2018.11.26
運動指導者が栄養学を学んでいるだけではダメな理由 ① 空気と人とスポーツと
「鶏肉には100gあたり20gのタンパク質が含まれている」
「トマトのリコピンで身体をサビから守る」
「低カロリー食が余分な脂肪を付けないポイントである」
現代の栄養学は、カロリーなどの数値や栄養素といった表面的な情報、小手先の手段を伝えていることがほとんどで、栄養の本質からは大きく外れている。
栄養の本質とは、数値や栄養素ではなく、動物と植物が持つ「生命力」について考えること。
その「生命力」と切っても切れない関係があるのが「地球環境」である。スポーツに携わるあなたと、地球環境について改めて一緒に考えていきたい。
本当に危険にさらされているのは、地球ではなく人類である
あなたは、「澄んだ空気」と「汚れた空気」、どちらが良いだろうか?
あなたは、「キレイな水」と「淀んだ水」、どちらが良いだろうか?
あなたは、「数えきれないほどの微生物が生息し生命力溢れる土壌」と「農薬・化学肥料・工業用水で汚染され生命力が乏しい土壌」、どちらが良いだろうか?
答えを聞くまでもなく、空気・水・土壌の全て・・・ 前者であろう。
おそらく、あなたの家族や友人も同じ答えになるはずだ。
理由はいたってシンプル。
汚れた空気では肺や気管支といった呼吸器系への負担が大きく、淀んだ水では全身に酸素・栄養を運ぶ血液の質が低下する。
また、汚染された土壌では生命力あふれる野菜や果実は育つはずもないからだ。
ここで、イェシーバー大学のサウル氏の言葉を紹介します。
「悪化の一途をたどる環境汚染で、本当に危険にさらされているのは地球ではない。
むしろ人類である。地球は私たちが破壊しても間違いなく生き残り、生き物が群れをなす場所であり続けるだろう。
だが、人類は消滅し、神が地球上でなされている実験の現段階を終わらせてしまうかもしれない。」
環境問題に敏感な人たちが、よく「地球を救おう!」といったスローガンを掲げて活動しているのを目にすることがある。
しかし、私たち人間が地球の上に立ったような視点を持つことは、誤りと言わざるを得ない。
なぜなら私たち人間は、地球で生活させて頂いている自然の一部でしかなく、地球を支配・コントロールできるほどの力は持ち合わせていないからだ。
もしあなたが、何かのスポーツを指導していたり、親として1人の人間を育てているとしたら、それは子供を未来に送り届ける立場にあるということである。
また、もしあなたが現役のスポーツ選手として自分のために日々努力を重ねていたとしても、同じく子供たちに夢を与え、よりよい未来を作り上げることに大きな影響を及ぼす立場にあると言える。
そのような立場にあるからこそ、表面的な情報にすぎない栄養学という狭い視点だけで栄養と向き合うのではなく、「地球環境」という広い視点を持つことがとても重要であると考えている。
環境は、あなたの健康に大きな影響を及ぼす
ここで、高度経済成長期の公害について振り返ってみたい。
1955年~1973年の18年間は、年平均10%以上の経済成長を達成。エネルギーは石炭から石油に変わり、太平洋沿岸にはコンビナートが立ち並んだ。
※コンビナートとは、企業相互の生産性の向上のために原料・燃料・工場施設を計画的・有機的に結び付けた企業集団。あるいは、広義としてその企業集団が集中的に立地する工業地域のこと。
経済成長の陰で急速な工業化に伴い環境破壊が起こり、「水俣病」や「イタイイタイ病」、「四日市ぜんそく」「第二水俣病」といった公害病が発生(いわゆる四大公害病)。
大量生産のツケとして、高度経済成長期後半になるとゴミ・廃棄物などの公害の問題が深刻化したのである。
それを受け1967年8月3日に「公害対策基本法」が公布・施行。守るべき環境基準や排出規制についての決定がなされ、悪化の進行が食い止められたのである。
生まれて以来何十年という長い間、あなたは絶えず呼吸をしている
あなたは一日24時間で何回呼吸をしているだろうか。
3,000回? 5,000回?? そもそも想像できない?
では今から1分間、何回呼吸するのか計測してみてほしい。
出てきた数に1,440を掛ければ、24時間で何回呼吸をするかが算出できるからだ。
(よ~い、スタート。チクタクチクタク・・・)
もしあなたが、1分間で10回呼吸をしたとしよう。
それならば計算は簡単。
10×1,440=14,400回ということになる。
呼吸が浅く、12回だとしたら… 12×1,440=17,280回。
たった1日でその数なのである。1ヶ月間で、1年間で、はたまた一生で…と考えると、とてつもない数の呼吸を行うということがお分かりいただけることだろう。
その呼吸において、最も関係性の深い環境要因は「空気」である。
ここで、先ほど振り返った四大公害病の一つ「四日市ぜんそく」を少し掘り下げてみる。
1960年に石油コンビナートが建設されて以来空気が汚染され、地域一帯で喘息様の発作が続出。患者は主に65歳以上の高年齢層と10歳以下の若年層で、症状は眼の痛みとともに激しい咳、発作的な呼吸困難が数ヵ月にも及ぶ極めて悲惨なものであったという。
一日に約15,000回も行う呼吸であるがゆえに、空気が汚染されたら肺や気管支といった呼吸器系へ、すぐに影響が出るのは想像に難しくない。
公害対策基本法が施行されて50年、現代の空気は果たしてキレイなのか?
