2018.07.04
サッカーはサッカーをしなければ上手くならない サッカーはサッカーだけをしていても上手くならない
昨今「サッカーはサッカーをすることでしか上手くならない」という考え方が浸透している。
その意味は「サッカーを上手にプレーするための諸要素はサッカーというゲームを特徴づける諸要素の中でプレーすることで獲得される」というこで、サッカーに関する様々な思考はサッカーという文脈の上でしよう、という視点でもあり、逆に、脱文脈化された中で思考することへの注意的な意味合いもある。
また、「サッカーの高度化」も進み、海外の情報にも多く触れられることから、より早く組織的・戦術的なトレーニングを積ませることの重要性を喚起する人も増えてきたように感じる。
サッカーはサッカーだけしていても上手くならない
ただ、球技運動学系の理論によれば、ジュニアと呼ばれる時期においては、5~7割は全面的なトレーニングをすることが推奨される。
全面的とは簡単に言えば、サッカーだけでなく様々な運動を行おうということであり、「全面性の原則」と言われている。
なぜ様々な運動をすることが良いかというと、自分の身体を思った通りに動かす「運動スキル」の獲得は各種スポーツに必要な「スポーツスキル」の土台になると考えられているからだ。
体幹・上肢・下肢、肩・肘・前腕・手、脊柱・臀部・股関節・膝・足など、様々な部位を様々な課題に応じて動かすことが身体感覚を研ぎ澄まし、身体意識を変容することに繋がり、行為の前提条件を構築することに繋がるのだ。
また、一つの専門競技ばかり行うことは、特定の動作を繰り返し行うということであり、特定の動作の繰り返しはメカニカルストレスの蓄積に繋がり、メカニカルストレスの蓄積はスポーツ障害の発生に繋がることや、高度化と専門化が結び付き、過度なプレッシャーは「スポーツ嫌い」を助長することなど、心身の疲弊に繋げないためにも「サッカーはサッカーだけしていても上手くならない」というフレーズを念頭に置く必要があるだろう。
サッカーだけがスポーツではない
「多様な運動経験を積むこと」は競技力向上のためだけではなく「適正種目の選択の機会の増加」という意味においても重要だ。
ジュニア年代では、どのようなスポーツに関心があるのか、スポーツとどのように向き合っていきたいかなどの明確な意思を持っている選手は多くなく、意欲や関心が向かう先を大人が強制すべきでもない。
意欲や関心が向くことは、何かを学ぶ際には重要だ。
なぜなら「注意」や「判断」などの認知過程が活性化するからであり、認知過程が活性しないところに学びはない。
そういう意味で、ジュニア年代での「専門化」は早すぎるのであり、チーム間の移籍問題のみならずスポーツ間の移籍も、別の角度ではあるが話題に上がるべきで、つまりは「サッカーだけがスポーツではない」という広い視野を持つ必要があるということだ。
そして、我々はスポーツ=競技スポーツと考えてしうのだが、これらには明確な違いがある。
スポーツを「勝つこと・上手くなること」のみの文脈で考えてしまうことは、「子供の可能性」や「心身の健全な発達」を考える際には好ましくない、ということを肝に銘じておく必要がある。
スポーツだけが人生ではない
スポーツシーンにおいて、「目標を立てること」「それを達成すること」「達成するまであきらめないこと」など「一つのことをやり続ける精神」が強調されやすく、そういった空間では「やめるは逃げ」という空気観が醸成される。
果たして本当にそうだろうか。
また、我々は無条件にスポーツをすることは健全、教育的効果がある、などの「スポーツに対する盲目的かつ絶対的な信頼」があると言える。
先ほど申し上げたように、学びには「意欲」や「関心」こそが大事だと考えられており、学びとは「自己生成」だ。
では、「意欲」や「関心」はどのように生まれるのだろうか。
それは「感情的な経験」からである。
ジュニア年代の「育成」に関わるのであれば、「様々な運動経験」を超えて「様々な感情経験」という枠組みをもつ必要もあるのだ。
気楽さ自由さの中に
サッカーはサッカーをすることでしか上手くならない。
サッカーはサッカーだけをしていても上手くならない。
ただし、サッカーだけがスポーツではなく、サッカーやスポーツだけが人生でもない。
そういったある種の「気楽さ」「自由さ」の中にジュニア年代を位置づけ、関わる大人がフラットな思考を持つことが重要な気がする。
そして何より、スポーツを通して成長しなければならないのは、大人の方である。
※こちらも合わせてご覧ください
サッカーの楽しさとは何か 勝つこと上手くなることを超えて
https://fcl-education.com/raising/independence-coaching/junior-competition-education-recreation/
指導者が自身を育成することが育成の始まり
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/sidousha-jishinwo-ikusei-ikuseinohajimari/
「育成と勝敗のどちらが大事であるか」という二項対立の図式を超えて
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執筆者
Football Coaching Laboratory代表 髙田有人
選手時代にはブラジルでの国際大会や、数多くの全国大会を経験。高校卒業と同時に指導者活動をスタートし、地域のジュニア年代で約10年の指導経験がある。ドイツへの短期留学やサッカーの枠を超えて、教育学、スポーツ思想・哲学、身体論など様々な分野も学び、全人格的な育成の可能性と実践、そのための指導者の養成をテーマとし活動している。