2018.08.03

今、指導者に求められていることは何か スポーツ選手を育てること以上に大切なこと


~選手は、俺が育てた!
2017年のデータですが、2種登録の高校3年生約60,000人のうち、Jリーガーになれたのは24名だったそうです。
確率にして0.04%。
2500人に1人。
1チーム、同じ学年に20名いるとしたら、近所の125チームの中から1人がJリーガーになるという単純計算になります。
なので、上記の発言は、それはそれは、誇ってよい素晴らしい成果であると思います。
2499人の選手たちの人生
しかし、逆に言えば、残りの2499名のほとんどは、サッカー選手としてのプロにはなれず、普通の社会人として18歳以後の人生を歩んでいくということになります(大学、社会人以後のプロへのキャリアはとりあえず置いておいて)。
ほとんどの指導者にとって、プロサッカー選手を育てるのは、ほぼありえないことです。であるならば、プロにならない子供たちといかに向き合っていくか、そこにこそ良い指導者とそうでない人との違いが生まれるのではないかと考えます。
子どもたちはいつか自分のもとを旅立ちます。それぞれ次のステージのスタート地点に立った時に必要なことはなんでしょうか。
医療の面から考えると、それは、「心身ともに健康であること」となります。
すなわち、良い指導者とは、「心身ともに健康な状態で次のステージに送り出す」ことができる人物であること、と言えます。
では、健康とは何でしょうか?
世界保健機関により提案された定義では、「健康とは、身体的、精神的、霊的、社会的に完全な良好な動的状態であり、たんに病気あるいは虚弱でないということではない」とされています。
つまりは、体が丈夫だからということだけでなく、人間を取り囲む様々な要因により健康状態が決定されるということです。
健康な状態でスポーツに取り組む、スポーツを通じて健康になる、ということを考えるならば、単にそのスポーツを行うのが上手くなるだけでは足りないということになります。
スポーツ指導者は、健康の背景にある精神や社会に関することも考慮しながら、活動していく必要があります。
昨今、スポーツにおける繰り返す外傷や、なかなか治らない痛みに関して、そのリハビリテーションの現場において、心理、社会面に考慮したアプローチの必要性が説かれています。
心理的に迷いがあったり、プライベートで問題を抱えていたりする選手は、ケガをしやすい傾向にあると報告されています。障害予防の観点からも、選手を心理・社会面まで含めた全人的な視点でとらえていくことが大切になります。
動機づけ、という観点から
健康な状態でスポーツに取り組むために重要なことの一つとして、内発的動機づけがあげられます。
これは、いわゆる「好きこそものの上手なれ」ということです。やらされるのではなく、自ら興味を持ったことに対し集中し喜んで取り組み創意工夫する。
そのような状態こそが健康なスポーツ体験の基盤となると言えます。
動機付けを考えるときには、その人がどのようにスポーツを捉えているかによって、動機のレベルが変わってきます。
スポーツって、なんなのでしょうか?
いろいろな人がいろいろなことを述べています。自分の信じる観点から。
十人十色ではなく、千人千色といってもよいくらいです。
ということは、スポーツの捉え方は人それぞれであり、そこに取り組む動機には、様々な階層であったり、幅であったり、その時々の集中の度合いであった多様性があると言えます。
好きだから、プロになりたいから、身体を動かす機会が欲しいから、痩せたいから、たまたま、親に言われたから、なんとなく・・・・・・。
指導者は、その様々な動機を持つ人間に対し、自分の信じる道を押しつけるだけでよいはずがありません。
“~道”と称して、一つのことだけを突き詰める、ある一つの方法で突き詰めることを強要するような風潮は、一部の突き抜けた選手を生み出すことにかけては最適なのかもしれません。
しかし、残りの数千名の犠牲の上に成り立っていると言っても過言ではないはずです。
1つのことを突き詰め続け、ある日突然それが無くなったとしたら、それだけしか行ってこなかった人間はその日からどうするのでしょうか?
特にプロスポーツの世界は、淘汰の世界です。競争だけに明け暮れた日々から解放されたときに、選手に残るモノは何になるでしょうか?
体罰という名の暴力
指導者の根深い問題としては暴力があげられます。
(体罰ではなく、暴力として表現すべきと考えます。)
日本サッカー協会には、「暴力根絶窓口」があります。2013年6月から2016年末までに寄せられた304件の相談のうち、小学生への暴力が145件であったと報告されています(朝日新聞、2017)。
暴力を行う指導者に共通していることとして、自分に暴力を受けてきた経験があり、そのことに対し「精神的に強くなった」などという肯定的な受けとめ方をしている人が多いとの報告があります。
また、子どもの行動を矯正するための躾と、自分の行為を合理化する特徴があると言われています。
それで精神的に強くなったことは確かでしょうし、一部の子どもの躾になることもあるでしょう。
しかし、その裏で、その暴力によりスポーツを続けることを諦めた選手も数多くいます。
繰り返される暴力は、負の記憶として残るだけでなく、脳にも影響を与えることが分かっています。
そのような暴力を受けてきた方々の脳を調べてみると、前頭前野の容積が少なく、痛みを伝達する神経が細くなっている、という特徴が認められます。
前頭前野は人格形成に関わる部分であり、その発達が不十分なことで社会生活が円滑に送れなくなる可能性があります。
痛みの感覚が鈍くなるのは、外傷などに対する身体の危機管理能力の低下につながる可能性があります。
暴力はどの時代でも言語道断ですが、多くの情報が行き交う現代において、自分の経験のみに頼った指導しかできないのは、指導者としての資質に欠けていると言えます。
スポーツ選手を育てることよりも大事なこと
プロへ狭き門、健康という観点、動機づけ、経験のみに頼った指導の限界、という点から、指導者の資質について述べてきました。
今後、少子化が進む中で、日本スポーツ界の競技レベルを維持、向上させていくためには、才能を適切に確実に次のステージへと送りと届けていく必要があります。
才能とは、そのスポーツを好きでい続けること。
そのような社会的情勢の中で指導者に求められること。
それは、スポーツ選手を作り上げることではなく、ひとりの人間として成長を促し、大人としての成熟を促す礎を形作ることなのではないかと考えます。
※こちらも合わせてご覧ください
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執筆者
永田将行
理学療法士
NPO法人ペインヘルスケアネットワーク プロボノ
東小金井さくらクリニック
慢性痛に対する運動療法を中心に、一般の方からスポーツ選手まで幅広い方々にリハビリテーションを提供しています。