あなたは最近、工業地帯に点在する工場の煙突からモクモクとドス黒い煙が出ているのを見たことがあるだろうか。
また、ゴミ・産業廃棄物処理場付近から、ヒドイ悪臭が漂ってきて不快な思いをしたことがあるだろうか。
おそらく数少ないと予想する。なぜなら、我が国の科学技術は世界トップクラスであり、工場から排出される際、環境を汚染させない仕組みが整っているからである。
ここで世界保健機関(WHO)による世界103カ国、3,000ほどの大気環境モニタリングデータを見てみることにする。調査した地域のうち、80%の都市でPM2.5(微小粒子状物質)とPM10(粒子状物質)がWHOの基準値を超えていることが判明したのだ(2016年)。
PM2.5とPM10 には、炭素・硫酸塩・硝酸銀などの汚染物質が含まれていて、肺などの呼吸器系や血管系に深く入り込み、喘息・肺がん・脳卒中・心疾患などに罹患するリスクを高めることが知られている。
特に、人口の増加が激しいインドと中国の大気汚染は深刻な状況で、世界で最も大気汚染が深刻な都市の上位7つは、デリー・カイロ・ダッカ・カルカッタ・ボンベイ・北京・上海とのこと。
日本が上位に入っていないからといって、このデータを対岸の火事と思って見過ごしてはいけないだろう。
国は違えど同じ地球に住んでいる同志であるからだ。
実際、西よりの風が強まる冬から春先にかけて、中国からPM2.5の飛来量が増えているというニュースを盛んに見かけるようになっている。
自国の状況だけ気にかけていればよいという時代は、とうに過ぎているのである。
副流煙によって空気を汚染、害をまき散らす紙巻たばこ
「百害あって一利なし」
たばこを形容する時によく使われる言葉である。
紙巻たばこの煙には、わかっているだけで約4,000種類の化学物質が含まれ、そのうちニコチン・一酸化炭素・ホルムアルデヒドなど約200種類の有害物質、さらに約70種類の発がん性物質が含まれていることはご存知であろう。
ここでは、喫煙者が被る害については言及しない。
喫煙者本人が吸う主流煙以上に有害物質が含まれている副流煙について触れることにする。
副流煙に含まれるダイオキシン濃度は、ゴミ焼却場から出る排煙よりも約13倍高いというデータがある。
また、屋外で1人が喫煙するだけで、テニスコート2面分にたばこの煙が広がってしまう。
1日1箱(20本)吸っている喫煙者は、毎日テニスコート40面分、年間では東京ドーム290個分もの空気を汚染し続けていることになる。
たばこを吸うことによる健康被害を知っていながら吸い続けるのは「本人の自由」と言えなくもないが、周りの大切な家族・仲間への健康被害と、さらには地球を急速に、かつ思っている以上の広範囲へ汚染し続けている現状を、喫煙者はしっかりと把握すべきである。
把握した上でも「紙巻たばこを吸い続ける」という選択をした場合、これからの社会ではとてつもなく冷ややかな目で見られることになるであろう。
なぜなら、現代では空気をほとんど汚染しない「加熱式たばこ」という選択肢がしっかりと存在するからだ。
50年後の地球にとって
「あなたの身体は、あなたが食べた物でできている」
よく言われる言葉である。否定はしないが一歩踏み込む必要があると考えている。
少し言葉を修正して表現してみると、
「あなたの体調・パフォーマンスは、あなたが食べた物が育った環境によって大きく左右される」
ゆえに運動指導者やスポーツ選手は、目の前にある食べ物の栄養だけを学んでいてはダメであり、その背景にある食べ物が育った環境にこそ目を向け、「50年後の地球にとってよりベターな生活、食習慣はどのようなものか」ということを、本気で考え行動していく必要があるのではないだろうか。
※こちらも合わせてご覧ください
栄養素を考えない栄養学 豊かな自然があってこそ、豊かな栄養が得られる
https://fcl-education.com/nutrition/nutrition-body/fcl-nutrition-nature-performance-up/
小手先の手段ではなく、根本から「栄養」を見つめ直そう
https://fcl-education.com/nutrition/nutrition-body/eiyou-konnpon-mitumenaosu/
執筆者紹介
久保山誉
□保有資格
NESTA(National Exercise & Sports Trainers Association)認定
ニュートリション(栄養学)スペシャリスト
ダイエット&ビューティースペシャリスト
シニアフィットネストレーナー
ファイトライフトレーナー協会認定 ファイトライフトレーナー
静岡県生まれ(1976年)。高校時代よりレスリングを始め、大学時代に総合格闘技に転向。総合格闘技「修斗」にて、世界バンタム級4位まで登りつめる。基本的性分として「めんどくさがり屋」であるため、格闘技時代の減量においても「いかに楽にできないか」「心と身体にストレスがかかりにくい減量法はないか」と常に模索を続ける。その傍らフィットネスクラブで働き続け、個別運動指導6,000回以上、個別栄養指導600人以上を実施。60回以上に亘る自らの減量体験と、クライアントの減量体験を体系化し、「いかに楽にストレスをかけずにボディメイクをするか」ということを、書籍「たった10個のルールで疲れ知らずの極上の健康を手に入れる食事術」にまとめる。