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2017.01.27

ファンクショナルトレーニングの本質

 昨今ではパフォーマンストレーニングやファンクショナルトレーニング等の言葉が注目され、「より動けるようになる」事がトレーニングの目的として明示されるようになったような印象を受ける。

ファンクショナルトレーニングとは

  こうした「ファンクショナルトレーニング」と言われるものはどういったものなのだろうか。これらを実際に観察してみると、従来行われてきたバーベルやダンベルを用いたスクワットやベンチプレスから、吊り輪を用いたものや筒型の器具を振り回すもの、太いロープを連続的に打ち付けるもの、回旋しながらスクワットを行う等の様々な負荷様式へと運動が変化している事に気が付く。 

  一昔前の国内トレーニングシーンではパワークリーンやスナッチが筋力をパワーに転換する「機能的トレーニング」として位置づけられていたような印象があった。こうした種目を選手に習得させる事に仕事の時間の大半を割いていたトレーニング指導者もたくさんいた。今日ではパワークリーンを始めとするこれらの爆発的・弾道的な力発揮を行う種目への機能獲得への期待は一段落して、より運動方向の自由度が高くなった種目群が「ファンクショナルトレーニング」と呼ばれ、もてはやされているのかも知れない。 

 こうしたトレーニングシーンで起きている変化を見て思う事は、「負荷の方向性が多様である種目」や、「体幹を安定させながら行う種目」等と「機能(ファンクション)獲得」はイコールなのか?という事だ。 

ファンクション(機能)とは 

 この事を考えるためには第一に「機能」について定義する必要があるだろう。一般的にトレーニングシーンにおける「ファンクション」とは身体活動に関わる事象、中でも運動行為自体を発現する直接的器官である運動器の機能について表していると考えられる。また、そこには「筋の肥大」から得られる筋力や筋パワーの向上ではなく、複合的かつ他方向性への運動課題の遂行の結果得られる「運動巧緻性の向上」という意味合いが含まれているようだ。 

 本来、こうした複合的かつ他方向性への運動課題を遂行する要素は「調整力( Motor Coordination ) 」と呼ばれ、以下のような能力に分類される。

・一連の運動の構造を理解する

・運動中の自身の姿勢維持・変化や物体の位置的変化に必要な力発揮を理解する

・運動中に身体の静的・動的平衡を保つ事ができる

・局面毎に変化する状況に反応して運動を行う事ができる

・様々なリズムでの運動を行う事ができる

・同一または異なる動作と動作を連係させる

・ある運動を今までと異なる方法で遂行する

・事前に予測し運動を行う事ができる 

 これらの要素はそれぞれが独立還元されるものではなく、相互に影響を及ぼし合うものと考えられる。さらに、ここに筋力・スピード・持久力等のエネルギー系の体力要素や柔軟性、心理面が渾然となって発揮されるものが身体運動パフォーマンスである。 

手段の目的化~トレーニングのためのトレーニング~ 

 これらの事を考えると、「負荷の方向性が多様である種目」や、「体幹を安定させながら行う種目」を行えば身体機能が向上し、さらにはスポーツパフォーマンスも向上する、などという考え方は安直に過ぎる事が容易に想像できるだろう。 

 吊り輪を使う、円筒形の物体を振り回す、ロープを振る、回旋してスクワットをする、ダンベルプレスを交互に行う。これらを行う事が「ファンクショナルトレーニング」ではない。これらはただの運動に過ぎない。しかも、運動自体が目的と化したテーマのない運動だ。 

 これでは、従来行われて来た「トレーニングのためのトレーニング」と呼ばれるボディビルトレーニングと比して「ファンクショナルトレーニング」の何が優れた点だと言えるのだろう。むしろ、ボディビルトレーニングによる筋肥大はスポーツパフォーマンスに対する様々なメリットが明らかになっており、小手先の「ファンクショナルトレーニング」などを行うより余程意味があるのではないだろうか。 

 そもそも、大筋群の筋力低下が原因で移動能力が低下しているような場合、筋肥大がファンクションの向上に寄与する事が考えられる。この場合、古典的なスクワットやマシーンを用いたレッグプレスは「ファンクショナルトレーニング」と言って差し支えないだろう。 

方法論ではなく、手段と目的が合致しているトレーニングを目指す

  こうした事から結果として言える事は、「ファンクショナルトレーニング」と呼ばれる方法論などこの世界には存在しない、という事だ。 

 ある選手にとってはローテーショナルスクワットが必要で、ある選手にとってはスクワットが必要なトレーニングになるかも知れない。ある選手にとってはジャークが必要で、ある選手にとってはケトルベルスイングが必要かも知れない。それらは達成すべき目的と選手・指導者を囲む環境から導き出される1つの手段であり、手段が目的に先立つ事はない。 

 どんな手段もその本来的な意味・目的を忘れ表面をなぞるだけであれば「テーマのない運動」に成り下がるが、手段と目的が合致したものであればそれは常に機能を果たすものなのではないだろうか。

 

※こちらも合わせて読んでいただくと理解が深まります。
ウェイトトレーニングとスポーツパフォーマンス
https://fcl-education.com/training/performance/weight-training-sports-performance/

 

 

執筆者紹介
山木伸允

Movefree代表 
Athla conditioning arts 代表 

□サポート経歴
桐光学園高校バスケットボール部
慶應義塾大学体育会バスケットボール部
慶應義塾大学体育会剣道部
早稲田大学アルティメット部
明治大学体育会バスケットボール部
明治大学体育会バレーボール部
bjリーグ京都ハンナリーズ
bjリーグ東京サンレーヴス 他

□学歴
早稲田大学商学部卒業
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了
慶應義塾大学大学院後期博士課程健康マネジメント研究科スポーツマネジメント専修単位取得満期退学
日本鍼灸理療専門学校卒業

□保有資格
ナショナルストレンス&コンディショニング協会認定スペシャリスト
日本体育協会公認アスレティックトレーナー
鍼灸あん摩マッサージ指圧師
National Academy of Sports Medicine Performance Enhancement Specialist / Corrective Exercise Specialist
EXOS Performance Specialist
メンタルケア学術学会メンタルケア心理士

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