切っても切れない関係があるのが地球環境である。今回は、地球の大部分の面積を占める「水」について、スポーツに関わるあなたと一緒に考えていきたい。
水が存在したからこそ、あなたがいる
私たちの住む地球は「水の惑星」と言われている。なぜなら、地球上を覆う面積のうち、約7割を水が占めるからである。
地球上で最初に生命が誕生したのが約38億年前、その誕生した場所は海である、という説が現在有力であるが、一方で、生命の誕生は「陸である」と言及する学者も出てきている。
太古の地球の陸には温泉や間欠泉が多数存在し、その温泉水にも深海底の熱水噴出孔と同じく鉄や硫黄などの鉱物が含まれ、メタンや硫化水素などのガスも噴き出していたと考えられるからである。
生命の誕生が「海か? 陸か?」について論じるつもりはないが、生き物全ての祖先となる生命は、海水もしくは温泉水という「水」が存在したからこそ誕生した、ということは事実であろう。水の存在なくして生命が誕生していないということは、「水」というものが、今ある生命を輝かせること、そして未来に生命(子孫)を残していくことにおいても、とてつもなく大きな影響を及ぼしていると断言できる。
あなたの身体は、60%が水である
身体には、たくさんの水分が含まれていることはご存知であろう。
成人男性の場合は体重の約60%。もしあなたの体重が70kgだとすると、約42リットルもの水分を体内に蓄えていることになる。生まれたばかりの新生児では、なんと約80%が水分。
これらの数字からも「私たち人間は水でできている」と言っても過言ではないのである。
ゆえに、カロリーや栄養素を考える前に「地球上の水がキレイかそうでないか」「もしキレイでないとするならば、どのような対策があるのか」を考えることが、ジュニア育成世代の私たちにとって、とても大切なことなのである。
高度経済成長期には、空気だけでなく水質も悪化した
「環境が健康に大きな影響を及ぼす」
これに異論を唱える方は恐らくいないであろう。
前回は、四大公害病のうち「四日市ぜんそく」を取り上げたが、今回はその他の3つを振り返ってみる。
その他3つとは、「水俣病」「新潟水俣病」「イタイイタイ病」である。
3つに共通することとしては、その原因が「水質汚濁」によるものということ。
原因物質は、水俣病と新潟水俣病はメチル水銀、イタイイタイ病はカドミウムと異なるが、水質汚濁によって私たちが食べる米や魚が汚染され、それを食べることによって多数の健康被害が出たということは同じである。
私たちの水分摂取の経路としては、単純な「水」を飲むことが1番であるが、食べ物に含まれる水分量も多いだけに、あなたが食べる動物と植物の健康状態の良し悪しが、あなたの健康に大きな影響を及ぼすのである。
もしあなたが、何かのスポーツを指導していたり、親として1人の人間を育てているとしたら、それは子供を未来に送り届ける立場にあるということである。
また、もしあなたが現役のスポーツ選手として自分のために日々努力を重ねていたとしても、同じく子供たちに夢を与え、よりよい未来を作り上げることに大きな影響を及ぼす立場にあると言える。
そのような立場にあるからこそ、表面的な情報にすぎない栄養学という狭い視点だけで栄養と向き合うのではなく、「環境」というより広い視点に立つことが極めて重要なのではないだろうか。
生命を育む海は、果たしてキレイなのか?
地球の水は、海・川・湖・地下水・氷など、いろいろな姿をしている。
私たちが日常使っているのは、川・湖・地下水の3つである。
しかし、この3つの水は地球上の全ての水のうち、たった2.5%しかないと言われている。よって、ほとんどの水が海(と氷)という姿で存在しているのである。
地球の水の多くを占める「海」の汚染度が増している、というニュースをあなたもご覧になっていることだろう。
海鳥の死骸から200片以上のプラスチックの破片が発見されたり、ウミガメの鼻にプラスチックストローが刺さったり…
個人的に最も印象深かったのは、とある海岸に打ち上げられたクジラの死骸の胃袋に、何と30kgものごみが入っていたというもの。
具体的には、ビニール袋・ポリ容器・ロープ・ネットなどである。
ここのところ、ビニール袋など比較的大きなごみだけでなく、直径5mmより小さなプラスチックごみ(=マイクロプラスチック)の問題も取り沙汰されている。プラスチックは、太陽光が当たったり熱が加えられると、もろく砕けやすくなる性質がある。
バルコニーに出しっぱなしの洗濯バサミが、年月を経ると簡単に割れてしまうように。
小枝や落ち葉・海藻など自然界に生きるものは、微生物などの働きでやがては分解され、最終的には水や二酸化炭素(自然)に戻るが、プラスチックはいくら小さくなっても分解されることはない。
大量生産・大量消費という社会が続くと海のプラスチック量はどんどん増えていき、「2050年までに魚の量を超える」との試算も出ているほどである。
問題の表面化を受けて、大手ファストフードやコーヒーチェーンの一部が、プラスチックストローの廃止を決めた。
もちろんこれだけでは汚染がストップすることはないであろうが、この取り組みをいいきっかけとし、世界中の飲食チェーンへの広がりと、ストロー以外のプラスチック容器やタンクなどを減らす流れになることを願う。
その流れが消費者の意識も改革し、日常生活のスタンダードが変わっていくことになるであろう。
限りある貴重な資源である水を、独占してはいないか
スポーツ関係者は「高タンパク食」を実践している方が多いように感じる。
牛肉・豚肉・鶏肉、卵・魚・大豆製品などを積極的に摂取している。
今回はタンパク質の一例として、「牛肉」にスポットライトを当てることにする。
もちろん「タンパク質量」といった表面的で薄っぺらいものでなく、「水」に関係することである。
ここで質問。
あなたの目の前に牛肉200gが運ばれてくるまでに、どのくらいの水が使われているのか、あなたは考えたことがあるだろうか?
