2018.02.01
目の前の試合に勝利することだけ「勝つ」ことなのか 育成における「勝ち」について今一度考える
小さな子供でも、大人でも、勝負となったら誰だって勝ちたい。
勝ったらうれしいし、負けたら悔しい。
みんな試合に出たいし、試合で勝ちたいから練習を頑張る。
これに異論を挟むつもりはないし、勝利を求めることが悪いことのはずはない。「勝たなくてもいいよ」といわれる勝負が面白いはずもない。
でも、勝つことだけがすべてなのだろうか。
勝ちにだけこだわり、勝つための戦い方を模索続けることが本当に子供たちの成長になんらかのものをもたらすのだろうか。
あるいは「勝つ」とはなんだろうか。目の前の試合に勝利することだけ「勝つ」ことなのだろうか。
だからこそ、まず問われなければならないのは「どこに成功の基準を設けるか」だ。
そう考えてみると育成期において最大の目的・目標とは「可能な限りすべての子供たちが、少年となり、青年となる過程の中で、将来サッカー選手として、そして社会人として自立した生活が営めるようになるための基盤を作り上げること」だと思う。
目の前の勝利だけでしか「勝ち」というものをとらえることができないと、たとえば少年サッカーである特定の早熟の子供に依存してしまうという現象が起きてしまう。
でもそのとき勝ててもその子はその後どうなってしまうだろうか。
フィジカル差はいつまでも圧倒的なままではない。
成長スピードが遅い子でもやがては追いついてくる。
アドバンテージをなくした後、その子に戦えるすべは残っているだろうか?
「そのときが来てから、チームプレーとしての戦い方を学ばせればいい」
そんな声を聞くこともある。でも考え方や自分のプレースタイルを変え、違った価値観を受け入れるのはたやすいことではない。
言われたようにチームプレーをやっているつもりででもやれなくて、自分のプレーも通用せずに一人でいらいらし、やがてサッカーへの思いもなくなり、グラウンドから姿を消していく。
そうしたかわいそうな「元タレント」たちを数多く知っている。
サッカーは紛れもないチームスポーツだ。
そのあり方は足を踏み入れた最初から知っていかなければならないものではないだろうか。
チームプレーとはただ相手のことに気を配ってパスをまわし続けることではない。
なんとなく一生懸命走っている風に見せてごまかすことでもない。
チームの中での役割を知り、サッカーの中でのメカニズムを身につける。
その中で自分のできるプレー、やりたいプレーにチャレンジしていく。やがてその集まりが、ここの合計以上の力を生み出していく。
どんなカテゴリーでもジャンルでも、そうした瞬間と向き合える瞬間があると思う。
全国大会という華々しい舞台でなくてもいい。自分たち以外誰も興味がないであろう地区大会一回戦であっても、自分たちの思いがシンクロし、自分たちのイメージが重なり合い、自分たちの力を高めあえる試合を経験することができたら、それは紛れもなく大きな「勝ち」を手にしたことになるはずだ。
指導者は勝ちたいと思っている子供の思いを受け止め、勝敗との向き合い方を伝えていく責務を担う存在だ。
「勝つ」か「負ける」かではなく、試合に向けての心構え、勝ってもおごらず、負けてもへこたれずを時間をかけて実につけさせていく。
サッカーはチームスポーツであり、相手がありきのスポーツだ。
どんなに自分たちが頑張っても、調子がよくても、最高のプレーを見せても、相手がそれ以上の状態だったら負けることも普通にある。
悔しさはあるだろう。でも、そうしたときは素直に相手をたたえる気持ちが大切ではないだろうか。
そして忘れてはいけない。僕らはその大会に勝つがためだけにサッカーをやっているのだろうか。
タイトルがつかない試合だったらモチベーションはあがらないものなのだろうか。
僕は練習中のミニゲームでも、練習試合でも、公式戦でも変わらずピッチを全力で駆け巡っていた。
それはいつでもサッカーがしたくてたまらなかったからだ。
勝ち負けはその後の結果論。
タイトルがかかった試合でしかモチベーションが上がらないのは、サッカーのもつあふれんばかりの魅力を味わえていないからということにならないだろうか。
育成における「勝ち」について今一度深く考えてほしいと思う。
※こちらも合わせてご覧ください
サッカー漬けの選手達 関わる大人が考えるべきこと
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/soccer-football-coach-parent/
ドイツにおけるサッカージュニア年代の位置づけと取組み
https://fcl-education.com/raising/sportsmanship/junior-germany-football/
執筆者
中野吉之伴
地域の中でサッカーを通じて人が育まれる環境に感銘を受けて渡独。様々なアマチュアチームでU-12からU-19チームで監督を歴任。09年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。オフシーズンには「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に日本各地に足を運んで活動をしている。17年10月からはWEBマガジン「子供と育つ」(http://www.targma.jp/kichi-maga/)をスタート。