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2018.08.20

育成年代に蔓延する「がむしゃら」による負の連鎖 反応スピードと判断スピード、そして判断の質

スピードという言葉には多くの意味が内在する。

特にサッカーの競技性を考えれば、その細分化はマストである。

しかし昨今の育成年代の指導の中には、サッカーの競技性を無視した過度な走り込みや、「足腰を強くする」など抽象的な表現を用いた指導が蔓延している。

今回は特に「走力」のような身体的要素におけるスピードを実際の試合展開やゲームモデルと照らし合わせ、サッカーの競技性を理解した上で、昨今の育成年代に蔓延する「がむしゃら」を考察する。

高体連の傾向とサッカーの競技性

「走力」という点で考えると、3~8ⅿ程度のスプリントや反応のスピードはネガティヴトランジション時のゲーゲンプレス、バックラインに対するチェイシング・プレッシングの強度と深く関連している。

反応のスピードが速ければ速いほど、ボールホルダーまでの到達時間が短くなるのは言うまでもない。

つまり、足が速い選手がいることで、ゲームスピードが必然的に高まるのだ。

同様に、「判断のスピード」についてもゲームスピードに深く関与している。

ボールロスト後の判断に要する時間が短ければ短いほど、ゲーゲンプレス時のボールホルダーへの到達時間は短くなる。

多くの高体連のチームがポゼッション思考を持たず、試合全体を通してインテンシティを高めるアプローチをとることについて、上記した様な「判断のスピード」と「反応のスピード」を高めることは必要不可欠であるが、多くの指導者はこれらの要素を本質的には無視したトレーニング、指導を行う。

俗にいう「がむしゃら」である。

本来、ボールを獲られたらがむしゃらに追いかけるプレッシングは「判断のスピード」は高くとも、「判断の質」が伴わないため、正確性には欠ける。

しかし、そもそも高体連にボールを回す(適切なポジションと判断)ことに重きを置くチームがいないことで、がむしゃらにボールを追いかけても獲れてしまう、結果的にボール奪取成功率が高いこともこのようなスタイルのチームが多い原因の一つだ。

考えることよりもいち早く体を動かすほうがボール奪取は成功しやすいと錯覚する為、選手は根拠を持たずに判断をしてしまう。

このようなプロセスを経て「がむしゃら」がチームのコンセプトになると、選手は思考停止する。

勿論、このような「がむしゃら」なことを80~90分間繰り返せば選手の疲労度はピークを迎え運動量は低下する。

運動量の低下はこのようなコンセプトをもつチームにとって最も大きな課題であり、指導者はこの課題を克服しようと「走り込み」を選手に行わせるのだ。

競技性を無視したトレーニング

しかし、ボールを一切使用しない「走り込み」は上記したようなプレス時の「判断のスピード」を放棄したトレーニングであることは言うまでもない。

競技性を無視したトレーニングの完成である。

このような負の連鎖にハマった指導者は、大抵の敗因を「中盤のインテンシティが足りない→運動量が足りない→走り込みが足りない」の思考プロセスを経て選手たちにオーバーワークを強要し、選手のコンディションを落とし、パフォーマンスを低下させる。

チームの指針となるコンセプトが誤ったものになれば、それを実現しようとするトレーニングのアプローチに狂いが出るのは当然のことだ。

育成年代という事を加味すればチームコンセプトを単一のものに絞る必要もないが、かといって「がむしゃら」の様な抽象的な目標を持ってはいけない。

今回は、高体連を例に挙げたが、ジュニア年代においても同じような現象は見受けられる。

多様性を持ちながら「選手を育てる」ことを理念に、具体と抽象のバランス感覚を見誤らないことが指導者には求められているのだ。

 

※こちらも合わせてご覧ください

運動量という抽象的な表現を超えて サッカーに必要なゲーム体力を考える
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/game-physical/

「走れる」「背が高い」などのフィジカル的要素で適正ポジションは決めても良いのか
https://fcl-education.com/raising/independence-coaching/fast-tall-position/

 

執筆者
JEC

中高大のサッカー競技経験や高校サッカー指導経験を経て、SNS上での戦術分析、ブログ「フィジカル的観点で考える個人戦術」において、部活動や育成年代のサッカーに関しての情報発信を行う。

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