まず、牛の飲み水について。牛は1日50リットルほどを出荷までの約700日間、毎日飲むのである。それだけで約35トンになる。
続いてエサについて。エサである穀物を育てるには、もちろん大量の水が必要になる。
主なエサとして挙げられるトウモロコシは、1kgあたり1,800リットルもの水を必要とする。牛は1日50kgほどの飼料を出荷までの約700日間、毎日食べるのである。
その他、牛舎内を掃除するためや、様々な機器を洗浄するためにも使われていることを考えると、とてつもない量の水が使われていることは想像に難しくないだろう。
実際、牛丼たった1杯で約2,400リットル、ビーフハンバーグ1個で約3,000リットルもの水が使われると言われている。
このように、間接的に消費している水のことを「バーチャルウォーター」と呼ぶ。
タンパク質を積極的に摂取しているスポーツ関係者は、頭の片隅に置いておいた方がよいだろう。
一般の方よりも密に繋がっているのだから。
食料自給率が40%未満と極めて低い我が国は、言い換えれば大量のバーチャルウォーターを輸入・消費しているとも言える。
よって、世界のいたるところで発生している水不足・渇水問題は、他人事では済まされないと言えよう。
水と人とスポーツと
とても有り難いことに、私もあなたも、日々の水に困るような国に生まれてはいない。
しかし、日本を始めとした先進国の人々が、今のままの生活を続けていったのでは、「この先も水に困らない」ということは言えないであろう。マイクロプラスチックを筆頭に明らかに水が汚染されており、ただでさえ少ない使える水が更に少なくなっている現状があるからである。
ゆえに運動指導者やスポーツ選手は、目の前にある水や食べ物の栄養だけを学んでいてはダメであり、その背景にある地球環境にこそ目を向け、「50年後の地球にとってよりベターな生活、食習慣はどのようなものか」ということを、本気で考え行動していく必要があるのではないだろうか。
※こちらも合わせてご覧ください
運動指導者が栄養学を学んでいるだけではダメな理由 ① 空気と人とスポーツと
https://fcl-education.com/nutrition/air-sports/
栄養素を考えない栄養学 豊かな自然があってこそ、豊かな栄養が得られる
https://fcl-education.com/nutrition/nutrition-body/fcl-nutrition-nature-performance-up/
執筆者紹介
久保山誉
□保有資格
NESTA(National Exercise & Sports Trainers Association)認定
ニュートリション(栄養学)スペシャリスト
ダイエット&ビューティースペシャリスト
シニアフィットネストレーナー
ファイトライフトレーナー協会認定 ファイトライフトレーナー
静岡県生まれ(1976年)。高校時代よりレスリングを始め、大学時代に総合格闘技に転向。総合格闘技「修斗」にて、世界バンタム級4位まで登りつめる。基本的性分として「めんどくさがり屋」であるため、格闘技時代の減量においても「いかに楽にできないか」「心と身体にストレスがかかりにくい減量法はないか」と常に模索を続ける。その傍らフィットネスクラブで働き続け、個別運動指導6,000回以上、個別栄養指導600人以上を実施。60回以上に亘る自らの減量体験と、クライアントの減量体験を体系化し、「いかに楽にストレスをかけずにボディメイクをするか」ということを、書籍「たった10個のルールで疲れ知らずの極上の健康を手に入れる食事術」にまとめる。